RETRO少年の懐古録

ミステリー、ホラー、サイエンス、サスペンス、SF、怖い話……

【未解決事件】青ゲットの殺人事件

青ゲットの殺人事件

 

○概要(Wikipediaより引用)

青ゲットの殺人事件(あおげっとのさつじんじけん)とは、1906年明治39年)に発生した殺人事件である。殺人罪としての時効を過ぎた為に未解決事件の一つとして扱われている。

 

○事件発生

1906年2月12日

 

○事件経過

 午前5時頃、当時はもちろん防犯カメラも無かった為、容姿はよく分かっていないが、青いゲット(毛布)をかぶった35歳くらいの男が問屋を訪ね、番頭の加賀村吉(30歳)に「近所の叔母が病気になったので来てくれ」と言った。村吉はこの時大雪であったことなどから男を信用し、付いて行った。

 その後、同様の手口で村吉の自宅から母・キク(59歳)、村吉の妻・ツオ(25歳)を連れ出した。

 男は村吉の次女(2歳)も連れ出そうとしたが、妻が連れ出される前に隣家の女性に留守番と子守りを頼んでおり、男との応対をした女性が次女の連行を拒否。そのため次女は助かった。長女は子守りとして他家に居たために留守であった。

青ゲットの男に連れ出された3人は、その後いつまでたっても戻らず、調べると新保村の親戚には誰も病人などなく、使いの者を頼んだ事実もないことが分かった。

三国警察署に置かれた捜査本部は、九頭竜川一帯の大掛かりな捜索を行い、村吉家裏手の竹田川に係留してあった小船の船べりに、血痕が付着しているのを発見した。

 そして小船から少し下流の川底から、妻ツオの遺体が沈んでいるのが見つかった。さらに翌日には母キクの遺体が九頭竜川の河口付近に沈んているのが発見され、引き上げられた。

 しかし、村吉の遺体はその後の捜索でもついに発見することは出来なかった。

 村吉の遺体が発見されなかったことから、村吉主犯説が捜査本部の中でも取りざたされたが、新保橋の血痕が1人分にしては多すぎることなどから、やはり村吉も殺害され遺棄されたという判断になった。

 状況や証言から捜査本部が見立てた事件の経過は、まず青ゲットの男は店から村吉を連れ出して、新保橋に差し掛かったところで殺害して川へ落とした。次に自宅を訪れ母キクを連れ出し、同じく新保橋で殺害して川に落とした。続いて妻ツオを「舟で対岸の新保村へ渡す」とでも言って船べりに誘い出し、殺害して川へ遺棄した。その後、娘も連れ出そうとしたが隣家の女性に拒まれて失敗した、というもの。

 捜査本部は男が一家を次々に連れ出して、残忍に殺害していることから、村吉に強い恨みを抱いた者が犯人の可能性があると推理した。しかし村吉は真面目で酒も飲まず、良く働き若くして番頭に取り立てられるなど大変評判は良かった。結局村吉を恨んでいる者は見つけることが出来ないまま、捜査は暗礁に乗り上げた。

 そのまま捜査は進展することなく、1921年にはついに時効を迎え、迷宮入りとなってしまった。ところが、事件から20年過ぎた1926年12月12日、京都府警に窃盗の罪で逮捕されていた谷本仁三郎という男が、「自分がこの事件の真犯人である」と告白した。

 「20年ぶりの真犯人判明」と報道されたが、窃盗の前科が多数ある窃盗犯の谷本が犯したにしては不自然な点が多かった。まず窃盗目的だとして、このような手のかかる事をわざわざする必要が無く、強盗するにしても普通に押し入れば良く、複数回に分け連れ出して殺害する意味が無い。事実、犯人は金品を盗ることが出来ないままに終わっている。また、逮捕された谷本が証言した他の事件においても、「でたらめを述べている節が二、三ある」と警察が疑問を呈していることからも、谷本の証言は怪しく、真犯人とは考えにくい。

 しかし、すでに時効を迎え捜査資料も散逸していたことから、結局真相は解明されないままに終わった。

 

○社説

手掛かりなし、目撃者なし、そして被害者の一人は行方不明のまま……

恐ろしい事件です。

のちのち出頭してきた男は何か知っているんでしょうか?

 

【2ch怖い話名作選】旅館の求人 (感想付き)

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丁度2年くらい前のことです。旅行にいきたいのでバイトを探してた時の事です。

暑い日が続いてて汗をかきながら求人をめくっては電話してました。

ところが、何故かどこもかしこも駄目,駄目駄目。

擦り切れた畳の上に大の字に寝転がり、適当に集めた求人雑誌

ペラペラと悪態をつきながらめくってたんです。

 

不景気だな、、、節電の為、夜まで電気は落としています。

暗い部屋に落ちそうでおちない夕日がさしこんでいます。

窓枠に遮られた部分だけがまるで暗い十字架のような影を畳に落としていました。 、、遠くで電車の音が響きます。

 

目をつむると違う部屋から夕餉の香りがしてきます。

カップラーメンあったな、、」私は体をだるそうに起こし散らかった求人雑誌をかたずけました。

ふと、、偶然開いたのでしょうかページがめくれていました。

 

そこには某県(ふせておきます)の旅館がバイトを募集しているものでした。

その場所はまさに私が旅行に行ってみたいと思ってた所でした。

条件は夏の期間だけのもので時給はあまり、、というか全然高くありません

でしたが、住みこみで食事つき、というところに強く惹かれました。

 

ずっとカップメンしか食べてません。まかない料理でも手作りのものが食べれて、しかも行きたかった場所。

私はすぐに電話しました。

 

「、、はい。ありがとうございます!○○旅館です。」

「あ、すみません。求人広告を見た者ですが、まだ募集してますでしょうか?」

「え、少々お待ち下さい。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ザ、、、ザ、、ザザ、、、

・・い、・・・そう・・・・だ・・・・・・・・」

受けつけは若そうな女性でした。

 

電話の向こう側で低い声の男と(おそらくは宿の主人?)小声で会話をしていました。

私はドキドキしながらなぜか正座なんかしちゃったりして、、待ってました。

やがて受話器をにぎる気配がしました。

 

「はい。お電話変わりました。えと、、、バイトですか?」

「はい。××求人でここのことをしりまして、是非お願いしたいのですが」

「あー、、ありがとうございます。こちらこそお願いしたいです。いつからこれますか?」

「いつでも私は構いません」「じゃ、明日からでもお願いします。すみませんお名前は?」

「神尾(仮名)です」「神尾君ね。はやくいらっしゃい、、、」

 

とんとん拍子だった。運が良かった。。私は電話の用件などを忘れないように録音するようにしている。

再度電話を再生しながら必要事項をメモっていく。

住みこみなので持っていくもののなかに保険証なども必要とのことだったのでそれもメモする。

その宿の求人のページを見ると白黒で宿の写真が写っていた。

こじんまりとしているが自然にかこまれた良さそうな場所だ。

 

私は急にバイトが決まり、しかも行きたかった場所だということもあってホっとした。

しかし何かおかしい。私は鼻歌を歌いながらカップメンを作った。

何か鼻歌もおかしく感じる。日はいつのまにかとっぷりと暮れ、あけっぱなしの窓から湿気の多い生温かい風が入ってくる。

私はカップメンをすすりながら、なにがおかしいのか気付いた。

 

条件は良く、お金を稼ぎながら旅行も味わえる。女の子もいるようだ。

旅館なら出会いもあるかもしれない。だが、何かおかしい。

暗闇に窓のガラスが鏡になっている。その暗い窓に私の顔がうつっていた。

 

なぜか、まったく嬉しくなかった。。理由はわからないが私は激しく落ちこんでいた。

窓にうつった年をとったかのような生気のない自分の顔を見つめつづけた。

 

次の日、私は酷い頭痛に目覚めた。激しく嗚咽する。風邪、、か?

私はふらふらしながら歯を磨いた。歯茎から血が滴った。

鏡で顔を見る。ギョッとした。目のしたにはくっきりと墨で書いたようなクマが出来ており、

顔色は真っ白。、、、まるで、、、。

バイトやめようか、、とも思ったが、すでに準備は夜のうちに整えている。

しかし、、気がのらない。そのとき電話がなった。

 

「おはようございます。○○旅館のものですが、神尾さんでしょうか?」

「はい。今準備して出るところです。」

「わかりましたー。体調が悪いのですか?失礼ですが声が、、」

「あ、すみません、寝起きなので」

「無理なさらずに。こちらについたらまずは温泉などつかって頂いて構いませんよ。

初日はゆっくりとしててください。そこまで忙しくはありませんので。」

「あ、、だいじょうぶです。でも、、ありがとうございます。」

電話をきって家を出る。あんなに親切で優しい電話。ありがたかった。

 

しかし、電話をきってから今度は寒気がしてきた。ドアをあけると眩暈がした。

「と、、とりあえず、旅館までつけば、、、」

私はとおる人が振りかえるほどフラフラと駅へ向かった。

 

やがて雨が降り出した。

傘をもってきてない私は駅まで傘なしで濡れながらいくことになった。

激しい咳が出る。「、、旅館で休みたい、、、、」

私はびしょぬれで駅に辿りつき、切符を買った。そのとき自分の手を見て驚いた。。

カサカサになっている。濡れているが肌がひび割れている。まるで

老人のように。「やばい病気か、、?旅館まで無事つければいいけど、、」

 

私は手すりにすがるようにして足を支えて階段を上った。何度も休みながら。

電車が来るまで時間があった。私はベンチに倒れるように座りこみ苦しい息をした。。

ぜー、、、ぜー、、、声が枯れている。

手足が痺れている。波のように頭痛が押し寄せる。ごほごほ!咳をすると

足元に血が散らばった。私はハンカチで口を拭った。血がベットリ。。

 

私は霞む目でホームを見ていた。

「はやく、、旅館へ、、、」

やがて電車が轟音をたててホームにすべりこんでき、ドアが開いた。

乗り降りする人々を見ながら、私はようやく腰を上げた。腰痛がすごい。

フラフラと乗降口に向かう。体中が痛む。あの電車にのれば、、、、

そして乗降口に手をかけたとき、車中から鬼のような顔をした老婆が突進してきた。

 

どしん!私はふっとばされホームに転がった。老婆もよろけたが再度襲ってきた。私は老婆と取っ組み合いの喧嘩を始めた。

悲しいかな、相手は老婆なのに私の手には力がなかった。

「やめろ!やめてくれ!俺はあの電車にのらないといけないんだ!」

「なぜじゃ!?なぜじゃ!?」

老婆は私にまたがり顔をわしづかみにして地面に抑えつけながら聞いた。

「りょ、、旅館にいけなくなってしまう!」

やがて駅員たちがかけつけ私たちは引き離された。

 

電車は行ってしまっていた。私は立ち上がることも出来ず、人だかりの

中心で座りこんでいた。やがて引き離された老婆が息をととのえながら言った。

「おぬしは引かれておる。危なかった。」そして老婆は去っていった。

 

私は駅員と2~3応答をしたがすぐに帰された。

駅を出て仕方なく家に戻る。

すると体の調子が良くなってきた。声も戻ってきた。

鏡を見ると血色がいい。

私は不思議に思いながらも家に帰った。

 

荷物を下ろし、タバコを吸う。

落ちついてからやはり断わろうと旅館の電話番号をおした。すると無感情な軽い声が帰ってきた。

「この電話番号は現在使われておりません、、」

押しなおす

「この電話番号は現在使われておりません、、」

 

私は混乱した。まさにこの番号で今朝電話が掛かってきたのだ。

おかしいおかしいおかしい。。。

私は通話記録をとっていたのを思い出した。

最初まで巻き戻す。

 

、、、、、、、、、キュルキュルキュル、、、、、     ガチャ

 

再生

「ザ、、、ザザ、、、、、、、、はい。ありがとうございます。○○旅館です。」

あれ、、?私は悪寒を感じた。若い女性だったはずなのに、声がまるで

低い男性のような声になっている。

 

「あ、すみません。求人広告を見た者ですが、まだ募集してますでしょうか?」

「え、少々お待ち下さい。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ザ、、、ザ、、ザザ、、、

・・い、・・・そう・・・・だ・・・・・・・・」

ん??

私はそこで何が話し合われてるのか聞こえた。

 

巻き戻し、音声を大きくする。

「え、少々お待ち下さい。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ザ、、、ザ、、ザザ、、、

・・い、・・・そう・・・・だ・・・・・・・・」

巻き戻す。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・ザ、、、ザ、、ザザ、、、

、、むい、、、、こご、そう・・・・だ・・・・・・・・」

巻き戻す。

「さむい、、、こごえそうだ」

子供の声が入っている。さらにその後ろで大勢の人間が唸っている声が聞こえる。

うわぁ!!私は汗が滴った。。

電話から離れる。すると通話記録がそのまま流れる。

 

「あー、、ありがとうございます。こちらこそお願いしたいです。いつから

これますか?」

「いつでも私は構いません」、、、

 

記憶にある会話。しかし、私はおじさんと話をしていたはずだ。

そこから流れる声は地面の下から響くような老人の声だった。

「神尾くんね、、はやくいらっしゃい」

 

そこで通話が途切れる。私の体中に冷や汗がながれおちる。

外は土砂降りの雨である。金縛りにあったように動けなかったが

私はようやく落ちついてきた。すると、そのまま通話記録が流れた。

今朝、掛かってきた分だ。

しかし、話し声は私のものだけだった。

、、、、、、

 

「死ね死ね死ね死ね死ね」

「はい。今準備して出るところです。」

「死ね死ね死ね死ね死ね」

「あ、すみません、寝起きなので」

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

「あ、、だいじょうぶです。でも、、ありがとうございます。」

 

私は電話の電源ごとひきぬいた。

かわいた喉を鳴らす。な、、、、なんだ、、、なんだこれ、、

なんだよ!? どうなってんだ??

 

私はそのとき手に求人ガイドを握っていた。

震えながらそのページを探す。

すると何かおかしい。      、、ん?

手が震える。。そのページはあった。

 

綺麗なはずなのにその旅館の1ページだけしわしわでなにか

シミが大きく広がり少しはじが焦げている。どうみてもそこだけが

古い紙質なのです。まるで数十年前の古雑誌のようでした。

そしてそこには全焼して燃え落ちた旅館が写っていました。

 

そこに記事が書いてありました。

死者30数名。台所から出火したもよう。

旅館の主人と思われる焼死体が台所でみつかったことから

料理の際に炎を出したと思われる。

泊まりに来ていた宿泊客達が逃げ遅れて炎にまかれて焼死。

 

これ、、なんだ。。求人じゃない。。

私は声もだせずにいた。求人雑誌が風にめくれている。

私は痺れた頭で石のように動けなかった。

 

そのときふいに雨足が弱くなった。。一瞬の静寂が私を包んだ。

 

 

電話がなっている

 

○感想

情景描写、心理描写が小説みたいに細かくて面白かったです。

短い文を連ねるような文章形態も分かりやすくていいですね。

勉強になる怖い話でした。

【2ch怖い話名作選】リョウメンスクナ (感想付き)

俺、建築関係の仕事やってんだけれども、先日岩手県のとある古いお寺を解体することになったんだわ。

今は利用者もないお寺ね。んでお寺ぶっ壊してると、同僚が俺を呼ぶのね。

「~、ちょっと来て」と。俺が行くと、同僚の足元に、黒ずんだ長い木箱が置いてたんだわ。

 

俺「何これ?」

同僚「いや、何かなと思って...本堂の奥の密閉された部屋に置いてあったんだけど、ちょっと管理してる業者さんに電話してみるわ」

 

木箱の大きさは2mくらいかなぁ。相当古い物みたいで、多分木が腐ってたんじゃないかな。

表に白い紙が貼り付けられて、何か書いてあるんだわ。

相当昔の字と言う事は分ったけど、凡字の様な物も見えたけど、もう紙もボロボロで何書いてるかほとんどわからない。

 

かろうじて読み取れたのは、

「大正??年??七月??ノ呪法ヲモッテ、両面スクナヲ???二封ズ」的な事が書いてあったんだ。

木箱には釘が打ち付けられてて開ける訳にもいかず、業者さんも「明日、昔の住職に聞いてみる」と言ってたんで、

その日は木箱を近くのプレハブに置いておく事にしたんだわ。

 

んで翌日。解体作業現場に着く前に、業者から電話かかってきて、

 

業者「あの木箱ですけどねぇ、元住職が、絶対に開けるな!!って凄い剣幕なんですよ...なんでも自分が引き取るって言ってるので、よろしくお願いします」

 

俺は念のため、現場に着く前に現場監督に木箱の事電話しておこうと思い、

 

俺「あの~、昨日の木箱の事ですけど」

監督「あぁ、あれ!お宅で雇ってる中国人(留学生)のバイト作業員2人いるでしょ?そいつが勝手に開けよったんですわ!!とにかく早く来てください」

 

嫌な予感がし、現場へと急いだ。プレハブの周りに、5~6人の人だかり。

例のバイト中国人2人が放心状態でプレハブの前に座っている。

 

監督「こいつがね、昨日の夜中、仲間と一緒に面白半分で開けよったらしいんですよ。で、問題は中身なんですけどね...ちょっと見てもらえます?」

 

単刀直入に言うと、両手をボクサーの様に構えた人間のミイラらしき物が入っていた。

ただ異様だったのは・・・頭が2つ。シャム双生児?みたいな奇形児いるじゃない。

多分ああいう奇形の人か、作り物なんじゃないかと思ったんだが・・・

 

監督「これ見てね、ショック受けたんか何か知りませんけどね、この2人何にも喋らないんですよ」

 

中国人2人は俺らがいくら問いかけても、放心状態でボーっとしていた(日本語はかなり話せるのに)。

 

あ、言い忘れたけど、そのミイラは

「頭が両側に2つくっついてて、腕が左右2本ずつ、足は通常通り2本」という異様な形態だったのね。

俺もネットや2ちゃんとかで色んな奇形の写真見たことあったんで、そりゃビックリしたけど、「あぁ、奇形か作りもんだろうな」と思ったわけね。

 

んで、例の中国人2人は一応病院に車で送る事になって、警察への連絡はどうしようか、って話をしてた時に、

元住職(80歳超えてる)が息子さんが運転する車で来た。開口一番、

 

住職「空けたんか!!空けたんかこの馬鹿たれが!!しまい、空けたらしまいじゃ・・・」

 

俺らはあまりの剣幕にポカーンとしてたんだけど、住職が今度は息子に怒鳴り始めた。

岩手訛りがキツかったんで標準語で書くけど、

 

住職「お前、リョウメンスクナ様をあの時、京都の~寺(聞き取れなかった)に絶対送る

   言うたじゃろが!!送らんかったんかこのボンクラが!!馬鹿たれが!!」

 

ホント80過ぎの爺さんとは思えないくらいの怒声だった。

 

住職「空けたんは誰?病院?その人らはもうダメ思うけど、一応アンタらは祓ってあげるから」

 

俺らも正直怖かったんで、されるがままに何やらお経みたいの聴かされて、経典みたいなのでかなり強く背中とか肩とか叩かれた。

結構長くて30分くらいやってたかな。

住職は木箱を車に積み込み、別れ際にこう言った。

 

「可哀想だけど、あんたら長生きでけんよ」

 

その後、中国人2人の内1人が医者も首をかしげる心筋梗塞で病室で死亡、

もう1人は精神病院に移送、解体作業員も3名謎の高熱で寝込み、俺も釘を足で踏み抜いて5針縫った。

まったく詳しい事は分らないが、俺が思うにあれはやはり人間の奇形で、差別にあって恨みを残して死んでいった人なんじゃないかと思う。

だって物凄い形相してたからね・・・その寺の地域も昔部落の集落があった事も何か関係あるのかな。無いかもしれないけど。

長生きはしたいです

 

ID変わっちゃったけど452です。いきなりブラックアウトして電源落ちたんでビビッた・・・

俺だってオカ板覗くらいだから、こういう事には興味しんしんなので、真相が知りたく何度も住職に連絡取ったんだけど、完全無視でした。

 

しかし、一緒に来てた息子さん(50過ぎで不動産経営)の連絡先分ったんで、この人は割と明るくて派手めの人なんで、もしかしたら何か聞けるかも?

と思い今日の晩(夜遅くだけど)飲みに行くアポとれました。何か分ったら明日にでも書きますわ

 

すんません。直前になって何か「やはり直接会って話すのは・・・」とか言われたんで、

元住職の息子さんに「じゃあ電話でなら・・・」「話せるとこまでですけど」と言う条件の元、話が聞けました。

時間にして30分くらい結構話してもらったんですけどね。

なかなか話し好きなオジサンでした。要点を主にかいつまんで書きます。

 

息子「ごめんねぇ。オヤジに念押されちゃって。本当は電話もヤバイんだけど」

俺「いえ、こっちこそ無理言いまして。アレって結局何なんですか??」

息子「アレは大正時代に、見世物小屋に出されてた奇形の人間です」

俺「じゃあ、当時あの結合した状態で生きていたんですか?シャム双生児みたいな?」

息子「そうです。生まれて数年は、岩手のとある部落で暮らしてたみたいだけど、生活に窮した

   親が人買いに売っちゃったらしくて。それで見世物小屋に流れたみたいですね」

俺「そうですか・・・でもなぜあんなミイラの様な状態に??」

息子「正確に言えば、即身仏ですけどね」

俺「即身仏って事は、自ら進んでああなったんですか!?」

息子「・・・君、この事誰かに話すでしょ?」

俺「正直に言えば・・・話したいです」

息子「良いよ君。正直で(笑) まぁ私も全て話すつもりはないけどね...

   アレはね、無理やりああされたんだよ。当時、今で言うとんでもないカルト教団

   いてね。教団の名前は勘弁してよ。今もひっそり活動してると思うんで...」

俺「聞けば、誰でもああ、あの教団って分りますか?」

息子「知らない知らない(笑)極秘中の極秘、本当の邪教だからね」

俺「そうですか・・・」

 

スマソ。またいきなりPCの電源切れて遅くなりました...

 

息子「この教祖がとんでもない野郎でね。外法(げほう)しか使わないんだよ」

俺「外法ですか?」

息子「そう、分りやすく言えば(やってはいけない事)だよね。ちょっと前に真言立川流が、

   邪教だ、外法だ、って叩かれたけど、あんな生易しいもんじゃない」

俺「・・・具体的にどんな?」

息子「で、当時の資料も何も残ってないし偽名だし、元々表舞台に出てきたヤツでもないし、

   今教団が存続してるとしても、今現在の教祖とはまったく繋がりないだろうし、

   名前言うけどさ・・・物部天獄(もののべてんごく)。これが教祖の名前ね」

俺「物部天獄。偽名ですよね?」

息子「そうそう、偽名。んで、この天獄が例の見世物小屋に行った時、奇形数名を

   大枚はたいて買ったわけよ。例のシャム双生児?って言うの?それも含めて」

俺「・・・それで?」

息子「君、コドクって知ってる?虫に毒って書いて、虫は虫3つ合わせた特殊な漢字だけど」

俺「壺に毒虫何匹か入れて、最後に生き残った虫を使う呪法のアレですか?(昔マンガに載ってたw)」

息子「そうそう!何で知ってるの君??凄いね」

俺「ええ、まぁちょっと・・・それで?」

息子「あぁ、それでね。天獄はそのコドクを人間でやったんだよ」

俺「人間を密室に入れて??ウソでしょう」

息子「(少し機嫌が悪くなる)私もオヤジから聞いた話で、100%全部信じてるわけじゃ

   ないから・・・もう止める?」

俺「すみません!・・・続けてください」

息子「分った。んで、それを例の奇形たち数人でやったわけさ。教団本部か何処か

   知らないけど、地下の密室に押し込んで。それで例のシャム双生児が生き残ったわけ」

俺「閉じ込めた期間はどのくらいですか?」

息子「詳しい事は分らないけど、仲間の肉を食べ、自分の糞尿を食べてさえ生き延びねば

   ならない期間、と言ったら大体想像つくよね」

俺「あんまり想像したくないですけどね...」

 

息子「んで、どうも最初からそのシャム双生児が生き残る様に、天獄は細工したらしい

   んだ。他の奇形に刃物か何かで致命傷を負わせ、行き絶え絶えの状態で放り込んだ

   わけ。奇形と言ってもアシュラ像みたいな外見だからね。その神々しさ(禍々しさ?)に

   天獄は惹かれたんじゃないかな」

俺「なるほど・・・」

息子「で、生き残ったのは良いけど、天獄にとっちゃ道具に過ぎないわけだから、

   すぐさま別の部屋に1人で閉じ込められて、餓死だよね。そして防腐処理を

   施され、即身仏に。この前オヤジの言ってたリョウメンスクナの完成、ってわけ」

俺「リョウメンスクナって何ですか?」

 

※>>476氏ほど詳しい説明は無かったが、神話の時代に近いほどの大昔に、

   リョウメンスクナと言う、2つの顔、4本の手をもつ怪物がいた、と言う

   伝説にちなんで、例のシャム双生児をそう呼ぶ事にしたと、言っていた。

 

俺「そうですか・・・」

息子「そのリョウメンスクナをね、天獄は教団の本尊にしたわけよ。呪仏(じゅぶつ)

   としてね。他人を呪い殺せる、下手したらもっと大勢の人を呪い殺せるかも

   知れない、とんでもない呪仏を作った、と少なくとも天獄は信じてたわけ」

俺「その呪いの対象は?」

息子「・・・国家だとオヤジは言ってた」

俺「日本そのものですか?頭イカレてるじゃないですか、その天獄って」

息子「イカレたんだろうねぇ。でもね、呪いの効力はそれだけじゃないんだ。

   リョウメンスクナの腹の中に、ある物を入れてね・・・」

俺「何です?」

息子「古代人の骨だよ。大和朝廷とかに滅ぼされた(まつろわぬ民)、いわゆる

   朝廷からみた反逆者だね。逆賊。その古代人の骨の粉末を腹に入れて・・・」

俺「そんなものどこで手に入れて・・・!?」

息子「君もTVや新聞とかで見たことあるだろう?古代の遺跡や墓が発掘された時、

   発掘作業する人たちがいるじゃない。当時はその辺の警備とか甘かったらしい

   からね・・・そういう所から主に盗ってきたらしいよ」

 

俺「にわかには信じがたい話ですよね・・・」

息子「だろう?私もそう思ったよ。でもね、大正時代に主に起こった災害ね、

   これだけあるんだよ」

 

 1914(大正3)年:桜島の大噴火(負傷者 9600人)

 1914(大正3)年:秋田の大地震(死者 94人)

 1914(大正3)年:方城炭鉱の爆発(死者 687人)

 1916(大正5)年:函館の大火事

 1917(大正6)年:東日本の大水害(死者 1300人)

 1917(大正6)年:桐野炭鉱の爆発(死者 361人)

 1922(大正11)年:親不知のナダレで列車事故(死者 130人)

 

そして、1923年(大正12年)9月1日、関東大震災、死者・行方不明14万2千8百名

 

俺「それが何か?」

息子「全てリョウメンスクナが移動した地域だそうだ」

俺「そんな!教団支部ってそんな各地にあったんですか?と言うか、偶然でしょう(流石に笑った)」

息子「俺も馬鹿な話だと思うよ。で、大正時代の最悪最大の災害、関東大震災の日ね。

    この日、地震が起こる直前に天獄が死んでる」

俺「死んだ?」

息子「自殺、と聞いたけどね。純粋な日本人ではなかった、と言う噂もあるらしいが・・・」

俺「どうやって死んだんですか?」

息子「日本刀で喉かっ斬ってね。リョウメンスクナの前で。それで血文字で遺書があって・・・」

俺「なんて書いてあったんですか??」

 

日      本      滅      ブ    ベ    シ

 

 

俺「...それが、関東大震災が起こる直前なんですよね?」

息子「そうだね」

俺「...偶然ですよね?」

息子「...偶然だろうね」

俺「その時、リョウメンスクナと天獄はどこに...??」

息子「震源に近い相模湾沿岸の近辺だったそうだ」

俺「...その後、どういう経由でリョウメンスクナは岩手のあのお寺に?」

息子「そればっかりはオヤジは話してくれなかった」

俺「あの時、住職さんに(なぜ京都のお寺に輸送しなかったんだ!)みたいな事を

  言われてましたが、あれは??」

息子「あっ、聞いてたの・・・もう30年前くらいだけどね、私もオヤジの後継いで坊主に

   なる予定だったんだよ。その時に俺の怠慢というか手違いでね・・・その後、

   あの寺もずっと放置されてたし...話せることはこれくらいだね」

俺「そうですか・・・今リョウメンスクナはどこに??」

息子「それは知らない。と言うか、ここ数日オヤジと連絡がつかないんだ・・・

   アレを持って帰って以来、妙な車に後つけられたりしたらしくてね」

俺「そうですか・・・でも全部は話さないと言われたんですけど、なぜここまで

  詳しく教えてくれたんですか?」

息子「オヤジがあの時言ったろう?可哀想だけど君たち長生きできないよ、ってね」

俺「...」

息子「じゃあこの辺で。もう電話しないでね」

俺「...ありがとうございました」

 

 

以上が電話で話した、かいつまんだ内容です...はっきり言って全ては信じてません。

何か気分悪くなったので今日は落ちますね。連投・長文スマソ。

 

○感想

とんでもない呪物を作ったものです……

リアリティの権化でしたね。

俺くん……ご存命なんでしょうか?

【2ch怖い話名作選】みさき (感想付き)

アチメ オオオオ オオオオ オオオオ

天地ニキ揺ラカスハ サ揺ユラカス 神ワカモ 神コソハ キネキコウ キ揺ラナラハ

アチメ オオオオ オオオオ オオオオ

石ノ上 布瑠社ノ 太刀モガト 願フ其ノ児ニ 其ノ奉ル

アチメ オオオ オオオ オオオ

猟夫ラガ 持タ木ノ真弓 奥山ニ 御狩スラシモ 弓ノ弭見ユ

アチメ オオオ オオオ オオオ

上リマス豊日霎カ 御魂欲ス 本ハ金矛 末ハ木矛

アチメ オオオ オオオ オオオ

三輪山ニ アリタテルチカサヲ 今栄エデハ 何時カ栄へム

アチメ オオオ オオオ オオオ

吾妹子ガ、穴師ノ山ノ山ノ山モト 人も見ルカニ 深山カ縵為ヨ

アチメ オオオ オオオ オオオ

魂筥ニ 木綿取リシデワ 魂チトラセヨ 御魂上リ 魂上リマシシ神ハ 今ゾ来マセル

アチメ オオオ オオオ オオオ

御魂ミニ 去マシシ神ハ 今ゾ来マセル 魂筥持チテ 去リクルシ御魂 魂返シスナ

 

 

                       『鎮魂歌(年中行事秘抄)』

 

◯概要

 

1992年7月7日。火曜日。

この日、吉野さん一家は一人娘の 美咲ちゃんの誕生日を前日に控え、家族三人で近所の商業施設、つかしん(西武百貨店)に買い物に出かけていた。

父親の義弘さんは当日午後から半休を取っており、会社帰りに自宅の最寄り駅である阪急稲野駅で妻の美幸さん、娘の美咲ちゃんと合流、

その後、家族三人でつかしん内の飲食店で昼食を食べ、美咲ちゃんの誕生日プレゼントを買って帰路についた。

 

事件は、その道中で起こった。

午後四時ごろ、吉野さん一家は御願塚古墳という小さな古墳の前を通りかかる。

御願塚古墳とは吉野さん宅の南東にある、全長約50メートル、高さ約七メートルほどの比較的小さな古墳である。

周囲に壕を巡らせた小高い山の頂上には小さな広場があり、そこには南神社という小さなお社が祭られている。

 

その神社に通じる鳥居の前に差しかかったとき、突然美咲ちゃんが足を止め「お参りがしたい」と言い出した。

吉野さん夫婦は当初それを美咲ちゃんの何気ない気まぐれだと思い取り合わなかったが、

美咲ちゃんがどうしてもと言うことを聞かず(義弘さんによれば、それまでに一度も見たことのないくらいの必死さで)

その場を動こうとしないので、仕方なくお賽銭にと五円玉を持たせて、古墳の上にある神社に行くことを許した。

 

このとき吉野さん夫妻はふもとの鳥居の外で待っていたが、

その場所から神社までの石段は視界が開けており、距離もたかだか10メートル足らずである。

そして、吉野さん夫婦は、たしかに美咲ちゃんが頂上に上ったのを確認している。

 

五分ほどたった後、戻ってこない美咲ちゃんを心配した義弘さんは、美咲ちゃんを探して頂上への石段を登った。

大人の足でなら急ぎ足で10秒といったところだろうか。

頂上の社殿がある広場についた義弘さんは美咲ちゃんを探したが、そこには美咲ちゃんの姿はなかった。

広場は直径約15メートルの円形で、社殿のほかには何もない。

義弘さんは美咲ちゃんの名前を何度か呼んでみたが、返事はなかった。

 

頂上までの間には、古墳を周回する周遊路があり、頂上からぐるりと見おろせたが、そこにも人の姿や気配はなかったという。

不安に駆られた義弘さんだったが、石段を使わずに中腹の周遊路に下りることも不可能ではないため、

入れ違いになった可能性を考えていったん妻の美幸さんの待つ鳥居に戻ってみることにした。

 

その途中で一応周遊路をぐるりと一周し、

どこかで転んで怪我をしているのではないかと注意深く周囲を探したが、やはり美咲ちゃんの姿はなかった。

仕方なく鳥居に戻った義弘さんだったが、そこには美幸さんが不安そうな顔があるばかりで、やはり美咲ちゃんの姿はなかった。

古墳全体は雑木に覆われてはいるものの、その間隔はまばらで視界は比較的ひらけている。

美幸さんも義弘さんを待つ間中ずっと美咲ちゃんを探していたが、美咲ちゃんの姿は見ていないという。

 

美幸さんと合流した義弘さんは、誰も石段を降りてきていないことを確認すると、再び頂上の社殿へと向かった。

もう残る場所は、社殿の中しか考えられなかったからだ。

古墳の周囲を囲むお濠は比較的小さいものの、その幅は約8メートル。

狭いところ(鳥居付近)で5もメートル弱、広いところでは11メートルにもなる。

とても6歳の女の子が渡れるような長さではないし、当然柵も設置されていた。

美咲ちゃんは、どう考えてもこの古墳から外に出ていない。

出られるはずがなかったのだ。

 

社殿へと向かった吉野さん夫妻は、なりふり構わずお社の戸に手をかけた。

が、その戸は頑丈に施錠されており、開くことはなかった。

内側を覗いてみても、人間がいるような気配はなかったという。

夫妻が目を離したわずか五分の間に、美咲ちゃんの姿はまさに煙のように消えてしまったのだった。

 

午後四時二十五分。稲野駅前交番に吉野さん夫妻は駆け込む。

警 察は失踪の可能性と古墳の周囲のお濠に転落した可能性の両面から捜索をしたが、美咲ちゃんは見つからなかった。

警察犬も広場から出ようとせず、臭いを追えなかった。

営利誘拐の可能性も考えられたが、犯人からの要求がなかったため警察は失踪事件として捜査している。

 

翌日の午前十時半ごろ、吉野さん宅に謎の電話がかかっている。

電話を受けたのは妻の美幸さんだった。電話の主は舌足らずな女性で、年齢までは分からないが、

娘ではないように思ったと美幸さんは語っている。

警察は、この電話の発信者の特定には至っていない。

 

 

 

◯補追

 

「御願塚古墳全体図」

http://bungoku.jp/grand/2010/0091_files/0091_02.jpg

 

実際に足を運ぶと、現場は想像よりもはるかに小規模で、高さは7メートルとのことだが、実際の感覚ではもうすこし低く感じられる。

子どもの足でも頂上まで30秒はかからないだろう。

生い茂る樹も手入れがなされていて、仮に美咲ちゃんがいたずら心から一時的にどこかに隠れたとしても、その後も両親から隠れ続けることは不可能に思えた。

墳頂部の広場には社殿以外に何もなく、木の一本すらも立っていない。

 

社殿は広場の南西隅に建っていて東側は開けていた。社殿の裏

側も整然としていて、とくに隠れられるような場所は見当たらない。

社殿には金属製の戸がついており、社殿自体もそう古いものではなく、全体的にがっしりとした作りになっている。

内部は暗く確認できなかったが、きっちりと施錠されており大人でも進入は不可能だろう。

周遊路にも降りてみたが、上から見たときと同じく、意外にも視界は良い。

木立に遮られていても、人がいれば必ず分かると断言できる。

 

また、土を踏みしめる音や落ち葉や草を踏む音を立てずに歩くことも、子供には困難だろう。

古墳入り口の濠にかかる木作りの橋も、 踏むと思った以上に大きく軋み、これはある程度遠くにいても聞こえる。

両親の耳にこれが聞こえなかったことは考えにくい。

 

周囲を囲む濠の幅は約5メートルから10メートル。

もっとも狭い場所であっても、飛び越えることは大人でも不可能だろう。

水面は淀んでいて深さは分からないが、子どもが短時間でこれを渡ることも、到底不可能に思われた。

 

古墳の入り口(鳥居正面)は県道336号線に面しており、交通量は少なくはないが人通りはまばらだった。

美咲ちゃんの失踪が誘拐によるものだとすれば、車を横付けできるこの場所は犯人にとって好都合だったと言えるが、

失踪当時は鳥居の前に母親の美幸さんがずっと立っており、不審な車や人影は見ていないという。

 

古墳から美咲ちゃんが出て行くには正面の鳥居を通らざるを得ないことを考えれば、車による連れ去りの可能性は低いだろう。

なお、古墳の裏手は入り組んだ住宅地になっていて、細い生活道路に抜ける路地が東西に二本あるが、

こちら側は県道側の道路よりも主婦や小学生などの通行人が多く、美咲ちゃんがどうにかして濠を越えられたと仮定しても、

やはりこちらからどこかに出て行った可能性は低いように思われる。

 

御願塚古墳には、1991年頃から浮浪者が住んでいたという噂がある。

だが、実際に古墳に住んでいたのかどうか、ということに関しては疑問の余地が残る。

実際の目撃証言が多数あることから、御願塚・稲野近辺に浮浪者がいたことは確かだが、実際に寝起きしていた場所は別にあったと思われる。

古墳には雨風をしのげる場所がないからだ。

 

浮浪者の風体については誰も記憶しておらず、ただ古墳の周遊路でニワトリを飼っていたということだけは皆が覚えていた。

この浮浪者はある時期を境にぱったりと姿を消しており、

それと前後して吉野美咲ちゃん失踪事件が起きていることから容疑者ではないかとも目されているが、

それは単に古墳への警察の出入りが多くなったために居場所を失っただけだろう。

事件との因果関係は薄いと思われる。

 

美咲ちゃん失踪の翌日に吉野家には一本の奇妙な電話がかかっている。

電話を受けたのは妻の美幸さんだった。電話の主は美幸さんが何か言う前に話し始め、

不思議なイントネーションの言葉で意味の分からないことを一方的に話し、

最後に「もしもし」と告げて電話を切った。こちらからの問いかけにも一切応答しなかったという。

 

警察ではこの謎の電話の主を探したが、発信者の特定には至っていない。

この時吉野家では、美幸さんが電話を受けている最中に玄関がどんどんと叩かれた。

インターホンを鳴らせば済むところをわざわざ門扉を勝手に開けて玄関先まで入り、

直接戸を叩くというのもおかしな話ではあるのだが、ともかくこの時祖母の絹江さんが応対に出ている。

 

絹江さんは戸が叩かれたあと間も無く戸を開けているが、そこには誰もおらず、

1メートル先の門扉もきっちり閉まっており、人が急いで隠れたような気配もなかったと、

このとき美幸さんに話している。

 

なお、本件との因果関係は定かではないが、絹江さんはこの日の夜半に突然倒れ、

そのまま近畿中央病院に搬送、脳溢血による下肢機能全廃と失語症と診断された。

そして一週間後の7月16日に、治療の甲斐なく死亡している。

 

奇妙なの電話は二年後、三年後の誕生日にもかかってきているが、 義弘さんも美幸さんもかたくなにその内容を伏せ続けている。

四年後以降のことは分からないが、もしかすると今でも誕生日の奇妙な電話は続いているのかもしれない。

 

 

 

霊媒

 

失踪から一ヶ月がたった後、吉野家の母方の親族(美幸さんの叔母)を通じて、霊媒と名乗る女が現れている。

川上喜代子と名乗るこの女は、なんでも失せ物探しや未来視を得意とするらしく、霊魂を下ろして会話をし、彼らの知恵を借りるのだという。

その方法は「こっくりさん」によく似ていて、白い紙に五十音のひらがなと、

1~9までの数字、はいといいえ、霊魂を呼び込むための入り口の役割を果たす鳥居を書いたものを用いて行われる。

 

こっくりさん」とは、美咲ちゃんが失踪した当時、世間で爆発的に流行した交霊術の一種であり、漢字では狐狗狸とも書く。

西洋のテーブルターニングという交霊術に由来するものだが、実際はオートマティスムによる自動筆記や参加者の意思で動いている場合が大半である。

しばしば感応精神病や集団催眠によるパニックを引き起こし、社会現象にもなった。

 

 

喜代子の交霊術が「こっくりさん」と異なるのは、「こっくりさん」がその場にいる不特定な何者かに呼びかけるのに対して、

そこにいるはずの特定の霊魂に呼びかけて行われることである。

喜代子が言うには通常の交霊、いわゆる「こっくりさん」では、

動物霊と呼ばれる「人の魂のかたちを保てず動物に成り下がった」対話不能の霊を降ろしてしまう恐れがあるという。

 

そうした場合には守るべき手 順も意味をなさず、当然に求める答えも得られない。

動物霊とは人間の霊から理性が抜け落ち、動物的な本能、あるいは現世への強い執着のみが増大したものだからである。

執着の源が生命である場合は命や肉体をとられる恐れもあるという。

 

また、「こっくりさん」では交霊に10円玉などの硬貨を用いるのに対し、喜代子の交霊術では将棋の駒くらいの大きさの独自の木札を用いる。

直径が3センチほどの丸い板に、「人」という漢字が六つ輪を作るようにならんで書かれており、六芒星を形作っている。

作法としては初めに術者がどれかの「人」に指を置き、それ以外の参加者は残りの「人」のどこかに、

等間隔に木札を囲むようにして指を置いていく。

 

川上喜代子を吉野家に呼び寄せたのは、前述の吉野美幸の叔母、結城フクであった。

結城フクは川上喜代子の霊能に心酔しており、何度も吉野家に手紙をよこしては霊媒を勧めている。

美幸も当初は取り合わなかったが、一向に美咲ちゃんが見つかる気配も無いまま月日が過ぎていくことに耐えかねたのか、

或いは藁にもすがりたい気持ちだったのか、とにかく結城フクの勧めに根負けする形で、

ちょうど盆の半ばである八月十四日に(この日時は川上側からの提案であったと言われる)吉野家で交霊会は行われた。

 

川上喜代子は岡山県和気郡の生まれとなっているが、これは厳密には正しくない。

喜代子は物心付くか付かないかの頃に身売りされ、和気の川上家に引き取られた。

 

喜代子は七つになるまで愚鈍で感情に乏しい白痴のような子であったが、この歳を境に大層利発になり家族を驚かせた。

その一方で白昼に神懸りに陥るようになり、しばしば家族や村民の失せ物を見つけて見せ、怪我や病気などの凶事を言い当てた。

この川上と結城は遠縁にあたるが、両家には親密な交流があった。

 

川上の家が近隣の家と果樹園の二重譲渡で揉めたときに、間に入って収めたのが結城であった。

このことが縁で交流を深めた両家であったが、今度は結城の家に問題が持ち上がる。

洋酒の工場を建てるのに土地と資金を出さないかと持ちかける山師が頻繁に家に出入りし、

実質的な意味での家長である祖父の勘助は首を縦に振る寸前であったのだ。

 

この時喜代子は持ち前の神通力を発揮し、結城の家の没落を予言、

返事を一週間保留させたがその間に件の山師は別件での詐欺容疑で警察に逮捕され、結城の家は危うく難を逃れたといういきさつがある。

 

この時フクは喜代子の霊媒を間近で目撃し、その不可思議な力の虜になってしまった。

フクに言わせれば喜代子が霊魂を降ろすときには金色の光背が見えるという。

フクは日常生活には支障がない程度には健常であったが、統合失調症と思しき言動が多数見られた。

そのためフクの証言による喜代子の霊験は眉唾といわざるを得ないが、

喜代子の行う交霊には確かに現実には説明のつかないところも多くあり、結論は未だ出ていない。

 

 

 

◯交霊

ほんまはこんなこと頼める義理じゃあないんですが、今日この話をするんは、多少の罪滅ぼしと、亡うなったひとの供養になればと思うとるんです。

美幸さんには特にひでえことをした思うとるんで、できればほんまのことを誰かに伝えてあげてほしい思います。

それではどうか宜しゅうお願いします。

 

あれがあったんは一九九二年の、八月の十四日のことじゃった思います。

大きい忌み日を避けるんは邪魔が入らんようことじゃ言うとりましたけえ確かじゃ思います。

場所は美幸さんとこの二階の子 供部屋で、時間は五時を少しまわっとったでしょうか。

 

私は世話人いうことで、本来なら美幸さんと川上さんの間に入られとったフクさんが来ればええんですけど、

あの人は満足に読み書きができんのんで、代わりに私に行っちゃくれんかいうことになって、

私も川上さんとは知らん間柄じゃあなかったこともあって、特になんのあれもなく、旅行みてえなもんじゃ言われてつい受けてしもうたんです。

まさかあがあなことになるとは思わんで。

 

広島の駅から新幹線に乗って新大阪についたあと国鉄に乗り継いで、駅からタクシーを呼んでもろうとったのに乗り込んで、

美幸さ んとこのお宅へ伺うたんです。

ついたんはまだ日が高いうちでしたけえ、これから支度したらちょうどええ頃合いじゃあいうてお話をしたんを覚えとります。

 

美幸さんのお宅についてから、まず簡単に挨拶を済ませました。

家ん中は真っ暗でした。饐えたような臭いがしとって、旦那さんはもう随分と参っとってでしたけど、なんとか気を張っておられたようでした。

美幸さんのほうは旦那さんと違ってもう限界じゃいう感じで、ほとんど喋りもせんで、目もうつろで。

 

私と川上さんは二階の美咲ちゃんの部屋に案内されて、部屋に入ると川上さんが部屋の中を見て回られて、

美咲ちゃんの大切なもの、 なるべく長う使うとるものをひとつ貸してください言うちゃったんです。

そしたら美幸さんが、美咲が大切にしているぬいぐるみです言うて、それを川上さんに渡されて、それから私と川上さんで交霊会の支度を始めました。

 

まず、部屋の中央に下から卓袱台を運びました。その上に持ってきた蝋燭を立てて、私らみんなでお神酒をいただいて、塩をまいて、

川上さんが短いお経みたいなのを唱えられてから、お父さんお母さんお待たせしました、いまから美咲ちゃんをこの部屋に呼びます、言われました。

 

川上さんは持ってきた包みん中から、魂を降ろすんに使うとる板を取り出して、卓袱台の上に置かれました。

板には真っ赤な鳥居と、はいといいえ、あとはあいうえおかきくけこいう平仮名、

それに0から9までの数字、それらが彫りこまれとってでして、そこに川上さんがいつも使うとる、カコイサマいうやつを、

ご存知ですか、それを置かれてですね、川上さんと旦那さんと美幸さんと、三人とでそれに指を添えられて、

ぜってえ指を離さんといてください言うて川上さんが説明しておられました。私は川上さんの言うちゃることを帳面に記録する係ですけえ、

 

その間ずっと鉛筆をもって横で待機しとったんですが、そのうちに川上さんが言われました。

たいへん長うお待たせしました。お父さん、お母さん、いまから美幸ちゃんを降ろしますけえ、美咲ちゃんのことを心でじっと念じてください。

できるだけ楽しいことを思い出して、美咲ちゃんの顔をはっきりと心に映してください、いうて。

ほうで川上さんは美咲ちゃんに呼びかけるような言葉を呟き始めて、美咲ちゃん、美咲ちゃん、言うて、

なんとも居た堪れん気持ちになったのをよう覚えてます。

 

あのカコイサマいうんは不思議なもんで、あれはほんまにひとりでに動きおるんです。

私も実際信じとらんかったですけど、ありゃあそうとしか思えんのです。

じゃけ川上さんに聞いてみたことがあるんですね、一度。なしてありゃああなあなことになるんかいうて。

ほしたら川上さんは、あれは入り口なんじゃ言うちゃられました。

人の魂いうんは寂しゅうて仕方ないけ、あったけえところを見つけて入りてえんじゃ、あのカコイサマにはお地蔵さんがおられて、

それに誘われてするすると魂が入られるんじゃ言うて。そういうのは魂のほうも頭で考えとるんじゃのうて、

電燈に蛾が集まるみたいな、自然なもんらしいです。

 

川上さんが美咲ちゃん美咲ちゃん言うて呼びかけ始めてから五分くらいでしょうか、

突然旦那さんと美幸さんが身体をびくっと震わして、えろう何かに驚かれたんは、カコイサマが動かれたんじゃ思います。

 

川上さんはふうっと長え息をひとつ吐かれて、美咲ちゃんがきとられますよ、て言われました。

そっから部屋の空気が全然違うたんは、ただ横に座っとっただけの私にもはっきり分かりました。

 

どういうんですかね、部屋の温度は寒いのに、身体は妙に暑苦しゅうて汗が滲んでくるような、いうんですか。

蝋燭の炎の上のところだけが長あく横になびいて、気持ち悪かったんを覚えとります。

 

質問は、最初ん頃は川上さんも美咲ちゃんに交霊のやり方を教えんといけんのんで、みやすい質問を何個かなさっとった思います。

歳はいくつか。名前は何か。男か女か。美咲ちゃんは順調に答えとってで、私もこれは成功じゃ思いました。

ほいで、いよいよこの後ですよ。

 

こっからは美咲ちゃんが生きとるんか死んどるんか、今どこにおるんか、それを聞き出さんといけんいうことで。

川上さんも言うとられました。

おそらく子供相手じゃあええがあいかんじゃろう、て。

子供いうんは生きとるんでもろくに聞きゃあせんのに、まして魂じゃあまともに聞きゃあせんじゃろう言うて、

私も同感じゃ思うとりました。事実あがあなことになって、ほんとうに手には負えんもんじゃと思い知らされて。

 

こがあなことは滅多に言えんですが、私も川上さんも用心が足らんかったんです。

何がほんまかはそりゃあ分からんですけど、美咲ちゃんがとられたんは人攫いじゃとか、

土地に住んどる神さんじゃとか、そげなもんじゃあねえのは確かです。

川上さんは偉え人じゃけど見える人じゃあなかった。それで判断を誤られたんです。

 

始まってしばらくは順調に進んどるように思うとりました。なにが見えるか、いうて聞いたらお母さんじゃ言うたりして。

ええがにいっとる思いました。でも、途中からなんか変じゃ思うたんです。

どこが変じゃいうのは言えんのですが、

たしか、今どこにおるんかいうようなことを聞いたら、美咲ちゃんは、いいえ、言うたんです。

 

このいいえいう答えは意味をなしちゃおらんでしょう。ほうじゃけ川上さんも、いいえいうんはどういう意味か、いうて改めて聞いちゃったんです。

ほしたら美咲ちゃんは、今度はうしろじゃ言うんです。うしろ。

私も含めてみな背中をあらためんではおれんかったですね。

例えなんもおらんじゃろうと分かっとっても、ああいう言われ方は恐ろしゅう感じますけ、

私もなんとなくぞおっとして、川上さんもこのままじゃと危険じゃ思われたんでしょう、

 

改めて旦那さんと美幸さんに、ええですか、何ぞ見ても取り乱さんでください、

指い離さんでくださいよ言うて念を押しちゃって、もうそろそろ日が落ちよってじゃ言うて、

川上さんは私に、部屋の電気点けてくれんかって、私が立ち上がったそん時です。

 

ぱしっ、いう音がして、

電球のたまの中で火花が飛んだんです。

蝋燭の火いも急にゆらゆらし始めて、

カコイサマが質問もせんのに勝手に動き出して、順に、い、た、い、く、び、いうて動いたところで蝋燭の火も消えてしもうて。

あとは日が落ちた真っ暗ん中で、カコイサマが動き続けとる、 木の擦れる音だけがしばらく続いとって、

わしらにゃあそれが何を言うとるか見えんのんじゃけど、もう恐ろしいことを言うとるんじゃいうのは分かるでしょう。

 

川上さんはもう必死んなって、美咲ちゃん、もうええけ、美咲ちゃん、もう帰ってもええけ、言うて。

私も怖うてたまらんで般若心経一心に唱えおったんですが、突然耳鳴りがきーんとして、ぴしっ言うてですね、

 

カコイサマが真っ二つに割れんさって、未だに忘れんですよ、

それと同時くらいに美幸さんが物凄え甲高い、笛を吹いたみたいな悲鳴を上げんさって、

そりゃあもう、あげな小せえ体のどっから出おるんかいうような、家が震えるくらいのえれえ悲鳴だったんですから、もうみんな儀式どころじゃないですよ。

 

急いで美幸さん廊下に引っ張り出して、はよう救急車じゃ言うて、美幸さんは白目剥いて、泡吹いてがくがく痙攣しておられました。

その後はもうどげえもならんですよ。

 

儀式も続けられんし、わしらも身の置き所がない。

病院まで一緒に付き添うたんですが、旦那さんがそりゃあもう凄え形相でわしらのことを睨みつけてから、

あんたらのせいで美幸まであげえなって、悪りいがもう帰ってくれ言うちゃって、そう言われたら私らもどうもできんけえ、

荷物だけ片付けに上がらしてもろうてから、挨拶もそこそこに引き上げたんです。それが当日のことでした。

 

 

ほうで、この話はこれで終りじゃあないんです。後日、川上さんがうちに来ちゃって、こないだの件で話があるんじゃ言うて。

はええですよ言うたものの川上さんもずいぶん辛えじゃろう思うて黙りこんどったら、川上さんがこう言うちゃったんです。

ありゃあえれえ家じゃ、あがあな家じゃ知っとったらわしゃあ関わらんかった言うて。

 

何事か思うでしょう。

それでどういうことですか言うたら、川上さんが壊れたカコイサマを出してきちゃって、これを見てみんさいいうけえ、私見してもろうたんです。

そしたらですね、あん時は気付かんかったんですが、明らかに変なんですね。

普通は板いんは、折れるときは木目に沿って折れるもんじゃ思うんですが、それが木目と違う方向に無理やり折られとるんです。

折られたいうか、真ん中から割られたいうか、裂かれたいうんか、とにかくありゃあ人間業じゃあない思いましたね。

そんで川上さんも、こがな真似そうそうでけん、あすこにはわしらの思うたよりずうっと恐ろしいもんがおったんじゃ、

あんとき降りてきとったんは確かに美咲ちゃん じゃったはずじゃ思うけど、それだけじゃあなかったようにも思う、いうて。

 

どういうことね言うたら川上さん、あの電球が切れたときがあったじゃろいうて、

あったあった言うたら、あんとき私見たんよ、部屋が真っ暗んなる前、火花が飛んだとき、美幸さんの首を締めとる美咲ちゃんをはっきり見たんよ、言うて。

じゃけえ私言うたんです。

 

川上さん、それがほんまじゃとしても、そりゃあ首を締めとったんじゃなくて、おぶさっとったんじゃないですかって。

子供が親の首い締めるなんて普通考えられんで、川上さんの見間違いでしょう言うて。

ほしたらそうじゃないんじゃて川上さんは言うんですよ。

そういう子供が親に甘えとるようなふうじゃない、そりゃあもう物凄い形相で、声は聞こえんのんじゃけど、

もう気がちごうたように泣き叫んどるんがはっきり分かったんじゃけえ、ありゃああの母親には表立っては言えんことが何かあるんで、言うて。

 

私も川上さんの言うちゃることが、そこでぴんときたんです。

あがあな神隠しいうようなもんは実際にあるわけはない、いうわけでしょう。

いやね、人の魂を降ろして飯を食うとるようなもんが何を言うかと思われるでしょうが、そりゃあ話が別じゃろう思いますよ、私は。

 

人が死んで魂になるいうんはあっても、肉体のある人が煙みたいに消えるいうんは、道理が通らんです。

人一人が消えるいうんは、そりゃあえれえことなんで、そげえなことはほんまの神さんにだって難しい思いますよ。

 

じゃけえ、私はこう思うとるんです。美咲ちゃんは、あの家ん中で殺されとる。

そんで、どっか人目のない山ん中にでも運ばれて埋められとる。

じゃけえ、あがあなふうに美幸さんに祟りおるんでしょう。

 

美幸さんはあれっきり、もうまともに話もできんようになって、一日中わけのわからんことをぶつぶつ呟いとるいうことです。

日に二度ほど我に返ってから、美咲、美咲、いうて泣きおるいう話を聞いたらどうにも不憫で、

私もどうにかしてあげたいとは思うんですが、もうどがあもできんのです。

 

川上さんも参られとってで。世の中には明るみに出さんほうがええこともあるんじゃ思うとなんともやりきれんですが、

この話だけはしとかんといけんような気がして、別にこれでどうこういうつもりもありゃあせんですけど、

川上さんももうあがあなったら駄目かも知れんけえ、私の口が利けるうちにお話ししおこうと思うたいうことです。

 

誰であれ、ほんまの犯人が見つかるとええですね。美咲ちゃんの魂が安らかに眠れるように、私も祈うとります。

 

 

 

◯談話1

 

川上さんは、もう終りじゃ、殺したんはわしじゃ、殺したんはわしじゃ、言うて随分参っとったけえ、

もう気にしんさんな言うてとりあえず寝かしたんじゃけど、一晩たってみたらもうおらんようになっとって、

皆なたまげてもうて、どこに行ったんじゃろういうて皆なで探したら、裏の井戸に身を投げとったんじゃ。

 

最初に見つけたんは駐在さんじゃった思うけど、そりゃあもうがたがた震えて、わしゃあこがあな惨い死体は見たことがない言うて近づきもせんけえ、

吉田さんがそがいなことでどうするんじゃ言うて代わりに見に行きんさったんじゃけえど、これも飛んで帰ってきて、

川上さんはどうせもうだめじゃ、あがあなもん見んほうがええ言うて。

 

何を見たんじゃいうたら、真っ黒い人が底におって、それが川上さんの曲がった首をひねくり回して、

その首とわしゃあ目が合うたんじゃ、言うて。

 

そがあ言うても誰も信じられんし、何より引き上げんことにはやれんけえ、皆なで連れ立って川上さんを引き上げに行ったんよ。

ほしたらこれがたまげたことにほんまなんよ。

 

井戸の底に真っ黒い人影が座りこんどって、川上さんの首を捻り上げて、その目が恨めしそうにこっちを見おるんじゃけえ。

皆な飛び上がって逃げて、ありゃあまともじゃあねえで言うて、もういよいよ誰も近づかんのんじゃけえ。

わしもあがあな怖い思いしたんは生まれて初めてじゃ。

 

ほうじゃ言うても、そのまま放っとくわけにもいかんし、あれが表に出てきても困るけえ、

もう川上さんには悪いけど閉めたほうがええじゃろう言うて、皆なでコンクリの板転がして、井戸の中見んようにそおっと蓋をして、

ぎょうさん石のせてその日は寝たんじゃ。

 

ほんで怖いのはこっからなんよ。その日の晩に三次の春子さんのとこから電話がかかってきて、

出てみたら血相変えてあんたとこの村だいじょうぶなんね言うから、

いったいどうしたんか言うたら春子さんが、いま玄関に川上さんがきちゃってね、美恵子姉さんがえらい大事故をして重態じゃ言うんよ、って。

でも川上さんはもう亡くなったんで言うたら、おばちゃんえらい声で悲鳴上げて受話器放り出して、

 

しばらく後に聞いてみたら、玄関が血だらけじゃ言うんよ。

ほいでも別に誰も怪我しとらんし、誰の血か分からん言うて、いちおう警察にも来てもらったけど怖くて寝られん言うて、

怖くて寝られんのんはこっちよ。

 

村の家みんな叩き起こして、いまこれこれこういう電話があってこう言うちゃった言うて、話し合うた結果、

下野の三郎さんの家に嫁いできちゃった美代子さんのお兄さん、牛窓の徹さんいう人がお寺をやっとる言うて、

それでお祓いしてもろうちゃったらどうかいう話になって、さっそく電話したら、

出た瞬間に向うがこっちから何か言う前にどないしちゃったんですか言うて、聞いてみたら電話口から煙がもうもう出おる、いうて。

 

しかもこっちが話しとるすぐ横で、誰かがはあはあ息をしとる言うて。もう怖あて怖あて。

 

それで何とかならんですか言うたら、事情はともかく今すぐ行くけえ待っとってください言うてくれんさって、

皆なこれで安心じゃ思うとったら徹さんが、ちなみに誰が亡うなったんですか言うから川上さんです言うたら、

川上さんてあのまじないの人ですか、川上さんがとられたんですか言うてえれえ驚かれて、

なんでも川上さんはそうとう霊格の高え人で、それがとられる言うのはよっぽどじゃ言うて、

正直わしの手には余るけえ今夜はなんとか辛抱してください、明日えらい人を連れて行きますけえ、

それまでなんとか、いうて電話を切ろうとするけえ、これからわしらどないすればええんですか言うたら、

どないもなりません、この話も聞かれとりますけえ、 いま川上さんをとったそれがわしの真横におって、

今も耳に息がかかるんです、たぶんもうだめじゃ言うて、それで電話は切られてしもうた。

 

そがあなの聞いたら皆な震え上がってしもうて、もう一睡もできんのよ。

ほいで案の定、翌日になっても徹さんは来ん。

もうどないなったんかだいたい想像つくじゃろ。

 

電話切ったすぐ後に家を出て、田んぼに車ごと突っ込んで引っ繰り返って、そのまま重態いう話よ。

結局、徹さんをあんな目にあわしたんはわしらなんよ。

美代子さんなんか大泣きして三郎さんに食って掛かって、

こないなきち×い村に来たんが間違いじゃ言うて村を飛び出して、そっちもそれで行方知れずよ。

実家にも帰らんし村にもおらん。

車も見つからん。それっきりじゃ。

 

村は村でまた大ごとよ。

夜明けに犬がえらい鳴きおる思うたらみんな泡吹いて死んどるし、井戸の蓋もずれて落ちとる。

ほいでももう見るん怖いけえ警察に電話して来てもろうたんだけど、警察の人は中に何もありませんよ、言うちゃって。

恐る恐る見たら川上さんおらんのんよ。

 

警察の人は冗談もたいがいにしてください言うて帰っちゃったけど、こっちももうどうしたらええんかわからんで、

川上さんはどこかへ消えてしもうたし、今ではほんまに死んどったんかどうかさえ確かめようがないんじゃけえ。

もうあれは夢じゃったとまで言うひとまでおってで。

 

それで何日かした後のこと、松野の武さんが見たいう話じゃけど、

こげえなでっかい火の玉が川上さんの家の窓から入っていった言うて、

その日の晩に誰もおらん家の中から真っ黒い煙が上がって、消防が来る頃にはとっくに川上さんの家は焼けてしもうとった。

 

もうこうなったらどがあもならんけえ、わしらができるこというたら、川上さんのためにお地蔵さんを立てて、拝むくらいよ。

これでおさまってください言うて手え合わして、ほうでも何でこがあなことになったんかも誰も分からんのんじゃけ、やりようがないんよ。

今でもたまに川上さんを見たいう人が現れるおるで、あの黒いのんがまだ歩いとるんじゃろういうて皆な怯えとる。

家に鍵かけて用心して、もう日暮れには誰も表に出んのんで。

 

あんたもよう気いつけんさいよ。

この話い聞いたらもう関わりがないとは言われんのんじゃけえね。

余計なことは絶対にしんさんなよ。

あんたもいつとられんとは限らんのじゃけえ、もうこがあな話には関わらんほうがええ。

 

 

◯談話2

 

人間にもええ人とわりい人がおられるように、魂にもええ魂とわりい魂がおるんで。

先生は常々言うとられた。柱にするんならわりいのを柱にせえて。

ほうは言うけどわしは納得できんで、先生、わりい魂じゃええがにならんのじゃないですかて尋ねてみたんじゃ。

ほしたら先生は言いんさった。柱になってしまえば魂にええもわりいもない。

それは単なる魂じゃけえ、おんなじものなんじゃ、いうて。

 

 

人間は時間がたつといろんなことを忘れていく生きものじゃが、それは魂になっても変わらん。

柱になった魂は、人間じゃったときのことをゆっくりと忘れていって、そのうち安らかな赤ん坊に戻るんじゃと。

ほうで、そっからさらに色んなものが抜けていって、いよいよなんものうなったときに、その魂は神さんになるんじゃ。

 

わしらの仕事いうんは、そういう神さんを人の手でこしらえる、業の深い仕事なんじゃけえ、

いつなんどき逆にとられるか分からんいう覚悟はしとかにゃあいけん。

もともと人じゃったもんをええように使うて、それでただで済む思うとったらえれえ目にあうんよ。

 

人の恨みつらみはそりゃあ深えんじゃけ。中途半端に掘り出したら、それこそえれえことよ。

話の通じんただの恨みの塊いうんは、いがんで目も耳もないんじゃ。

お経あげても聞こえんし、お札貼っても見えんのんじゃけえ、ほうなったらもうどがあもならんのんよ。

人の手には負えんのんじゃけ、本物の神さんがおられることを信じて一心に祈るしかないんじゃ。

 

運良くええがにいったら、村のひとつかふたつ消えて、それで収まるじゃろ。

あとは滅多に人の来んような山の奥でわだかまって、熊じゃの鹿じゃの食うて、そのまま仏さんになってくれる。

わしらにはどうもできんのんじゃけえ、そう思うとくしかないんじゃ。触らぬ神に祟りなし言うんはほんまよ。

 

談話3

 

妙子さん、そういえば最近夜中んなると家の外を歩きおる人がおるんじゃいうて、

お父さんに見てもらわにゃあいけん言うとっちゃったよ。

 

夜毎に歩き回る音がする言うておちおち眠れんで、駐在も見回りは十分するけどお宅だけ特別扱いで、

夜中中見おるわけにはいかんのじゃ言うたいうて怒っとって、あそこは親父さんが土木の仕事で腕っ節が強いし気性が激しいんよ。

近所でもそりゃあ、あげえなとこに泥棒に入ったら返り討ちじゃ、叩き殺されてしまう言うて笑いおったんで。

 

いうてもね、あがな田舎の家は広いばっかりで財産なんてろくにありゃあせんのんで。どこの家もそうじゃ。

じゃけえ別に心配するようなこともないけえ言うとっちゃってじゃけど、ほうじゃ言うても気持ち悪いもんは気持ち悪いし、

それにあそこは娘さんが高校生で可愛い盛りじゃけえ、風呂場でも覗かれたらそれこそことじゃいうて。

 

それであそこの親父さんが夜中に見張りに立っちゃって、見つけて交番に突き出しちゃるんじゃ言うて、それから二日三日は何もなかったんよ。

ほしたらよ、四日目の夜中に庭の玉砂利を踏む音がして、親父さんは不審者じゃ思うて後ろからそろりそろりと近づいて、

ざっざざっざ歩きおる人影を物陰から改めて、ぱっと懐中電灯あてちゃったんよ。そしたら誰じゃった思う。

 

それが妙子さんなんよ。

親父さんもびっくりしちゃってお前どしたんじゃ言うたら、妙子さん空ろな目えをしちゃって、

みたまがなんじゃらいうて、あの神主さんの呪文みたいなんがあろう、なんじゃらかしこみもうすもうすいうて、

妙子さんそんな呪文知っとってじゃないんで、それで親父さんもこりゃあただごとじゃあない思うて、

妙子さんをむりやり家に入れて鍵い掛けて寝かせて、それで朝んなったら妙子さんはけろっとしとってで、

夜のことなんて何も覚えとりゃせんのんで。

 

逆に親父さんに向かって、あんたあ昨日は出よったかいうて聞いてくるありさまで、

あんたが寝ぼけとったんじゃいうて、みんな笑うとってで。

 

妙子さんあんたぼけるにはまだ早ええんじゃないですかいうたら、もう歳なんじゃいうことよねいうて本人も笑うとってで。

いまでもたまに夜にふらふら歩きおるようで、夜中になったらぎしぎしと廊下を歩く音じゃとか庭の土を踏む音じゃとか、

最近は親父さんの布団の周りをぐるぐる回るいうて往生しとってじゃけど、

もう家のもんも特に害はないけえ、ほっとるそうな。気味の悪い、おかしな話よね。

 

 

◯資料

 

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◯付記

 

うすおもちそいくこいきかがまとのちついじゃらあをちか

なちかべれかにらまとみかなちけてまいくとふかみえみた

めうあまてもいきあまちあらあねかとのきるのすにすのな

けまちめいまくほと

 

うかすおももいもきさきもきさきねあもりほにたちまころ

みこきさこむかめかえてあのせがさそをのもなすがすきに

びばらなるげちもぬずえまがおいろののいまきそつかそを

とかものろこきこいくえてつそいろのねうそなみそこいし

ろいれあきのともとものなしなさみるためたつなぎこわざ

うらねあとにちもにまかみくおわまそのくぬためたておを

とげあたてちともいあらほねみじゃひぬかがをのろもろむ

くさよろこきまがえてみそきくけがるさゆけたりあつなこ

だみあいあしぼぬかがにとにいこぞにぬつひあまいうかね

うよとこめだみとともたらかやらくいつおねいえちしにあ

まてみさかおをろこくらなころ

 

いじゃくどにすおひえるおじゅむじゅおじゅおおなむねな

ぎけちあまちそあにききそあにもとときもにほあのおおと

きもにほあんなけちあまちするえまだにのろこきみこいけ

ちあまてらといみすくちいくたうこりほもつざわなきのろ

こきもにたちまころめちらいらたたごちむとにらとこいあ

がつえらげきりわすかすおめてかおとくすおもみもきさし

こきさこてあまてらとおろこきむそごおちじゅけめちしな

かえむくさえだむらちいねむじほなむいすんえみさりそお

とくらたべられかないきそなちろゆおもおつらともとこな

いな

 

うすおみもきさきもきさこてはまてみさすくちねまとのち

へまとのいなかよくしむかかとだけいいはまてみさめがひ

なざういほもうかのとくはがちにちものとかめちともろこ

がみきさだちこあんいなみなもねいそいみことおちかかつ

いぬたみなねきじゃたこいむげみくたちころいほにたちま

こおうかすおみもきさきもきさきねあもおおにたちまこお

おのろもろみたちまこおおなぬすぶいまこおうされたまい

こきさかおむかめかくさみのづまこねろく

 

うかいいなぼときにごおなこのせふるほわらかとぬぢめち

さのいつためむぢさまちめちこめうししなちあつきむえっ

ともわらかとなかばらおとこにいあまよののもぬぞろいぼ

よあすごちほあおえまそえむぢそわすごちほあいらづかま

いにぬくたかねつともわらかとぬぢものきさみうかわまと

ねていさおとくまてくだすいのときもにはやひぎなまちす

きらかおへまおきふれたまえつともわらかとぬちますこつ

うはまちさはらいいたちまけむすさみらむぢまきならはま

あかつ

 

うるためたちじゃみあまちしあいかしはまちろまみなきか

かひことちえなふのしすかがにとにおてせみそきくけかり

あてちともいそよのとくるためたちさかるよたるやるえぶ

るほとおにのとかやぬみおいむひほとぬぢめおぬぢもとな

けおなことにつておにつととにておにととにけおにきみあ

こなすこちならせりほののますげすけりほにたへりほにと

ろあまらまつなこのともおんねぢいらにうがとののもぬど

ろやちさげまおりさいまこねぼののむあまちるためあくち

にくちえてもいけけちまこのそどといかるもおおときめむ

しるためたちすねくのそちまこなまちむるひねうゆあまち

さのたさくてつともをとくなこねるひねまとののもぬどろ

えともわらかつなこよいるあまめたちすお持ちまがおおい

まこのしえてくだぬあまちるたみくちえちさみさみしつい

んないなかとなひのりそとむほなまよにきひぬこのたまえ

ちさみさみらづかまいねぬばぐらきおにまかあわかふこに

たわえちろにねぬはいおなまえちあまてかこいろのときま

よいみおにまこなまうあまていそおつなにきいならそもつ

らかまべしろにうかかるやるえふるほとおにのとかやぬみ

おいむひほとぬぢめおぢもとなけおなことにつておにつと

とにへにほとにけおにくうそおもてせみそききのもとろま

いたちまこぬぞろよあよいそよのとくあまちろまみににく

ぼとかがのとこたはほとをのみじゃらあえらげきあいじゃ

いらたたごちむてちあまちらづかまうかくるたみらづかま

いまけむすけがるさゆけはりあてちせみそききなかいむし

まぎじゅうろまめむししまくそおいいちもみしいたちまく

そこよさいまくちぬきまくたまあべあまちあらきにあらひ

まけちりうたみこおいまこなるちいまあこのむこいにまこ

なそいいるためたとわる

 

けちものりうちいにたかいまけち

ともときもにもりまきごろいまくつめむすさみらむぢまき

ならはまあかちじゃききるにすおうおむにじゅうどにずう

すおみもきさかいもきさこてあまてみささむじゅおうじょ

うなちあづそおみじねににつおねぬめちせみそきこいそよ

のとくるためたちあげにおこてあまてみせせまそいのとも

なよいもみあけすぞろいあまてもいきあらひのろこぢたと

もいあわざいあまよのもぬぞろえちあまてみさらしぐのを

もろこねらぐけいむとぬおじゅいしあしえちあまてみさみ

おうざくざこのろこくらなころえちあまちきへくおいそよ

えすおめあくちみにじゅおちへぬものとかめちあまゆい

もつおとうらんにじゅおううるあまてまそおいあくにじあ

きちあくねちぬういきあじぜちあまちじゅねほたたぐさご

のおわらかちもなすことのとかやぬみおいむいはめらんに

じゅおうあまてさらいあじそごをのもぬぞろえたどそいあ

しいむおいあしえちしにあくちもなよいもんねぐのくうゆ

ついあだおおううるあまちさわらおいからたひみにとつね

てちさみさみなはらまあかつそおもてせみそききのもとろ

みたちまこぬぞろよあよいそよのときしあまてもちきなわ

こたいこととをのみじゃらあひらたたごちむてちあまちり

おまみにとまものいろまもにひあまちりいなみまいあまち

おづちにおづぢまこをのまそのもりるさめらいならばあぬ

おおえちるたみさそいのときもにまけむしせみそきかやへ

ちそたそえぬ

 

みこいけちあまちあらひにあらひまけちさら

ちこいなまよこよをのめあのそなにじゃにせてあひろちな

たくちおえちぎののりうちえちるためたてあたといまくた

だをろみむただをきむたたをおえちともをときもにもりま

きごりまくつめむすさみらむじまきならはまああかつそお

もせみそききのもとろみたちまこぬぞろよあよおいそゆお

ままてもいきあまちあらほをとをのみじゃらあひらたたが

おととききさえちせみそきかやはべまちごひみににごひま

けちさなちこをのめあのそなすがすけてたちこいなるとち

ほをとみめちきののたりそとみめちきののとあえちるたみ

ごおいまこおいむさよおえちともをときもにもりまきごり

まくめむすさみらむじまきならはまあか

 

○感想

人怖の要素を含んでいる上に、ホンモノまで登場するという恐ろしい話でした。

訳の分からない怪文書に加え、リアリティのある描写……

間違いなく、ネット上の怖い話の中では群を抜いて最恐だと思います。

 

【2ch怖い話名作選】かえるのうた (感想付き)

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ある年末の事です。会社の先輩からこんな誘いを受けました。

 

「年末年始は実家に帰るんだけど、良かったらうちで一緒に年越ししない? おもしろい行事があるのよ。一回見せてあげたいなあと思ってさ」

 

その人は私より年上でしたがとても気さくに接してくれる方で、入社した頃から何かと可愛がってくれていました。

 

仕事でもプライベートでも面倒見が良く、色々な所に連れて行ってもらったりしていたのですが、遠出の誘いはこれが初めてでした。

 

折角の帰省、増してや年末年始にお邪魔するなんて悪いなという気持ちもありましたが、

 

「気にしないでおいでよー」と言われ、私自身は実家に帰る予定も無かったので誘いを受けることにしました。

 

 

詳しく話を聞いてみると、12月の29日から31日に先輩の町では行事があるようで、年越しがてらそれを見においでという事でした。

 

会社は29日で終わり、休みに入るのは30日からです。

 

行事について尋ねてみると、

 

「私の町で毎年やってるんだけどねー。町の人達の中から一人が選ばれて、その人のために行う行事なの。

 

日が変わってからやるから、正確には30日から元旦までの3日間になるわね」

 

「深夜に? そんな時間に何をするんですか?」

 

「それは見てからのお楽しみ。今年は私のお母さんが選ばれて、もう私もお父さんも大喜びでさ」

 

「そうなんですか。よく分からないですけど、そんな時に私がいたらやっぱりお邪魔じゃないですか?」

 

「いいのいいの、うちの家族は気にしないから。のんびりしたとこだし気軽においでよ。まあ、休みは30日からだから初日のは見れないけどさ」

 

具体的な内容は分からなかったものの、何だか興味をそそられる話でした。

 

 

私がその行事について気になってきたのを察すると、

 

「もし最初から見たいなら、29日の仕事終わりにそのまま行くって事でもいいよ。あたしとしても最初から見せてあげたいしね。

 

年一回しかない上に、今年はやっとうちのお母さんが選ばれたからさ」

 

と言われました。

 

出来たらそうしたいところでしたが、あまり甘えるのも悪いと思い、結局30日に向かう事になりました。

 

先輩は少し残念そうでしたが了解してくれ、30日から元旦まで私は先輩の実家で過ごす事になりました。

 

 

当日、朝9時頃から先輩の車で目的地へ向かいました。

 

先輩の実家がある町は、私達の住んでいるところから車で3時間ほどかかります。

 

道中はのんびりと会話しながら、どんな行事なんだろうとわくわくしていました。

 

 

暫くして景色が変わってきた頃、先輩がこんな事を言いました。

 

「昨日、雨降ったよね」

 

言葉の通り、前日の29日は深夜まで雨が降っていました。

 

流れを切っての発言という訳でもなかったですし、何でもない話題なのですが、どこかに違和感があるような……そんな感じがしました。

 

「降りましたね。今日は止んでて良かったですよね。行事は雨が降ってても大丈夫なんですか?」

 

「一応は平気。昨夜は予定通り行われたよ。

 

実はさぁ、あたし昨日から帰ってたからもう大変だったのよ。

 

会社からそのまま実家向かって夜中にそれやって、終わったらまたこっち戻って来てあんた迎えに行って……今すっごい眠い」

 

そう言って大欠伸する先輩には、先程感じた妙な違和感はありませんでした。

 

そうしてまた何でもない会話をしながら進んで行き、やがて目的地に到着しました。

 

ちょうど正午になるくらいの時間だったと思います。

 

 

車を降りて先輩の実家の方へ目をやった瞬間、ぎょっとしました。

 

先輩の実家は古いお屋敷みたいな広々とした家だったのですが、家の前の庭に水溜まりがありました。

 

鯉を飼っている池のような大きさです。

 

自然に出来るものでもそれぐらい大きくなるのかもしれませんが、そこにあったのはどう見ても不自然なものに思えました。

 

泥水を張った風呂場のような、そんな感じだったのです。

 

これは一体……と戸惑っていると、

 

「これも行事に関係してるのよー。取り敢えず落ちないように気を付けてね。結構深いから」

 

と言われ、不思議に思いながらも一先ず家の中へ案内してもらいました。

 

 

中へ入ると、奥から女の人が駆け寄って来ました。

 

「遅かったね。あっ、この子がお客さん?」

 

先輩は「そうだよ」と答えながら私の方を向き、その女の人が母の姉だと教えてくれました。

 

私が挨拶を済ませると、昼食が出来てるからと奥の方に案内され、お昼をご馳走になりました。

 

食後には居間にいた先輩の父とも挨拶を交わし、先輩が昔使っていた2階の部屋に案内されました。

 

部屋に入って一息つき、ふと窓から外を眺めるとある事に気付きました。

 

隣近所の家が何軒か見えるのですが、庭に大きな穴のある家が幾つかありました。

 

水溜まりではなく、ぽっかりと大きな穴が空いているのです。

 

気になって先輩に聞くと、

 

「あぁ、あれは選ばれるのを待ってるお宅って事なの。

 

穴が無い家は一度家族の誰かが選ばれたか、今は必要ありませんって事ね。

 

選ばれた家はさっき見た通り、穴に水を入れて大きな水溜まりになるの。

 

選ばれた人は大変なのよねー。お母さんも今準備中だからうちにいないのよ」

 

という事でした。

 

 

今思えば、この時から何だかおかしな空気が漂っていたような気がします。

 

先輩の説明を聞いても、何が行われるのか全く分からない。

 

当初はお祭り気分で楽しめるような行事だとばかり思っていたのが、何か異様なもののように感じ始めていました。

 

とは言えそんな失礼な事を言う訳にもいかず、私の考え過ぎである事を願うばかりでした。

 

 

その日は行事が始まる時間までのんびりしてようという事で、前日殆ど寝てなかった先輩は寝てしまい、私は先輩の叔母さんと話したりして過ごしました。

 

夜になって夕飯やお風呂を済ませ、後は行事が始まるのをじっと待つだけとなりました。

 

この間、先輩のお母さんの姿は一度も見ていません。

 

午後23時を過ぎた頃、事態が動き出しました。

 

4人で他愛もない話をしていたところに電話が鳴り、叔母さんが出ました。

 

10分ほど話して電話を切り、先輩と先輩の父には

 

「そろそろ用意だから行っておいで」

 

と言い、私には

 

「チヨちゃんはここにいよっか。私も一緒にいるから」

 

と言いました。

 

何も分からなかった私は「はい」と答えるしかありませんでした。

 

すると、先輩がムッとしたような表情で叔母さんに近付いて行きました。

 

そして何故か険悪なムードになり、突然二人の言い合いが始まりました。

 

「叔母さん、昨日も家に残ってたよね。何で?」

 

「何年も前からさんざん言い続けてるでしょう? 私は認めてない。どうしてもやるならあんた達だけでやりなさい……って」

 

「やっとお母さんが選ばれたのに、まだそんな事言う訳? 叔母さんだってしてもらったくせに。今日だってお母さんはずっと準備してるのに」

 

「私はあんた達とは違うの。いいから早く行きなさい」

 

私は状況が飲み込めずにおろおろするしかなく、昼間の不安がますます募って行きました。

 

 

暫く二人の言い合いは続いていたのですが、先輩が時計を見て時間を気にしたのか口を閉じ、言い合いは終わりました。

 

黙って見ていた先輩の父は途中で先に出て行ってしまい、苛立った様子の先輩はばたばたと出かける支度をし、玄関へ向かいました。

 

「昨日より気合い入るわー。これから何があるか、しっかり見ててよ!」

 

私にそう言うと先輩は出て行きました。

 

先輩の姿が見えなくなったその瞬間、いきなり叔母さんが玄関の鍵を急いで閉め、私の手を掴んで居間へ戻りました。

 

そして私の顔を見つめ、神妙な面持ちで話し始めました。

 

「チヨちゃん、今から私が話す事をよく聞いて。

 

もう午前0時を回ったわね。この後、午前1時になったらある事が始まるわ。

 

このままだと、あなたは犠牲者になる」

 

思わぬ言葉でした。

 

「えっ? ……おっしゃってる意味が分かりません。どういう事なんですか?」

 

「詳しくは後で話すから!とにかく、今は解決するための話をするわ。こうなってしまった以上、あなたはその行事を見なければいけないの。

 

午前1時になったら2階に行って、部屋の窓から外を見なさい。何があっても、最後まで見なきゃダメよ。

 

ただし、声をかけたりしてはダメ。ただ見て、聞くだけでいいの」

 

「聞く? 聞くって何をですか? 一体何なんですか?」

 

「歌よ。あの子達が歌う歌を聞くの。必ず最後まで聞かなきゃダメよ。耳を塞いだりしないで最後まで。いいわね?」

 

もう何が何だか解らず、泣き出したい気持ちで一杯でした。

 

何かとんでもない事に巻き込まれてしまったのでは…どうしたら良いのか…と頭がぐるぐるしていました。

 

叔母さんは私の頭をそっと撫でながら「大丈夫」と言ってくれましたが、何を信じて良いのか分かりませんでした。

 

しかし、その間にもどんどん時間は迫って来ます。

 

結局、叔母さんに言われた通りにするしかありませんでした。

 

 

時間が過ぎて行くにつれ、私の心臓は破裂しそうな程バクバクしていました。

 

どうしよう……どうしよう……。

 

そうこうしている内に午前1時が近付き、叔母さんに2階へ行くように促されました。

 

一緒に来てくれませんかとお願いしましたが、

 

「私はここにいるから、歌が終わったらすぐに降りてらっしゃい。くれぐれもさっき言ったことをちゃんと守るようにね」

 

という答えが返ってきました。

 

さぁ……と背中を押され、逃げ出したい気持ちで2階へ上がり、昼間にいた部屋へ入りました。

 

でも、窓の外を見ようとする事が出来ず、ただうずくまって震えていました。

 

もうやだ……怖い……。

 

それだけでした。

 

5分……10分……。

 

どれくらいそうしてうずくまっていたかは覚えていません。

 

とても長い長い時間に思えました。

 

 

ふと、何かが聞こえてきている事に気付きました。

 

話し声? 叫び声?

 

何かが聞こえる。

 

私は無意識に窓に近付き、外を見ました。

 

窓の外、あの水溜まりの周りにいつの間にか大勢の人が集まっていました。

 

子供も大人も、男も女も。

 

十代ぐらいの子や5、6歳ぐらいの子、熟年の方や高齢者の方が20人ぐらい…、もっといたかもしれません。

 

その全員が、さっきまでずっと雨にでも打たれていたかのように服も体もずぶ濡れでした。

 

ピクリとも動かず、全員が水溜まりを見つめています。

 

そして、何かを話している……?

 

怖さで固まったままその光景を見ていると、次第にはっきりと何かが聞こえてくるようになりました。

 

不気味に響くその声にすぐにでも耳を塞いでしまいたかったですが、叔母さんの言葉を信じ、必死で耐えていました。

 

やがて、それが何なのかが解りました。

 

歌です。

 

叔母さんの言っていた通り、確かに歌を歌っているように聞こえました。

 

何人もの声が入り交じり、気味の悪いメロディーで、ノイズのように頭に響いてくるのです。

 

何と言っているのか、聞こえたままの歌詞はこうでした。

 

 

かえれぬこはどこか

 

かえれぬこはいけのなか

 

かえれぬこはだれか

 

かえれぬこは○○○(誰かの名前?)

 

かえるのこはどこか

 

かえるのこはいけのそと

 

かえるのこはだれか

 

かえるのこは○○○(こっちは私の名前に聞こえた)

 

かえれぬこはどうしてる

 

かえれぬこはないている

 

かえるのこはどうしてる

 

かえるのこはないている

 

 

この歌詞が二度繰り返されました。

 

全員がずぶ濡れで、水溜まりを見つめたまま歌っていました。

 

誰も大きな声を出しているような感じには見えず、私のいる部屋ともそれなりに距離があるはずなのに、その歌ははっきりと聞こえていました。

 

本当に例えようのない恐怖でした。

 

二度繰り返される間、ただガタガタと震えながらその光景を見つめ、その歌を聞き続けていました。

 

 

二度目の歌が終わった途端、静寂に包まれると同時に一人が顔を上げ、私の方を見ました。

 

それは満面の笑みを浮かべた先輩でした。

 

さっきまではあまりの恐怖で気付きませんでしたが、よく見ると先輩の父もそこにいました。

 

ただ一人、私を見上げ微笑んでいる先輩に、私は何の反応も示せませんでした。

 

暫くそのままでいると、突然そっぽを向き、どこかへ歩いて行ってしまいました。

 

すると周りの人達も一斉に動き出し、ぞろぞろと先輩の後へ続いて行きました。

 

終わったんだ……。

 

私はガクンとその場に座り込み、茫然としていました。

 

早く叔母さんのところに戻りたい。でも体が動かない。

 

頭がぼーっとなり、意識を失いそうにフラフラとしていたところで、叔母さんが二階に上がって来てくれたのです。

 

「終わったね。怖かったでしょう。よく耐えたね。もう大丈夫よ。もう大丈夫」

 

そう言いながら叔母さんに抱き締められ、私は堰を切ったように泣き出してしまいました。

 

何を思えばいいのか、本当に分かりませんでした。

 

 

少しして落ち着いた私は、叔母さんに抱えられながら居間に戻りました。

 

時間はもう午前2時を過ぎていました。

 

時間を確認すると、

 

「チヨちゃん、ホッとしている時間は無いの。あの子やあの子のお父さんは今日はもうここには戻って来ないけど、さっきのはもう一度行われるわ」

 

「……えっ……?」

 

「今度は午前3時に。歌の内容もさっきとは少し違うものになるの。ここでぐずぐずしていると、またあの子達が水溜まりに集まって来るわ。そうしたらもう取り返しがつかなくなる」

 

「そんな、どうしたらいいんですか? 私はどうしたら」

 

「落ち着いて。今から私の家に行くわ。この町を出て少し行ったとこにあるから。

 

でも、あなたが持って来たものとかは諦めてちょうだい。持ち帰ると却って危険だからね。詳しい話はそれからにしましょう。さあ、すぐ行くわよ」

 

言われるままに私と叔母さんは家を飛び出し、そこから少し離れた空き地に停められていた叔母さんの車に乗り込み、その町を後にしました。

 

 

どこを走っても同じ景色に見え、迷路から抜け出そうとしているような気分でした。

 

1時間くらい走るとようやく叔母さんの家に着来ました。

 

中に入り、ある部屋に案内されたのですが、その部屋の中を見て再び恐怖が全身に広がりました。

 

卓袱台しかないその部屋の壁一面、天井にまでお札がびっしりと貼られていたのです。

 

異常としか思えませんでした。

 

もしかして、私は騙されているのでは……。

 

叔母さんも何かとんでもない事に加担している一人?

 

そんな考えが頭を過りました。

 

次々と意味の解らない状況が続き、自分以外の者に対して不信感が募っていたのかも知れません。

 

そんな私の心を見透かすように、叔母さんは言いました。

 

「色々と思うことはあるでしょうし、恐怖もあるでしょうけど、この部屋でなきゃ話は出来ないのよ。ごめんね。我慢してね」

 

叔母さんは私をゆっくりと卓袱台の前に座らせ、自分は真向いに座りました。

 

そして、話してくれました。

 

ここからは叔母さんの話を中心に書きます。ほぼ、そのままです。

 

 

「何から話せばいいのかしらね……チヨちゃんはそもそもあの子から何て聞いて、どうしてあの町へ来たの?」

 

「毎年おもしろい行事があるから、見に来ないかって誘われたんです。

 

町の中から一人が選ばれて、その人のために行われるものだって聞きました。

 

それで今年はお母さんが選ばれた……って」

 

「期間は3日間で、今日は2日目っていうのは聞いた? 初日から来れないかって誘われなかった?」

 

「聞きました。初日から見せてあげたいからそうしようかっていう話もあったんですけど、私が断ったんです。あまりお世話になるのも悪いと思ったので……」

 

「そっか。あの子があなたに言った事は全部そのままね。

 

あれは毎年選ばれた人のために行われるもので、今年はあの子の母親が選ばれた。

 

一日目から見せたいと言ったのは、特別な意味があったから」

 

「どういう事ですか?」

 

「チヨちゃん、今日一度でもあの子の母親の姿見た? 見てないわよね?

 

それどころか、どこで何をしてるのかもあの子は具体的に話さなかったでしょう?

 

当たり前なのよ。あの子の母親、つまり私の妹だけど、死んでるんだから。何年も前にね」

 

「……えっ?……」

 

「あの子が学生の頃だったから、もう随分前よ。だから、あなたが話を聞いた時も最初からあの子の母親はいなかったって事」

 

「そんな、だって……それじゃ選ばれたっていうのは何なんですか? さっきのあれは何なんですか?」

 

「あれは死人を生き返らせるためのもの。選ばれたというのは、生き返るチャンスを得たという事なの。

 

毎年、死んだ人間の中から一人がそのチャンスを得られる。ただし、それを家族が望んでいなければダメ。

 

望む場合は庭とかに大きな穴を掘って、その意志を示すの。

 

選ばれた場合、知らない間に穴に水が溜まって行って、大きな水溜まりが出来るの。これは1月2日から12月1日までの間、時間をかけて起こるわ。

 

それによって選ばれた者の家族は29日から30一日、または30日から1日までの3日間、さっきのあれを行う。

 

そして1月2日から水が無くなり、また時間をかけて別の人が選ばれるのよ」

 

「さっき、歌を聞いたわよね? 最後まで聞いたわよね? どんな内容だったか言ってみてくれる?」

 

前述の歌詞を叔母さんに伝えました。

 

叔母さんの話ではこうなるそうです。

 

 

かえれぬ子はどこか

 

かえれぬ子は池の中

 

かえれぬ子はだれか

 

かえれぬ子は〇〇〇(選ばれた死人の名前)

 

かえるの子はどこか

 

かえるの子は池の外

 

かえるの子はだれか

 

かえるの子は〇〇〇(犠牲にする者の名前)

 

かえれぬ子はどうしてる

 

かえれぬ子は泣いている

 

かえるの子はどうしてる

 

かえるの子は鳴いている

 

 

「選ばれた死人を生き返らせるには、犠牲とする誰かに3日間歌を聞かせなきゃいけない。あの子が初日から見せたいと言ったのはそのためよ。

 

歌は午前1時から2時、3時から4時の間でそれぞれ内容が変わり、各2回ずつ歌われる。3日間で6つの内容の歌が計12回歌われるという訳。

 

さっきあなたが聞いたのは3つ目の歌ね。

 

6つ目、12回目の最後の歌を聞かせた後、その人をあの水溜まりに突き落とすの。

 

這い上がって来るのはその人ではなく、選ばれた死人。犠牲になった者は二度と帰って来ないわ。

 

そうやって、生きていた誰かの代わりに死んだ誰かが戻って来るのよ。

 

と言っても、今の人達は弔いのつもりで形だけ行う事が殆ど。ここ何年かで本当に生き返らせようとしたのは今回だけ。と言うより、あの子だけといった方が正しいかもね。

 

あの子は母親に固執してる。何年経っても断ち切れないでいるの。

 

母親が選ばれたと判った時から、あなたの話が出てたわ。どうしてあなたにしたのかは解らないけど、あの子はあなたを犠牲にして母親を生き返らせるつもりだった。

 

本来なら、2日目に来たという時点でこれは成立しないはずだったのよ。3日間のどれが欠けてもダメだからね。でも、雨が降ったのがいけなかったわね。

 

歌も含め、これらの儀式は『かえるのうた』って呼ばれてるわ。元は昔から祀られている何かに関係するものなの。

 

死人を生き返らせるなんてぐらいだから、霊とかそんな次元じゃないのかもね。

 

その何かは雨を好むって伝えられてる。3日間の内、1日でも雨が降っている中でかえるのうたを行うと……(ここだけ、はぐらかしてました)。

 

とにかく昨日雨が降った事で、あなたが1日目にいなかったというのは意味を成さなくなったの。

 

本当なら、事が済んだ3日目に現われるはずのあの子の母親が、昨日の時点であの水溜まりにいたからね。

 

あなたが最初に見た時も、さっきの歌の時も、水溜まりからじっとあなたを見つめていたのよ。

 

お母さんが準備してるっていうのは、そういう意味だったの。

 

多分、これからもあの子は諦めないわね。またいつか選ばれるのを待ち続ける。

 

だから、あの家の水溜まりの穴が無くなる事はないでしょうね」

 

 

ここでかえるのうたの話は終わりました。

 

話を聞いた事である疑問が浮かびましたが、聞けませんでした。

 

もしそうだったら……正気でいられないかもしれない。

 

そう思ったからです。

 

この夜は叔母さんの家に泊めてもらい、朝になって私の家まで送ってもらいました。

 

別れ際、叔母さんに言われました。

 

「明日から新年だけど、その1年間は雨に濡れないようにしなさい。雨の日は外出自体控えたほうがいいわ。生活は大変になるでしょうけど、必ず守ってね。

 

その1年を過ぎれば、もう大丈夫だから。もし、どうしても何か心配な事があったら、私のところにおいで。怖い思いさせて本当にごめんね。元気でね」

 

 

休みが明けた後、暫く先輩は会社に出て来ませんでした。

 

「お母さんが亡くなった」

 

と連絡して来たそうです。

 

私はその年に会社を辞めました。

 

叔母さんに忠告された通り、雨の日には一切外に出なかったので、続けられなかったんです。

 

突然雨が降るかも分からないので、その一年間は実家で引き篭もりでした。

 

尚、私が辞めるのと入れ違いで先輩は復帰なされて、今もその会社に勤めています。

 

とても会う気にはなれませんでした。

 

今、私は普通に暮らしてます。

 

○感想

かえるのうたってそういうことでしたか……

叔母さんいなかったら完全に私は連れていかれましたね。

しれっと誘ってしれっと連れていくとか……先輩怖すぎです。

でも、先輩の立場にしてみればやりきれないですね。

【2ch怖い話名作選】ヒギョウさま (感想付き)

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今はもう廃業していますが

私の母方の実家は島根で養鶏場をしていました。

 

毎年夏休みには

母親と姉、弟、私の4人で帰省していました。

 

父は仕事が休めず

毎年家に残っていました。

 

母の実家は島根県の邑智郡と言うところで、

よく言えば自然豊かな日本の原風景が広がる土地、

まあはっきり言って田舎です。

 

そこでいつも一週間くらい滞在して

お爺ちゃんとお婆ちゃんに甘えながら楽しく遊びました。

 

田舎のことですので

お爺ちゃんもお婆ちゃんも朝がとても早く、

夜がこれまたすごく早い。

 

朝4時ころには起きて、

一番鶏が鳴く前に養鶏場の鶏に飼料をやり始め、

そのまま糞をとったり玉子を回収したり

孵化器を見たりの作業をしつつ、畑の手入れをし、

夕方の5時ころには作業をやめて夕食、

そして夜の7時ころには

晩酌のビール片手にうつらうつらし始めるのです。

 

自然と私達も夜の8時ころには布団に入るのですが、

そんな早くから寝られるものではありません。

 

布団の中でその日行った川での出来事や、

明日何をしようか等考え始めると

目が完全に冴えてしまい、

寝られなくなりました。

 

夜中、

真っ暗な天井の梁を見るともなしに見ていると、

私達の居る居間の隣、

お爺さん達の寝ている六畳間のふすまが開く音がし、

廊下をギシギシと誰かが歩き、

玄関をあけて出て行きました。

 

そのまま夢うつつでボーっとしていると

しばらくして柱時計がボ~ンボ~ンと12回鳴り

 

(ああ、もうそんな時間か)

 

と思いました。

 

すると5分くらいして玄関の開く音がし、

誰かがサンダルを脱ぎ

廊下をまたギシギシと歩き、

六畳間へ入っていきました。

 

(お爺ちゃんかお婆ちゃんが

鶏の様子か畑の様子でも見に行ったのだろう。)

 

そう思い、

あれこれ想像しているうちに寝たようで、

気が付くと朝になっていて、

皆もう朝ごはんを食べていました。

 

夢うつつの状態での出来事だったので

夢かもしれないと思いましたが、

その日の夜、また眠れずに居ると、

やはり同じように夜中に誰かが外に出て、

同じようにしばらくして戻ってくるのです。

 

次の日も、また次の日も、

どうやらその誰かは毎晩11時30分に出て行き、

0時5分ころ戻ってくるようです。

 

昼間に姉と弟に聞いてみても、

二人ともぜんぜん気付いていない様子でした。

 

大人のする事には

なんでも興味があった頃のことです。

 

私は誰が何をしているのか

見てみたいと思いました。

 

5日目、

昼間あまり騒がないようにして体力を温存し、

眠らないようにしてその誰かの後をつけることにしました。

 

これまで毎晩眠れなくて困っていたのに、

眠らないようにしようと思うと今度は眠たくなるもので、

危うく寝過ごすところでしたが

何とかその誰かの気配で目を覚ますことが出来ました。

 

気配が玄関を出て行くの待って、

私も玄関へ行き、サンダルを履いて外に出ると、

お爺ちゃんが母屋から50mくらい離れたところにある

孵化室の中へ入っていくところでした。

 

孵化室というのは

鶏の生んだ玉子を孵化器で暖めて孵し、

生まれた雛をある程度まで育てる専用の建物で、

本来なら孵化所とでも呼ぶべきなのでしょうが、

お爺ちゃんは孵化室と呼んでいました。

 

私もそっとお爺ちゃんの後に入ってみると、

中は照明が付いておらず、

孵化器の中から漏れるヒヨコ電球の

ボンヤリとした赤い光だけが頼りでした。

 

薄暗いと言うかコタツの中のような赤暗い中で、

お爺ちゃんは凄く真剣な顔で孵化器の中を覗いていました。

 

そしてたくさんある玉子の中から3つほど取り出し、

玉子から顔をそむけると

いきなりブリキのゴミ箱の中に叩きつけました。

 

私はビックリして

 

「なにしょうるん?」

 

と大声で言ってしまいました。

 

お爺ちゃんは私以上にビックリした様子で、

倒れるんじゃないかと心配になるくらいの形相でしたが、

私だと分かると安心したのか

全身の力が抜けたようになって

 

「なんじゃ、坊か、ビックリさすなや」

 

と苦笑いを浮かべました。

 

私がもう一度

 

「なにしょうるん?」

 

と聞くとお爺ちゃんは

 

「悪いんをとりょうるんよ」

 

と言って、

また孵化器の中を覗き始めました。

 

私はそれまでに孵る前の雛を間引くなぞ

聞いたことも無かったので

 

「ヒヨコに悪いんがおるん?」

 

と聞きました。

 

お爺ちゃんは

 

「ほうよ、取らにゃあ大変なことになるんよ」

 

と言って孵化器の中から

また一つ玉子を取り出しました。

 

私は玉子を良く見ようと覗き込みましたが、

お爺ちゃんがあわてた様子で

 

「こりゃ見ちゃダメじゃ!

目が潰れるで!」

 

と言って

すぐにブリキのゴミ箱の中に

玉子を叩きつけてしまいました。

 

私が見た玉子には、

中から雛が突いたのでしょう。

 

大きなヒビが入っており、

もうじき雛が孵りそうな様子でした。

 

ゴミ箱の中はスプラッタな様子が容易に想像できたので

見たいとも思いませんでしたが、

お爺さんは私の目から隠すように

すぐに蓋をしていました。

 

その時、

ゴミ箱の蓋に何か白い紙のようなものが

貼ってあるのが見えました。

 

何だろうと思っていると

お爺ちゃんが腕時計を見て、

 

「0時を回ったけえ、

今日は終わりじゃ、

坊、帰って寝ようや」

 

と言い、

すぐに孵化室から出ようとしました。

 

私も夜中にこんな不気味なところへ

一人で残されるのは御免なので

あわてて孵化室を出ました。

 

そのとき、孵化室のドアの横に

なにか玩具のようなものが見えたような気がしましたが、

もう眠いし、ちょっと怖くなってきたので

次の日見ることにして、

お爺ちゃんと一緒に母屋へ帰り、

その晩はお爺ちゃんの布団で一緒に寝ました。

 

次の日、午前中,弟と虫取り遊びをし、

帰って早めの昼食を摂っていると

何か違和感を覚えました。

 

(ああそうだ、

今日はお爺ちゃんが居るんだ)

 

よく考えてみると、

それまでお爺ちゃんと一緒に昼食を摂った記憶がありません。

 

いつもお昼の11時30分頃から

姿が見えなくなっていたのです。

 

その日は村の寄り合いがあるとかで朝から出かけており、

11時頃ベロベロに酔っ払って帰ってきて、

一緒に食卓を囲んだのでした。

 

お爺ちゃんは

白飯に冷たい麦茶と漬物でお茶漬けにして食べていましたが、

途中で食卓に突っ伏して寝てしました。

 

私達は起こしちゃ悪いと思って

静かに食事を済ませ、

外に遊びに行きました。

 

外に出てから

前の晩にチラッと見た孵化室の玩具のようなものを思い出し、

弟と一緒に見に行くことにしました。

 

それは、玩具ではありませんでした。

 

ペンキのようなもので鏡面を朱色に塗られた手鏡。

 

粘土で作られた小さな牛の像。

 

プラスチックの安そうな造花。

 

昨夜はそのカラフルな色合いから、

玩具のように見えたのでしょう。

 

しかし、

それらはなんに使うものか

まったく見当も付きませんでした。

 

私はお爺ちゃんが

昨夜玉子を捨てていたゴミ箱に気が付きました。

 

昨夜は暗くてよく分かりませんでしたが、

明るいところで見るとそのゴミ箱の蓋には、

昔風の線を崩した読めない字で何か書いてある

古そうな紙が一杯貼ってありました。

 

「あっ!生まれとるで!

・・・え、・・・何・・アレ・・・」

 

孵化器を覗いた弟が、

玉子が孵っているを見つけたようです。

 

私は、

生まれたての雛を見たくて

孵化器の扉を開けました。

 

すると

 

雛?がいました。

 

しかし、その雛?は

他の雛とは何かが違いました。

 

良く見ると、

他の雛達と違い、

全く震えていませんでした。

 

全くさえずっていませんでした。

 

そして眼が、

眼だけが、人のそれでした。

 

ソレは孵化器の棚からドサッと土間へ落ちると、

首を振らず、スタスタと歩いていきました。

 

私はその異様さに、

動くことができませんでした。

 

ソレが孵化室を出て西のほうへ歩いていき、

見えなくなると、

金縛りが解けたようにやっと動けるようになりました。

 

そして弟の方を見ると、

弟は

 

よだれをダラダラと流し、

眼はどこも見ておらず、

呼びかけても呼びかけても

反応がありませんでした。

 

私が大声で弟の名を何度も呼んでいると、

お爺ちゃんとお婆ちゃんが

息を切らして飛び込んできました。

 

「おいっ!!見たんか!!」

 

私はお爺ちゃんの形相が恐ろしくて

「見てない」と答えました。

 

お爺ちゃんは私の眼を見ながら

 

「見とるじゃろ。どっち行ったんなら?」

 

と怖い眼で聞きました。

 

「あっち」

 

と私は西のほうを指差しました。

 

するとお爺ちゃんは

出入り口のドアの横においてあった粘土の牛の像と造花を持って、

私の指差した方へ走っていきました。

 

お婆ちゃんは弟の名を何度も呼んでいましたが

弟はよだれを流すばかりでなんの反応もしませんでした。

 

「ヒギョウさまと眼が合うたんか・・・」

 

お婆ちゃんは悲しそうに言いました。

 

「もう直らんの?」

 

私は、弟とそれを見るお婆ちゃんに、

幼いながらもただならぬ様子を感じ、

そう尋ねました。

 

「いや・・・坊、

そこの赤うに塗っとる鏡を取ってくれ。」

 

私が鏡面を朱色に縫られた手鏡を手渡すと

お婆ちゃんは、

 

「見ちゃあいけん、

母ちゃんのところへ行っとき。」

 

と、私を孵化室の外へ出しました。

 

私は母と姉のところへ行きましたが、

母に何と話していいものか、

何も言えずに母に抱きついていると、

弟とお婆ちゃんが戻ってきました。

 

私は歩いてくる弟を見て、

 

(ああなんでもなかったんだ。

良かった)

 

とホッとしましたが、

何か、弟に違和感を感じました。

 

話してみると、確かに弟です。

 

一緒に孵化室に行ったことや、

昨日のこと、一昨日のことも覚えています

 

しかし、

どこか、何かが違うのです。

 

母も、弟に何かを感じたのでしょう。

 

お婆ちゃんに

 

「お母ちゃん、まさか・・・」

 

と聞きました。

 

お婆ちゃんは悲しそうに頷くだけでした。

 

母が、弟を抱きしめて

ワンワンと泣いたのを覚えています。

 

弟はキョトンとしていました。

 

姉は弟を薄気味悪そうに見ていましたが、

母が泣くのを見て、

一緒に泣き出しました。

 

しばらくすると

お爺ちゃんが帰ってきました。

 

「ダメじゃ、間に合わなんだ」

 

そう言って悲しそうに首を振りました。

 

「婆さん、誰かは分からんが

遅うても2、3日の内じゃろう、

喪服を出して風に当てといてくれ」

 

そういうとお爺ちゃんは弟を抱きしめ、

 

「すまんのう、

お爺ちゃんが寝とったけえ、

こがあなことに・・・ほんまにすまんのう」

 

お爺ちゃんはボロボロと涙を流して謝りました。

 

弟は

 

「何?お爺ちゃん痛いよ」

 

等言っていました。

 

その声、そのしぐさ、確かに弟なのですが、

やはりソレは弟ではありませんでした。

 

後からお爺ちゃんは言いました。

 

「お天道さんの一番高い刻と夜の一番深い刻に生まれた雛は、

御役目を持っとるんじゃ。

じゃけえ、殺さにゃあいけんのよ。」

 

「夜に生まれた雛も『ヒギョウさま』になるの?」

 

と、私は聞きました。

 

「誰に・・・

ほうか、婆さんが言うたんか。

いや、違う。

夜に生まれたんはもっともっと恐ろしいもんになるんじゃ。」

 

そういってお爺さんは

薄気味わるそうに孵化室のほうを見ました。

 

このときの話はこれで終わりです。

 

後に、私が高校の時に、

実家が養鶏場を営んでいる同級生がいました。

 

そいつに『ヒギョウさま』について聞いてみると、

最初は何のことか分からない様子でしたが、

あの夏の出来事を話すと、

 

「ああ、『言わし鶏』のことだな。」

 

と言っていました。

 

何でも、

今ではオートメーション化が進み、

センサーとタイマーにより、

自動的に12時と24時に孵りそうな玉子は

排除されるのだそうです。

 

あれからも毎年島根へ帰省しています。

 

弟は元気に小学校で教師をしています。

 

もう、以前の弟がどうだったか、

覚えていません。

 

だからもういいのです。

 

アレから二十年も家族として暮らしてきたのですから、

もう完全に家族なんです。

 

○感想

やりきれない話ですね。恐らく記憶は弟だけど魂は別人みたいな感じになってしまっているんでしょうね。

家も養鶏やってましたが、そんな風習はありませんのでご心配なく。

しかし、リアリティのある怖い話でした。

【2ch怖い話名作選】リゾートバイト (感想付き)

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まずはじめに言っておくが、こいつは驚くほど長い。

そしてあろうことか、たいした話ではない。死ぬほど暇なやつだけ読んでくれ。

忠告はしたので、はじめる。

 

これは俺が大学3年の時の話。

夏休みも間近にせまり、大学の仲間5人で海に旅行に行こうって計画を立てたんだ。

 

計画段階で、仲間の一人がどうせなら海でバイトしないかって言い出して、俺も夏休みの予定なんて特になかったから二つ返事でOKを出した。

そのうち2人は、なにやらゼミの合宿があるらしいとかで、バイトはNGってことに。

 

結局、5人のうち3人が海でバイトすることにして、残り2人は旅行として俺達の働く旅館に泊まりに来ればいいべって話になった。

それで、まずは肝心の働き場所を見つけるべく、3人で手分けして色々探してまわることにした。

 

ネットで探してたんだが、結構募集してるもんで、友達同士歓迎っていう文字も多かった。

俺達はそこから、ひとつの旅館を選択した。

もちろんナンパの名所といわれる海の近く。そこはぬかりない。

 

電話でバイトの申し込みをした訳だが、それはもうトントン拍子に話は進み、途中で友達と2日間くらい合流したいという申し出も

「その分いっぱい働いてもらうわよ」

という女将さんの一言で難なく決まった。

 

計画も大筋決まり、テンションの上がった俺達は、そのまま何故か健康ランドへ直行し

その後友達の住むアパートに集まって、風呂上りのツルピカンの顔で、ナンパ成功時の行動などを綿密に打ち合わせた。

 

そして仲間うち3人(俺含む)が旅館へと旅立つ日がやってきた。

初めてのリゾートバイトな訳で、緊張と期待で結構わくわくしてる僕的な俺がいた。

 

旅館に到着すると、2階建ての結構広めの民宿だった。

一言で言うなら、田舎のばーちゃんち。

○○旅館とは書いてあるけど、まあ民宿だった。○○荘のほうがしっくりくるかんじ。

 

入り口から声をかけると、中から若い女の子が笑顔で出迎えてくれた。

ここでグッとテンションが上がる俺。

 

旅館の中は、客室が4部屋、みんなで食事する広間が1つ、従業員住み込み用の部屋が2つで計7つの部屋があると説明され、俺達ははじめ広間に通された。

しばらく待っていると、若い女の子が麦茶を持ってきてくれた。

名前は「美咲ちゃん」といって、この近くで育った女の子だった。

それと一緒に入ってきたのが女将さんの「真樹子さん」。

恰幅が良くて笑い声の大きな、すげーいい人。もう少し若かったら俺惚れてた。

あと旦那さんもいて、計6人でこの民宿を切り盛りしていくことになった。

ある程度自己紹介とかが済んで、女将さんが言った。

 

「客室はそこの右の廊下を突き当たって左右にあるからね。

そんであんたたちの寝泊りする部屋は、左の廊下の突き当たり。

あとは荷物置いてから説明するから、ひとまずゆっくりしてきな。」

 

ふと友達が疑問に思ったことを聞いた。(友達をA・Bってことにしとく)

 

A「2階じゃないんですか?客室って。」

 

すると女将さんは、笑顔で答えた。

 

「違うよ。2階は今使ってないんだよ」

 

俺達は、今はまだシーズンじゃないからかな?って思って特に気に留めてなかった。

そのうち開放するんだろ、くらいに思って。

部屋について荷物を下ろして、部屋から見える景色とか見てると、本当に気が安らいだ。

これからバイトで大変かもしれないけど、こんないい場所でひと夏過ごせるのなら全然いいと思った。

ひと夏のあばんちゅーるも期待してたしね。

 

そうして俺達のバイト生活が始まった。

 

大変なことも大量にあったが、みんな良い人だから全然苦にならなかった。

やっぱ職場は人間関係ですな。

1週間が過ぎたころ、友達の一人がこう言った。

 

A「なあ、俺達良いバイト先見つけたよな。」

B「ああ、しかもたんまり金はいるしな」

 

友達二人が話す中俺も

 

俺「そーだな。でももーすぐシーズンだろ?忙しくなるな。」

A「そういえば、シーズンになったら2階は開放すんのか?」

B「しねーだろ。2階って女将さんたち住んでるんじゃないのか?」

 

俺とAは

A俺「え、そうなの?」と声を揃える。

 

B「いやわかんねーけど。でも最近女将さん、よく2階に飯持ってってないか?」

と友達が言った。

 

A「知らん」

俺「知らん」

 

Bは夕時、玄関前の掃き掃除を担当しているため、2階に上がる女将さんの姿をよく見かけるのだという。

女将さんはお盆に飯を乗っけて、そそくさと2階へ続く階段に消えていくらしい。

 

その話を聞いた俺達は

「へ~」「ふ~ん」

みたいな感じで、別になんの違和感も抱いていなかった。

 

それから何日かしたある日、いつもどおり廊下の掃除をしていた俺なんだが

見ちゃったんだ。客室からこっそり出てくる女将さんを。

女将さんは基本、部屋の掃除とかしないんだ。そうゆうのするのは全部美咲ちゃん。

だから余計に怪しかったのかもしれないけど。

 

はじめは目を疑ったんだが、やっぱり女将さんで、その日一日もんもんしたものを抱えていた俺は、結局黙っていられなくて友達に話したんだ。

すると、Aが言ったんだよ

 

A「それ、俺も見たことあるわ」

俺「おい、マジか。なんで言わなかったんだよ」

B「それ、俺ないわ」

俺「じゃー黙れ」

A「だってなんか用あるんだと思ってたし、それに、疑ってギクシャクすんの嫌じゃん」

俺「確かに」

 

俺達はそのとき、残り1ヶ月近くバイト期間があった訳で。

3人で、見てみぬふりをするか否かで話し合ったんだ。

そしたらBが

 

「じゃあ、女将さんの後ろつけりゃいいじゃん」

 

ていう提案をした。

 

A「つけるってなんだよ。この狭い旅館でつけるって現実的に考えてバレるだろ」

B「まーね」

俺「なんで言ったんだよ」

AB俺「・・・」

 

3人で考えても埒があかなかった。

来週には残りの2人がここに来ることになってるし、何事もなく過ごせば楽しく過ごせるんじゃないかって思った。

だけど俺ら男だし。3人組みだし?ちょっと冒険心が働いて、「なにか不審なものを見たら報告する」ってことで、その晩は大人しく寝たわけ。

 

そしたら次の日の晩、Bがひとつ同じ部屋の中にいる俺達をわざとらしく招集。

お前が来いや!!と思ったが渋々Bのもとに集まる。

 

B「おれさ、女将さんがよく2階に上がるっていったじゃん?あれ、最後まで見届けたんだよ。

いつも女将さんが階段に入っていくところまでしか見てなかったんだけど、昨日はそのあと出てくるまで待ってたんだよ

そしたらさ、5分くらいで降りてきたんだ。」

A「そんで?」

B「女将さんていつも俺らと飯くってるよな?それなのに盆に飯のっけて2階に上がるってことは、誰かが上に住んでるってことだろ?」

俺「まあ、そうなるよな・・・」

B「でも俺らは、そんな人見たこともないし、話すら聞いてない」

A「確かに怪しいけど、病人かなんかっていう線もあるよな」

B「そそ。俺もそれは思った。でも5分で飯完食するって、結構元気だよな?」

A「そこで決めるのはどうかと思うけどな」

B「でも怪しくないか?お前ら怪しいことは報告しろっていったじゃん?だから報告した」

 

語尾がちょっと得意げになっていたので俺とAはイラっとしたが、そこは置いておいて、確かに少し不気味だなって思った。

 

「2階にはなにがあるんだろう?」

 

みんなそんな想いでいっぱいだったんだ。

 

次の日、いつもの仕事を早めに済ませ、俺とAはBのいる玄関先へ集合した。

そして女将さんが出てくるのを待った。

しばらくすると女将さんは盆に飯を載せて出てきて、2階に上がる階段のドアを開くと、奥のほうに消えていった。

ここで説明しておくと、2階へ続く階段は、玄関を出て外にある。

1階の室内から2階へ行く階段は俺達の見たところでは確認できなかった。

玄関を出て壁伝いに進み角を曲がると、そこの壁にドアがある。

そこを開けると階段がある。わかりずらかったらごめん。

 

とりあえずそこに消えてった女将さんは、Bの言ったとおり5分ほど経つと戻ってきて、お盆の上の飯は空だった。

そして俺達に気づかないまま、1階に入っていった。

 

B「な?早いだろ?」

俺「ああ、確かに早いな」

A「なにがあるんだ?上」

B「知らない。見に行く?」

A「ぶっちゃけ俺、今ちょーびびってるけど?」

B「俺もですけど?」

俺「とりあえず行ってみるべ」

 

そう言って3人で2階に続く階段のドアの前に行ったんだ。

 

A「鍵とか閉まってないの?」

というAの心配をよそに、俺がドアノブを回すと、すんなり開いた。

 

「カチャ」

 

ドアが数センチ開き、左端にいたBの位置からならかろうじて中が見えるようになったとき

B「うっ」

Bが顔を歪めて手で鼻をつまんだ。

 

A「どした?」

B「なんか臭くない?」

 

俺とAにはなにもわからなかったんだが、Bは激しく匂いに反応していた。

 

A「おまえ、ふざけてるのか?」

 

Aはびびってるから、Bのその動作に腹が立ったらしく、でもBはすごい真剣に

 

B「いやマジで。匂わないの?ドアもっと開ければわかるよ」

と言った。

 

俺は、意を決してドアを一気に開けた。モアっと暖かい空気が中から溢れ、それと同時に埃が舞った。

 

俺「この埃の匂い?」

B「あれ?匂わなくなった」

A「こんな時にふざけんなよ。俺、なにかあったら絶対お前置いてくからな。今心に決めたわ」

 

とびびるAは悪態をつく。

 

B「いやごめんって。でも本当に匂ったんだよ。なんていうか・・生ゴミの匂いっぽくてさ」

A「もういいって。気のせいだろ」

 

そんな二人を横目に俺はあることに気づいた。

廊下が、すごい狭い。

人が一人通れるくらいだった。

そして電気らしきものが見当たらない。外の光でかろうじて階段の突き当たりが見える。

突き当たりには、もうひとつドアがあった。

 

俺「これ、上るとなるとひとりだな」

A「いやいやいや、上らないでしょ」

B「上らないの?」

A「上りたいならお前行けよ。俺は行かない」

B「おれも、むりだな」

AがBをどつく。

俺「結局行かねーのかよ。んじゃー、俺いってみる」

AB「本気?」

俺「俺こういうの、気になったら寝れないタイプ。寝れなくて真夜中一人で来ちゃうタイプ。それ完全に死亡フラグだろ?だから、今行っとく。」

 

訳のわからない理由だったが、俺の好奇心を考慮すれば、今AとBがいるこのタイミングで確認するほうがいいと思ったんだ。

でも、その好奇心に引けを取らずして恐怖心はあったわけで。

とりあえず俺一人行くことになったが、なにか非常事態が起きた場合は絶対に(俺を置いて)逃げたりせず、真っ先に教えてくれっていう話になったんだ。

ただし、何事もないときは、急に大声を出したりするなと。

もしそうしてしまったときは、命の保障はできないとも伝えた。俺のね。

そんでソロソロと階段を上りだす俺。

 

階段の中は、外からの光が差し込み、薄暗い感じだった。

慎重に一段ずつ階段を上り始めたが、途中から

「パキっ・・・パキっ」

と音がするようになった。

何事かと思い、怖くなって後ろを振り返り、二人を確認する。

二人は音に気づいていないのか、じっとこちらを見て親指を立てる。「異常なし」の意味を込めて。

 

俺は微かに頷き、再度2階に向き直る。古い家によくある、床の鳴る現象だと思い込んだ。

下の入り口からの光があまり届かないところまで上ると、好奇心と恐怖心の均衡が怪しくなってきて、今にも逃げ帰りたい気分になった。

暗闇で目を凝らすと、突き当たりのドアの前に何かが立っている・・かもしれないとか

そういう「かもしれない思考」が本領を発揮しだした。

 

「パキパキパキっ・・」

 

この音も段々激しくなり、どうも自分が何かを踏んでいる感触があった。

虫か?と思った。背筋がゾクゾクした。

でも何かが動いている様子はなく、暗くて確認もできなかった。

 

何度振り返ったかわからないが、途中から下の二人の姿が逆光のせいか薄暗い影に見えるようになった。ただ親指はしっかり立てていてくれた。

そしてとうとう突き当たりに差し掛かったとき、強烈な異臭が俺の鼻を突いた。

俺はBとまったく同じ反応をした。

 

俺「うっ」

 

異様に臭い。生ゴミと下水の匂いが入り混じったような感じだった。

(なんだ?なんだなんだなんだ?)

そう思って当たりを見回す。

 

その時、俺の目に飛び込んできたのは、突き当たり踊り場の角に大量に積み重ねられた飯だった。

まさにそれが異臭の元となっていて、何故気づかなかったのかってくらいに蝿が飛びかっていた。

そして俺は、半狂乱の中、もうひとつあることを発見してしまう。

 

2階の突き当たりのドアの淵には、ベニヤ板みたいなのが無数の釘で打ち付けられていて、その上から大量のお札が貼られていたんだ。

さらに、打ち付けた釘に、なんか細長いロープが巻きつけられてて、くもの巣みたいになってた。

俺、正直お札を見たのは初めてだった。

だからあれがお札だったと言い切れる自信もないんだが、大量のステッカーでもないだろうと思うんだ。

 

明らかに、なにか閉じ込めてますっていう雰囲気全開だった。

 

俺はそこで初めて、自分のしたことは間違いだったんだと思った。

「帰ろう」

そう思って踵を返して行こうとしたとき、突然背後から

 

ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ

 

という音がしたんだ。

ドアの向こう側で、なにか引っかいているような音だった。

そしてその後に

 

「ひゅー・・ひゅっひゅー」

 

不規則な呼吸音が聞こえてきた。

このときは本当に心臓が止まるかとおもった。

 

(そこに誰かいるの?誰?誰なの?)←俺の心の中

 

あの時の俺は、ホラー映画の脇役の演技を遥かに逸脱していたんじゃないかと思う。

そのまま後ろを見ずに行けばいいんだけど、あれって実際できないぞ。

そのまま行く勇気もなければ、振り返る勇気もないんだ。

そこに立ちすくむしかできかった。

眼球だけがキョロキョロ動いて、冷や汗で背中はビッショリだった。

 

その間も

ガリガリガリガリガリガリ

「ひゅー・・ひゅっひゅー」

って音は続き、緊張で硬くなった俺の脚をどうにか動かそうと必死になった。

 

すると背後から聞こえていた音が一瞬やんで、シンっとなったんだ。

ほんとに一瞬だった。瞬きする間もなかったくらい。

すぐに、「バンっ!」って聞こえて

ガリガリガリガリガリガリ」って始まった。

 

信じられなかったんだけど、それはおれの頭の真上、天井裏聞こえてきたんだ。

さっきまでドアの向こう側で鳴っていたはずなのに、ソレが一瞬で頭上に移動したんだ。

足がブルブル震えだして、もうどうにもできないと思った。

心の中で、助けてって何度も叫んだ。

 

そんな中、本当にこれも一瞬なんだけど、視界の片隅に動くものが見えた。

あのときの俺は動くものすべてが恐怖で、見ようか見まいかかなり躊躇したんだが、意を決して目をやると、それはAとBだった。

下から何か叫びながら手招きしている。

 

そこでやっとAとBの声が聞こえてきた。

A「おい!早く降りてこい!!」

B「大丈夫か?」

 

この瞬間一気に体が自由になり、我に返った俺は一目散に階段を駆け下りた。

あとで二人に聞いたんだが、俺はこの時目を瞑ったまま、一段抜かししながらものすごい勢いで降りてきたらしい。

駆け下りた俺は、とにかく安全な場所に行きたくて、そのままAとBの横を通りすぎ部屋に走っていったらしい。この辺はあまり記憶がない。

恐怖の記憶で埋め尽くされてるからかな。

 

部屋に戻ってしばらくするとAとBが戻ってきた。

A「おい、大丈夫か?」

B「なにがあったんだ?あそこになにかあったのか?」

答えられなかった。

というか、耳にあの音たちが残っていて、思い出すのが怖かった。

 

するとAが慎重な面持ちで、こう聞いてきた。

A「お前、上で何食ってたんだ?」

質問の意味がわからず聞き返した。

 

するとAはとんでもないことを言い出した。

A「お前さ、上についてすぐしゃがみこんだろ?俺とBで何してんだろって目を凝らしてたんだけど、なにかを必死に食ってたぞ。というか、口に詰め込んでた。」

B「うん・・。しかもさ、それ・・」

AとBは揃って俺の胸元を見つめる。

 

なにかと思って自分の胸元を見ると、大量の汚物がくっついていた。

そこから、食物の腐ったような匂いがぷんぷんして、俺は一目散にトイレに駆け込み、胃袋の中身を全部吐き出した。

 

なにが起きているのかわからなかった。

 

俺は上に行ってからの記憶はあるし、あの恐怖の体験も鮮明に覚えている。

ただの一度もしゃがみこんでいないし、ましてやあの腐った残飯を口に入れるはずがない。

それなのに、確かに俺の服には腐った残飯がこびりついていて、よく見れば手にも、ソレを掴んだ形跡があった。

気が狂いそうになった。

 

俺を心配して見に来たAとBは

A「何があったのか話してくれないか?ちょっとお前尋常じゃない。」

と言った。

 

俺は恐怖に負けそうになりながらも、一人で抱え込むよりはいくらかましだと思い、さっき自分が階段の突き当たりで体験したことをひとつひとつ話した。

AとBは、何度も頷きながら真剣に話を聞いていた。

 

二人が見た俺の姿と、俺自身が体験した話が完全に食い違っていても、最後までちゃんと聞いてくれたんだ。それだけで、安心感に包まれて泣きそうになった。

少しホッとしていると、足がヒリヒリすることに気づいた。

なんだ?と思って見てみると、細かい切り傷が足の裏や膝に大量にあった。

不思議におもって目を凝らすと、なにやら細かいプラスチックの破片ようなものが所々に付着していることに気づいた。

赤いものと、ちょっと黒みのかかった白いものがあった。

俺がマジマジと見ていると

B「何それ?」

といってBはその破片を手にとって眺めた。

 

途端「ひっ」といってそれを床に投げ出した。

その動作につられてAと俺も体がビクってなる。

 

A「なんなんだよ?」

B「それ、よく見てみろよ」

A「なんだよ?言えよ恐いから!」

B「つ、爪じゃないか?」

 

瞬間、三人共完全に固まった。

AB俺「・・・」

 

俺はそのとき、ものすごい恐怖のそばで、何故か冷静にさっきまでの音を思い返していた。

(ああ、あれ爪で引っかいてた音なんだ・・)

どうしてそう思ったかわからない。だけど、思い返してみれば繋がらないこともないんだ。

階段を上るときに鳴っていた「パキパキ」っていう音も、何かを踏みつけていた感触も、床に大量に散らばった爪のせいだったんじゃないか?って。

そしてその爪は、壁の向こうから必死に引っかいている何かのものなんじゃないか?って。

きっと、膝をついて残飯を食ったとき、恐怖のせいで階段を無茶に駆け下りたとき、床に散らばる爪の破片のせいでケガをしたんだろう。

 

でも、そんなことはもうどうでもいい。

確かなことは、ここにはもういられないってことだった。

 

俺はAとBに言った。

俺「このまま働けるはずがない」

A「わかってる」

B「俺もそう思ってた」

俺「明日、女将さんに言おう」

A「言っていくのか?」

俺「仕方ないよ。世話になったのは事実だし、謝らなきゃいけないことだ」

B「でも、今回のことで女将さん怪しさナンバーワンだよ?もしあそこに行ったって言ったらどんな顔するのか俺見たくない」

俺「バカ。言うはずないだろ。普通にやめるんだよ。」

A「うん、そっちのほうがいいな」

 

そんなこんなで、俺たちはその晩のうちに荷物をまとめ、男なのにむさくるしくて申し訳ないが、あまりの恐怖のため、布団を2枚くっつけてそこに3人で無理やり寝た。

めざしのように寄り添って寝た。

 

誰一人、寝息を立てるやつはいなかったけど。

そうして明日を迎えることになるんだ。

 

次の日、誰もほとんど口をきかないまま朝を迎えた。

沈黙の中、急に携帯のアラームが鳴った。いつも俺達が起きる時間だった。

Bの体がビクンってなって、相当怯えているのが伺えた。

Bは根がすごく優しいヤツだから、前の晩俺に言ったんだ。

 

B「ごめんな。俺なんかよりお前のほうが全然怖い思いしたよな。

それなのに俺がこんなんでごめん。助けに行かなくて本当ごめん。」

 

俺はそれだけで本当に嬉しくて目頭が熱くなった。

 

でもよくよく考えてみると、「俺なんかより怖い思い」ってなんだ?

実際に恐怖の体験をしたのは俺だし、AもBも下から眺めていただけだ。

もしかしてあれか?俺の階段を駆け下りる姿がマズかったか?

普通に考えて、俺の体験談が恐ろしかったってことか?

 

少し考えて、俺も大概、恐怖に呑まれて相手の言葉に過敏になりすぎてると思った。

こんな時だからこそ、早く帰ってみんなで残りの夏休みを楽しくゆっくり過ごそうと、そればかりを考えるようにした。

 

だがその後のBの怯えようは半端なかった。

 

俺達がたてる音一つ一つに反応したり、俺の足の傷を食い入るようにじっと見つめたり、明らかに様子がおかしかった。

Aも普段と違うBを見て、多少びびりながらも心配したんだろう

 

A「おい、大丈夫か?寝てないから頭おかしくなってんのか?」

 

と問いかけながらBの肩を掴んだ。

するとBは急に

 

B「うるさいっ!!」

 

と叫び、Aの腕をすごい勢いで振り払ったんだ。

Aと俺は一瞬沈黙した。

 

俺「おい、どうしたんだよ?」

Aは急のできごとに驚いて声を出せずにいた。

 

B「大丈夫かだって?大丈夫なわけねーだろ?

俺も○○(俺の名前)も死ぬような思いしてんだよ。

何にもわかってねーくせに心配したふりすんな!!」

 

Aを睨み付けながらそう叫んだ。

何を言ってるんだろうと思った。Bの死ぬ思いってなんだ?俺の話を聞いて恐怖してたわけじゃないのか?

AとBは仲間内でも特に仲が良かったんだが、その関係もAがBをいじる感じで、どんな悪ふざけにもBは怒らず調子を合わせていた。

だからBがAに声を荒げる場面なんか見たことなかったし、もちろん当の本人Aもそんな経験なかったんだと思う。

Aはこれも見たことないくらいにオロオロしていた。

 

俺は疑問に思ったことをBに問いかけた。

俺「死ぬ思いってなんだ?お前ずっと下にいたろ?」

B「いたよ。ずっと下から見てた」

そして少し黙ってから下を向いて言った。

 

B「今も見てる。」

俺「・・」

 

今も?え、何を?

俺は訳がわからない。

全然わからないんだが、よくある話で、Bの気が狂ったんだと思った。

何かに取り憑かれたんだと。

 

そんな思いをよそに、Bは震える口調で、でもしっかりと喋りだした。

 

B「あの時、俺は下にいたけど、でもずっと見てたんだ」

俺「上っていく俺だよな?」

B「違うんだ・・いや、初めはそうだったんだけど。お前が階段を上りきったくらいから、見え出したんだ」

俺「・・うん」

 

本当はこのとき、俺の心の中は聞きたくないという気持ちが大半を占めていた。

でもBは、もうこれ以上一人で抱えきれないという表情で、まるで前の日の自分を見ているようだったんだ。

あのとき、俺の話を最後までちゃんと聞いてくれたAとB、あれで自分がどれだけ救われたかを考えると、俺には聞かなくちゃならない義務があるように思えた。

 

俺「何が、見えたんだ?」

B「・・・」

 

Bはまた少し黙りこみ、覚悟したように言った。

 

B「影・・だと思う」

俺「影?」

B「うん。初めはお前の影だと思ってたんだ。けど、お前がしゃがみこんで残飯を食っている間にも、ずっと影は動いてたんだ。

お前の影が小さくなるのはちゃんと見えたし、自分らの影も足元にあった。

それでそれ以外に動き回る影が・・3つ・・いや4つくらいあった。」

 

俺は、全身にぶわっと鳥肌が立つのを感じた。

どうかこれがBの冗談であってくれと思った。

しかし、今目の前にいるBはとてもじゃないが冗談を言っているように見えなかった。

むしろ、冗談という言葉を口に出したとたんに殴りかかってくるんじゃないかってくらいに真剣だった。

 

俺「あそこには、俺しかいなかった」

B「わかってる」

俺「そもそも、あのスペースに人が4,5人も入って動き回れるはずない」

 

あの階段は人が一人通れる位のスペースだったんだ。

 

B「あれは人じゃない。それ位わかるだろ」

俺「・・・」

B「それに、どう考えても人じゃ無理だ」

 

Bはポツリと言った。

 

俺「どういうことだ?」

B「全部、壁に張り付いてた」

俺「え?」

B「蜘蛛みたいに、全部壁の横とか上に張り付いてたんだ。それで、もぞもぞ動いてて、それで、それで・・・」

 

自分の見た光景を思い出したのか、Bの呼吸が荒くなる。

 

俺「落ち着け!深呼吸しろ。な?大丈夫だみんないる」

 

Bはしばらく興奮状態だったが、落ち着きを取り戻してまた話しだした。

 

B「あれは人じゃない。いや、元から人じゃないんだけど、形も人じゃない。いや、人の形はしてるんだけど、違うんだ」

 

Bが何を言いたいのかなんとなくわかった俺は

 

俺「人間の形をしたなにかが、壁に張り付いてたってことか?」

 

と聞いた。

Bは黙って頷いた。

 

口から飛び出そうなくらいに心臓の鼓動が激しくなった。

とっさに、Bが見たのは影じゃないと思った。

影が横や上の天井を動き回るのは不自然だ。

仮にそれが影だったとしても、確実にそこに何かがいたから影ができたんだ。

それくらいバカの俺でもわかる。

ということは、俺は自分の周りで這い回る何かに気づかず、しかも腐った残飯をモリモリと食べていたってことなのか?

あの音は・・?

あのガリガリと壁を引っかく音は、壁やドアの向こう側からじゃなくて、俺のいる側のすぐそばで鳴っていたということか?

あの呼吸音も?

 

恐怖のあまり頭がクラクラした。

 

そんな俺の様子を知ってか知らずか、Bは傍に立っていたAに向き直り

B「ごめん、さっきは取り乱して。悪かった」

と謝った。

A「いや、大丈夫・・こっちこそごめんな」

Aもすかさず謝った。

 

その後なんとなく気まずい雰囲気だったが、俺は平静を保つのに必死だった。

無意味に深呼吸を繰り返した。

そんな中Aが口を開いた。

 

A「お前さ、さっき今も見てるっていったけど」

BはAが言い終わらないうちに答えた。

B「ああ、ごめん。あれはちょっと、錯乱してたんだわ。ははっ

ごめん、今は大丈夫」

 

そういったBの笑顔は、完全に作り笑いだった。

明らかに無理した笑顔で、目はどこか違うところを見ているようだった。

 

関係ないんだが、このとき何故かものすごい印象的だったのは、Bの目の下がピクピクいってたことだ。

こんなん何人かに一人はよくあることだよな?

だけど無理して笑う人の目の下ピクピクは、結構くるものがあるぞ。

 

話を戻すと、Aと俺はそれ以上聞かなかった。

臆病者だと思われても仕方ない。だけど怖くて聞けなかったんだ。

ちょっと考えてみろ、ここまで話したBが敢えて何かを隠すんだぞ。

絶対無理だろ。聞いたら、俺の心臓砕け散るだろ。それこそ俺が発狂するわ。

 

少しの沈黙のあと、広間のほうから美咲ちゃんが朝飯の時間だと俺達を呼んだ。

3人で話している間に結構な時間が過ぎていたらしい。

正直、食欲などあるはずもなく。だが不審に思われるのは嫌だったし、行くしかないと思った。

俺はのっそりと立ち上がり、二人に言った。

 

俺「なるべく早いほうがいいよな。朝飯食い終わったら言おう」

A「そうだな」

B「俺、飯いいや。Aさ、ノートPCもってきてたよな?ちょっと、貸してくれないか?」

A「いいけど、朝飯食えよ」

B「ちょっと調べたいことがあるんだ。あんまり時間もないし、悪いけど二人でいってきて」

俺「了解。美咲ちゃんに頼んでおにぎり作ってもらってきてやるよ」

B「うん、ありがと」

A「パソコンは俺のカバンの中に入ってる。勝手に使っていいよ。ネットも繋がるから。」

 

そう言って俺達はそのまま広間に行った。

後から考えると、辞めるその日の朝飯食うってどうなの?

他人がやってたら絶対突っ込むくせして、俺らふっつーに食べたんだが。

広間に着くと、女将さんが俺らを見て、更には俺の足元をみて、満面の笑顔で聞いてきたんだ。

「おはよう、よく眠れた?」

って。

 

そんな言葉、初日以来だったし、昨日のこともあったからすごい不気味だった。

びびった俺は直立不動になってしまったわけだが、Aが

A「はい。すみません遅れて。」

と返事をしながら俺のケツをパンと叩いた。

体がスっと動いた。

いつも人一倍びびってたAに助け舟を出してもらうとは思わなかったから、正直驚いた。

 

そしてBが体調不良のためまだ部屋で寝ていることを伝え、美咲ちゃんにおにぎりを作ってもらえるよう頼んだ。

 

「あ、いいですよ。それよりBくん、今日は寝てたほうがいいんじゃ」

 

美咲ちゃんは心配そうにそう言った。

Aと俺は、得に何も言わず席についた。

”もう辞めるから大丈夫”とは言えないからな。

朝飯を食っている間、女将さんはずっとニコニコしながら俺を見てた。

箸が完全に止まってるんだ。「俺、ときどき飯」みたいな。

美咲ちゃんも旦那さんもその異様な光景に気づいたのか、チラチラ俺と女将さんを見てた。

Aは言うまでもなく、凝固。

 

凄まじく気分の悪くなった俺達は朝飯を早々に切り上げて、女将さん達に話をするため、部屋にBを呼びに行った。

部屋に戻る途中、Bの話し声が聞こえてきた。どうやらどこかに電話をしているようだった。

俺達は電話中に声をかけるわけにもいかなかったので、部屋に入り座って電話が終わるのを待った。

 

B「はい、どうしても今日がいいんです。・・・・はい、ありがとうございます!はい、はい、必ず伺いますのでよろしくお願いします。」

そう言って電話を切った。

 

どうやらBは、ここから帰ってすぐどこかへ行く予定を立てたらしい。

俺もAも別に詮索するつもりはなかったんで何も聞かず、すぐにBを連れて広間に向かった。

 

広間に戻ると美咲ちゃんが朝飯の片付けをしていた。女将さんはいなかった。

俺はふと思った。

あそこに行ってるんじゃないか?って。

 

盆に飯のっけて、2階への階段に消えていったあの女将さんの後姿がフラッシュバックした。

きっとあの時持って行った飯は、あの残飯の上に積み重ねてあったんだろう。

そうして何日も何日も繰り返して、あの山ができたんだろうな。

(一体あれは何のためなんだ?)

俺の頭に疑問がよぎった。

 

けど、そんなこと考えるまでもないとすぐに思い直した。

俺は今日で辞めるんだ。ここともおさらばするんだ。すぐに忘れられる。忘れなきゃいけない。心の中で自分に言い聞かせた。

 

Aが女将さんの居場所を美咲ちゃんに尋ねた。

「女将さんならきっと、お花に水やりですね。すぐ戻ってきますよ」

そう言って美咲ちゃんは、Bの方を見て

「Bくん、すぐおにぎり作るからまっててね」

と笑顔で台所に引っ込んだ。

 

ああ、美咲ちゃん・・何もなければきっと俺は美咲ちゃんとひと夏のあばん(ry

 

俺達は女将さんが戻ってくるのを待った。

しばらくすると女将さんは戻ってきて、仕事もせずに広間に座り込む俺達を見て

「どうしたのあんたたち?」

とキョトンとした顔をしながら言った。

俺は覚悟を決めて切り出した。

 

俺「女将さん、お話があるんですけどちょっといいですか?」

女将さんは

「なんだい?深刻な顔して」

と俺達の前に座った。

 

俺「勝手を承知で言います。俺達、今日でここを辞めさせてもらいたいんです」

AとBもすぐ後に

AB「お願いします」

と言って頭を下げた。

 

女将さんは表情ひとつ変えずにしばらく黙っていた。

俺はそれがすごく不気味だった。眉ひとつ動かさないんだ。まるで予想していたかのような表情で。

そして沈黙の後

「そうかい。わかった、ほんとにもうしょうがない子たちだよ~。」

と言って笑った。

 

そして給料の話、引き上げる際の部屋の掃除などの話を一方的に喋り、用意ができたら声をかけるようにと俺達に言ったんだ。

 

拍子抜けするくらいにすんなり話が通ったことに、三人とも安堵していた。

だけど、心のどこかでなんかおかしいと思う気持ちもあったはずだ。

 

話が決まったからには俺達は即行動した。

荷物は前の晩のうちにまとめてある。

あとは部屋の掃除をするだけで良かった。

 

バイトを始めてから、仕事が終われば近くの海で遊んだり、疲れてる日には戻ってすぐに爆睡だったんで、部屋にいる時間はあまりなかったように思う。

だから男3人の部屋といえど、元からそんなに汚れているわけでもなかった。

そんなこんなで、一時間ほどの掃除をすれば部屋も大分綺麗になった。

 

準備ができたということで、俺達は広間に戻り、女将さんたちに挨拶をすることにした。

広間に着くと女将さんと旦那さん、そして悲しそうな顔をした美咲ちゃんが座っていた。

俺達は3人並んで正座し

 

俺「短い間ですが、お世話になりました。勝手言ってすみません」

俺AB「ありがとうございました」

 

と言って頭を下げた。

 

すると女将さんが腰を上げて、俺達に近寄りこう言った。

「こっちこそ、短い間だったけどありがとうね。これ、少ないけど・・・」

 

そう言って茶封筒を3つ、そして小さな巾着袋を3つ手渡してきた。

茶封筒は思ったよりズッシリしてて、巾着袋はすごく軽かった。

そして後ろから美咲ちゃんが

「元気でね」

といってちょっと泣きそうな顔しながら言うんだ。

そして

「みんなの分も作ったから」

って、3人分のおにぎりを渡してくれた。

 

おいおい止めてくれ。泣いちゃうよ俺!

そう思ってあんまり美咲ちゃんの顔を見れなかった。

 

前日で死にそうな思いしたのにまさかのセンチって思うだろ?

だけど、実際すげー世話になった人との別れって、その時はそういうの無しになるものなんだわ。

 

挨拶も済んで、俺達は帰ることになった。

 

行きは近くのバス停までバスを使って来たんだが、帰りはタクシーにした。

旦那さんが車で駅まで送ってくれるって話も出たんだが、Bが断った。

そして美咲ちゃんに頼んでタクシーを呼んでもらった。

 

タクシーが到着すると、女将さんたちは車まで見送りに来てくれた。

周りから見ればなんとなく感動的な別れに見えただろうが、実際俺達は逃げ出す真っ最中だったんだよな。

タクシーに乗り込む前に、俺は振り返った。

かろうじて見えた2階への階段のドア。目を凝らすと、ほんの少し開いてるような気がして思わず顔を背けた。

そして3人とも乗り込み、行き先を告げた後すぐ車が動き出した。

 

旅館から少し離れると、急にBが運転手に行き先を変更するよう言ったんだ。

運転手になにかメモみたいなものを渡して、ここに行ってくれと。

運転手はメモを見て怪訝な顔をして聞いてきた。

「大丈夫?結構かかるよ?」

B「大丈夫です」

Bはそう答えると、後部座席でキョトンとしているAと俺に向かって

 

B「行かなきゃいけないとこがある。お前らも一緒に」

 

と言った。

俺とAは顔を見合わせた。考えてることは一緒だったと思う。

(どこへ行くんだ・・?)

 

だが、朝のBの様子を見た後だったんで、正直気が引けて何も聞けなかった。

またキレ出すんじゃないかとびびってたんだ。

 

しばらく走っていると運転手さんが聞いてきた。

「後ろ走ってる車、お客さんたちの知り合いじゃない?」

え?と思って振り返ると、軽トラックが一台後ろにぴったりくっついて走っていた。

そして中から手を振っていたのは、旦那さんだった。

 

俺達は何か忘れ物でもしたのかと思い、車を止めてもらえるよう頼んだ。

 

道の端に車が止まると、旦那さんもそのまますぐ後ろに軽トラを止めた。

そして出てくると俺達のところに来て

「そのまま帰ったら駄目だ。」

と言った。

 

B「帰りませんよ。こんな状態で帰れるはずないですから」

 

Bと旦那さんはやけに話が通じあっていて、Aと俺は完全に置いてけぼりを食らった。

 

俺「え、どういうこと?」

 

なにがなにやらわからんかったので素直に質問した。

すると旦那さんは俺のほうを向き、まっすぐ目を見つめて言った。

旦「おめぇ、あそこ行ったな?」

心臓がドクンって鳴った。

(なんで知ってんの?)

 

この時は本気で怖かった。

霊的なものじゃなくて、なんていうか大変なことをしてしまったっていう思いがすごくて。

俺は、「はい」と答えるだけで精一杯だった。

 

すると旦那さんはため息をひとつ吐くと言った。

旦「このまま帰ったら完全に持ってかれちまう。

なぁんであんなとこ行ったんだかな。

まあ、元はと言えば俺がちゃんと言わんかったのが悪いんだけどよ。」

 

おい、持ってかれるってなんだ。勘弁してくれよ。

ここから帰ったら楽しい夏休みが待ってるはずだろ?

不安になってAを見た。Aは驚くような目で俺を見ていた。

さらに不安になってBを見た。するとBは言うんだ。

 

B「大丈夫。これから御祓いに行こう。そのためにもう向こうに話してあるから」

 

信じられなかった。

憑かれていたってことか?

何だよ俺死ぬのか?この流れは死ぬんだよな?

なんであんなとこ行ったんだって?行くなと思うなら始めから言ってくれ。

 

あまりの恐怖で、自分の責任を誰か他の人に転嫁しようとしていた。

 

呆然としている俺を横目に、旦那さんは話を進めた。

 

旦「御祓いだって?」

B「はい」

旦「おめぇ、見えてんのか」

B「・・・」

A「おい、見えてるって・・」

B「ごめん。今はまだ聞かないでくれ」

 

俺は思わずBに掴みかかった。

 

俺「いい加減にしろよ。さっきから何なんだよ!」

 

旦那さんが割って入る。

 

旦「おいおい止めとけ。おめぇら、逆にBに感謝しなきゃならねぇぞ」

A「でも、言えないってことないんじゃないすか?」

旦「おめぇらはまだ見えてないんだ。一番危ないのはBなんだよ」

 

俺とAは揃ってBを見た。

Bは、困ったような顔をしてそこにいた。

 

俺「どうしてBなんですか?実際にあそこに行ったのは俺です」

旦「わかってるさ。でもおめぇは見えてないんだろ?」

俺「さっきから見えてるとか見えてないとか、なんなんですか?」

旦「知らん」

俺「はぁ!?」

 

トンチンカンなことを言う旦那さんに対して俺はイラっとした。

 

旦「真っ黒だってことだけだな、俺の知ってる情報は。だがなぁ・・」

 

そう言って旦那さんはBを見る。

 

旦「御祓いに行ったところで、なんもなりゃせんと思うぞ」

 

Bは、疑いの目を旦那さんに向けて聞いた。

 

B「どうしてですか?」

旦「前にもそういうことがあったからだな。でも、詳しくは言えん。」

B「行ってみなくちゃわからないですよね?」

旦「それは、そうだな」

B「だったら」

旦「それで駄目だったら、どうするつもりなんだ?」

B「・・・」

旦「見えてからは、とんでもなく早いぞ」

 

早いという言葉が何のことを言っているのか俺にはさっぱりわからなかった。

だが、旦那さんがそういった後、Bは崩れ落ちるようにして泣き出したんだ。

声にならない泣き声だった。俺とAは、傍で立ち尽くすだけで何もできなかった。

 

俺達の異様な雰囲気を感じ取ったのか、タクシーの窓を開けて中から運転手が話しかけてきた。

「お客さんたち大丈夫ですか?」

俺達3人は何も答えられない。

Bに限っては道路に伏せて泣いてる始末だ。

 

すると旦那さんが運転手に向かってこう言った。

旦「あぁ、すまんね。呼び出しておいて申し訳ないんだが、こいつらはここで降ろしてもらえるか?」

運転手は

「え?でも・・」

と言って俺達を交互に見た。

その場を無視して旦那さんはBに話しかける。

 

旦「俺がなんでおめぇらを追いかけてきたかわかるか?

事の発端を知る人がいる。その人のとこに連れてってやる。

もう話はしてある。すぐ来いとのことだ。

時間がねぇ。俺を信じろ」

 

肩を震わせ泣いていたBは、精一杯だったんだろうな、顔をしわくちゃにして声を詰まらせながら言った。

B「おねが・・っ・・します・・」

呼吸ができていなかった。

男泣きでもなんでもない、泣きじゃくる赤ん坊を見ているようだった。

 

昨日の今日だが、Bは一人で、何かものすごい大きなものを抱え込んでいたんだと思った。

あんなに泣いたBを見たのは、後にも先にもこの時だけだ。

Bのその声を聞いた俺は、運転手に言った。

俺「すいません。ここで降ります。いくらですか?」

 

その後、俺達は旦那さんの軽トラに乗り込んだ。

といっても、俺とAは後の荷台なわけで。乗り心地は史上最悪だった。

 

旦那さんは俺達が荷台に乗っているにも関わらず、有り得んほどにスピードを出した。

Aから軽く女々しい悲鳴を聞いたが、スルーした。

 

どれくらい走ったのか分からない。あんまり長くなかったんじゃないかな。

まあ正直、それどころじゃないほど尾てい骨が痛くて覚えていないだけなんだが。

着いた場所は、普通の一軒家だった。

横に小さな鳥居が立っていて石段が奥の方に続いていた。

 

俺達の通されたのはその家の方で、旦那さんは呼び鈴を鳴らして待っている間、俺達に「聞かれたことにだけ答えろ」と言った。

 

旦「おめぇら、口が悪いからな。変なこと言うんじゃねぇぞ」

 

俺は思った。この人にだけは言われる筋合いがないと。

 

少し待つと、家から一人の女の人が出てきた。

年は20代くらいの普通の人なんだけど、額の真ん中にでっかいホクロがあったのがすごく印象的だった。

その女の人に案内されて通されたのは家の一角にある座敷だった。

そこには一人の坊さん(僧って言うのか?)と、一人のおっさん、一人のじいさんが座っていた。

俺達が部屋に入るなり、おっさんが「禍々しい」と呟いたのが聞こえた。

 

旦「座れ」

 

旦那さんの掛け声で俺達は、坊さんたちが並んで座っている丁度向かい側に3人並んで座った。そして旦那さんがその隣に座った。

するとじいさんは口を開いた。

 

「○○(旅館の名前)の旦那、この子ら全部で3人かね?」

旦「えぇ、そうなんですわ。このBって奴は、もう見えてしまってるんですわ」

 

旦那さんがそう言った瞬間、おっさんとじいさんは顔を見合わせた。

すると坊さんが口を開いた。

 

坊「旦那さん、堂に行ったというのは彼ですか?」

旦「いえ。実際行ったのはこの○○(俺の名前)って奴で」

坊「ふむ」

旦「Bは下から覗いていただけらしいんです」

坊「そうですか」

 

そして少し黙ったあと坊さんはBに聞いたんだ。

 

坊「あなたは、この様な経験は初めてですか?」

 

Bが聞き返す。

B「この様な経験?」

坊「そうです。この様に、霊を見たりする体験です」

B「え・・ないです」

坊「そうですか。不思議なこともあるものです」

B「・・俺」

 

Bが何か喋ろうとしていた。そこにいた全員がBを見た。

 

坊「はい」

B「俺、・・・死ぬんでしょうか?」

 

そう言ったBの腕は、正座した膝の上で突っ張っているのに、ガクガクと震えていた。

すると坊さんは静かに答えた。

 

坊「そうですね。このままいけば、確実に」

 

Bは言葉を失った様子だった。

震えが急に止まって、畳を一点食い入るように見つめだした。

それを見たAが口を挟んだ。

 

A「死ぬって」

坊「持って行かれるという意味です」

 

意味を説明されたところで俺達はわからない。何に何を持って行かれるのか。

更に坊さんは続けた。

 

坊「話がわからないのは当然です。○○くんは、堂へ行った時に何か違和感を感じませんでしたか?」

 

坊さんが堂といっているのは、どうやらあの旅館の2階の場所らしかった。

それで俺は答えた。

 

俺「音が聞こえました。あと、変な呼吸音が。2階のドアにはお札の様なものが沢山貼ってありました」

坊「そうですか。気づいているかも知れませんがあそこには、人ではないものがおります」

 

あまり驚かなかった。事実、俺もそう思っていたからだ。

 

坊「恐らくあなたは、その人ではないものの存在を耳で感じた。本来ならば人には感じられないものなのです。誰にも気づかれず、ひっそりとそこにいるものなのです」

 

そう言うと、坊さんはゆっくりと立ち上がった。

 

坊「Bくん、今は見えていますか?」

B「いえ。ただ音が、さっきから壁を引っかく音がすごくて」

坊「ここには入れないということです。幾重にも結界を張っておきました。その結界を必死に破ろうとしているのですね

しかし、皆がいつまでもここに留まることは出来ないのです。

今からここを出て、おんどう(ごめん音でしかわからない)へ行きます。Bくん、ここから出ればまたあのものたちが現れます。

また苦しい思いをすると思います。でも必ず助けますから、気をしっかり持って付いて来てくださいね」

 

Bはカクカクと首を縦に振っていた。

そうして、坊さんに連れられて俺達はその家を出てすぐ隣の鳥居をくぐり、石段を登った。

旦那さんは家を出るまで一緒だったが、おっさんたちと何やら話をした後、坊さんに頭を下げて行ってしまった。

 

知ってる人がいなくなって一気に心細くなった俺達は、3人で寄り添うように歩いた。

特にBは、目を左右に動かしながら背中を丸めて歩いていて、明らかに憔悴しきっていた。

だから俺達はできる限り、Bを真ん中にして二人で守るように歩いた。

 

石段を上り終わる頃、大きな寺が見えてきた。

だが坊さんはそこには向かわず、俺達を連れて寺を右に回り奥へと進んだ。

そこにはもう一つ鳥居があり、更に石段が続いていた。

鳥居をくぐる前に坊さんがBに聞いた。

 

坊「Bくん、今はどんな感じですか?」

B「二本足で立っています。ずっとこっちを見ながら、付いてきてます」

坊「そうか、もう立ちましたか。よっぽどBくんに見つけてもらえたのが嬉しかったんですね。ではもう時間がない。急がなくてはなりませんね」

 

そして石段を上り終えると、さっきの寺とは比べ物にならない位小さな小屋がそこにあり、坊さんはその小屋の裏へ回ると、俺達を呼んだ。

俺達も裏へ回ると坊さんは、ここに一晩入り、憑きモノを祓うのだと言った。

そして、中には明りが一切ないこと、夜が明けるまでは言葉を発っしてはならないことを伝えてきた。

 

坊「もちろん、携帯電話も駄目です。明りを発するものは全て。食ったり寝たりすることもなりません」

 

どうしても用を足したくなった場合はこの袋を使用するようにと、変な布の袋を渡された。俺は目を疑った。

(布って・・)

だが坊さん曰く、中から液体が漏れないようになっているらしい。

信じ難かったが、そこに食いついてもしょうがないので大人しくしといた。

 

その後俺達に、竹の筒みたいなものに入った水を一口ずつ飲ませ、自分も口に含むと俺達に吹きかけてきた。

そして小さな小屋の中に入るように言った。

俺達は順番に入ろうとしたんだが、Bが入る瞬間、口元を押さえて外に飛び出して吐いたんだ。

突然のことで驚いた俺達だったが、坊さんが慌てた様子で聞いてきた。

 

坊「あなたたち、堂に行ったのは今日ではないですよね?」

俺「え?昨日ですけど」

坊「おかしい、一時的ではあるが身を清めたはずなのに、おんどうに入れないとは」

 

言ってる意味がよく分からなかった。

すると坊さんはBのヒップバッグに目をつけ

 

坊「こちらに滞在する間、誰かから何かを受け取りましたか?」

 

と聞いてきた。

俺は特に思い浮かばず、だがAが言ったんだ。

A「今日給料もらいましたけど」

 

当たり前すぎて忘れてた。そういえば給料も貰いものだなって妙に感心したりして。

 

俺「あ、あと巾着袋も」

A「おにぎりも。もらい物に入るなら」

 

給料を貰った時に女将さんにもらった小さな袋を思い出した。

そして美咲ちゃんには朝、おにぎりを作って貰ったんだった。

 

坊さんはそれを聞くと、Bに話しかけた。

坊「Bくん、それのどれか一つを今、持っていますか?」

B「おにぎりはデカイ鞄の方に入れてありますけど、給料と袋は、今持ってます」

 

Bはそう言ってバッグからその二つを取り出した。

坊さんは、まず巾着袋を開けた。すると一言「これは・・」と言って俺達に見えるように袋の口を広げた。

中を覗き込んで俺達は息を呑んだ。

 

そこには、大量の爪の欠片が詰まっていたんだ。

俺の足に張り付いていたものと一緒だった。見覚えのある、赤と黒ずんだものだった。

Bは、その場ですぐまた吐いた。俺もそれに釣られて吐いた。

周辺が汚物の匂いでいっぱいになり、坊さんも顔を歪めていた。

 

坊さんは、Bの持ち物を全て預かると言い、俺達2人も持ち物を全て出すように言った。

俺は、携帯と財布を坊さんに手渡し、旅行鞄の方に入っている巾着袋を処分してもらえるよう頼んだ。

坊さんは頷き、再度Bに竹筒の水を飲ませ、吹きかけた。

そして俺達3人がおんどうの中に入ると

 

坊「この扉を開けてはなりません。皆、本堂のほうにおります。明日の朝まで、誰もここに来ることはありません。

そして、壁の向こうのものと会話をしてはなりません。このおんどうの中でも言葉を発してはなりません。居場所を教えてはなりません。

これらをくれぐれもお守りいただけますよう、お願いします」

 

そう言って俺達の顔を見渡した。俺達は頷くしかなかった。

この時既に言葉を発してはならない気がして、怖くて何も言えなかったんだ。

坊さんは俺達の様子を確認すると、扉を閉め、そのまま何も言わず行ってしまった。

 

おんどうの中はひんやりしていた。

実際ここで飲まず食わずでやっていけるのかと不安だったが、これなら一晩くらいは持ちそうだと思った。

建物自体はかなり古く、壁には所々に隙間があった。といっても結構小さいものだけど。

まだ昼時ということもあり、外の光がその隙間から入り、AとBの顔もしっかり確認できた。

顔を見合わせても何も喋ることができないという状況は、生まれて初めてだった。

「大丈夫だ」という意味を込めて俺が頷くと、AもBも頷き返してくれた。

 

しばらくすると、顔を見合わせる回数も少なくなり、終いにはお互い別々の方向を向いていた。

喋りたくても喋れないもどかしさの中、後どれくらいの時間が残っているのか見当も付かない俺達は、ただただ呆然とその場にいることしかできなかったんだ。

途方もない時間が過ぎていると感じているのに、まだ外は明るかった。

 

するとAがゴソゴソと音を立て出した。

何をしているのかと思い、あまり大きな音を出す前に止めさせようと思ってAの方に向き直ると、Aは手に持った紙とペンを俺達に見せた。

こいつは、坊さんの言うことを聞かずに密かにペンを隠し持っていたのだ。

そして紙は、板ガムの包み紙だった。まあメモ用紙なんて持っているはずない俺達なので、きっとそれしか思い浮かばなかったんだろう。

 

(こいつ何やってんだよ・・)

 

一瞬そう思った俺だが、意思の疎通ができないこの状況で極限に心細くなっていた所為もあり、Aの取った行動に何も言う事が出来なかった。

むしろ、ひとつの光というか、上手く説明できないんだが、とにかくすごく安心したのを覚えてる。

Aはまず自分で紙に文字を書き、俺に渡してきた。

 

”みんな大丈夫か?”

 

俺はAからペンを受け取り、なるべく小さく、スペースを空けるようにして書き込んだ。

 

”俺は今のところ大丈夫、Bは?”

 

そしてBに紙とペンを一緒に手渡した。

 

”俺も今は平気。何も見えないし聞こえない。”

 

そしてAに紙とペンが戻った。

 

こんな感じで、俺達の筆談が始まったんだ。

A”ガム残り4枚。外紙と銀紙で8枚。小さく文字書こう”

俺”OK。夜になったらできなくなるから今のうちに喋る”

B”わかった”

A”今何時くらい?”

俺”わからん”

B”5時くらい?”

A”ここ来たの1時くらいだった”

俺”なら4時くらいか”

B”まだ3時間か”

A”長いな”

 

こんな感じで他愛もない話をして1枚目が終わった。

するとAが書いてきた。

 

A”○○文字でかい”

 

俺は謝る仕草を見せた。

するとAは俺にペンを渡してきたので

 

俺”腹減った”

 

と書き込みBに渡した。そしてBが何も書かずにAに紙を渡した。

するとAは

 

A”俺も”

 

と書いて俺に渡してきた。

あれだけ心細かったのに、いざ話すとなるとみんな何も出てこなかった。

俺は、日が沈む前に言っておかなければならないことを書いた。

 

俺”何があっても、最後までがんばろうな”

B”うん”

A”俺、叫んだらどうしよう”

俺”なにか口に突っ込んどけ”

B”突っ込むものなんてないよ”

A”服脱いでおくか”

俺”てか、何も起きない、そう信じよう”

 

Bは俺の書いた言葉にはノーコメントだった。

俺も書いたあと、自分で何を言ってるんだろうと思った。

 

坊さんは、何も起きないとは一言も言っていなかった。むしろ、これから何が起こるのかを予想しているような口ぶりで俺達にいくつも忠告をしたんだ。

そう考えると俺達は、一刻も早く時間が過ぎてくれることを願っている一方で、本当の本当は、夜を迎えるのがすごく怖かったんだ。

夜だけじゃない、あの時ああしてる時間も、本当は怖くてしょうがなかった。

唯一の救いが、互いの存在を目視できるということだっただけで。

 

俺の一言で空気が一気に重くなった。

俺はこの空気をどうにかしようと、Bの持っていた紙とペンをもらい

俺”何か喋れ時間もったいない”

と書いてAに渡した。他人任せもいいとこ。

Aは一瞬困惑したが、少し考えて書き出し、俺に渡してきた。

 

A”じゃあ、帰ったら何するか”

俺”いいね。俺はまずツタヤだな”

B”なんでツタヤ?”

俺”DVD返すの忘れてた”

A”どんだけ延泊!?”

 

まあ嘘だった。どうにかして気を紛らわせたかったからなんでもいいやって適当に書いた。

結果、雰囲気はほんの少しだが和み、AもBもそれぞれ帰ったら何をするかを書いた。

少しずつだが、ゆっくりと俺達は静かな時間を過ごした。

そして残りの紙も少なくなった頃、Bはある言葉を紙に書いた。

 

B”俺は坊さんに言われたことを必ず守る。死にたくない”

 

俺もAも、最後の言葉を見つめてた。

俺は「死にたくない」なんて言葉、生まれてこの方本気で言ったことなんかない。きっとAもそうだろう。

死ぬなんて考えていなかったからだ。

死を間近に感じたことがないからだ。

それを、今目の前で心の底から言うヤツがいる。その事実がすごく衝撃的だった。

 

俺はBの目をしっかりと見つめ、頷いた。

 

その後は特に何も話さなかったが、不思議と孤独感はなかった。

お互いの存在を感じながら、俺達は日が暮れるのを感じていた。

何もせずにいると蝉の鳴き声がうるさくて、でも徐々に耳が慣れて気にならなくなった。

でも、なんか違和感なんだ。よく耳を凝らすとなにか他の音が聞こえるんだ。

さらに耳を凝らすと、段々その音がクリアに聞こえるようになった。

 

俺は考えるより先に確信した。

あの呼吸音だって。

 

Bを見た。薄暗くて分かりづらかったが、Bに気づいている気配はなかった。

Bには聞こえないのか?そういえばBって呼吸音について言ってたっけ?

もしかしてあれは聞いたことがないのか?

それとも単に気づいていないだけか?

 

頭の中で色々な考えが浮かんだ。

すると硬直する俺の様子に気づいたBが、周りをキョロキョロと見回し始めた。

この状況の中で、神経が過敏にならないはずがなかった。俺の異変にすぐ気づいたんだ。

 

すると、Bの視線が一点に止まった。俺の肩越しをまっすぐ見つめていた。

白目が一気にデカくなり、大きく見開いているのがわかった。

AもBの様子に気が付き、Bの見ている方を見ていたが何も見つけられないようだった。

俺は怖くて振り返れなかった。

 

それでも、あの呼吸音だけは耳に入ってくる。

ソレがすぐそこにいることがわかった。動かず、ただそこで「ひゅーっひゅーっ」といっていた。

しばらく硬直状態が続くと、今度は俺達のいるおんどうの周りを、ズリズリとなにか引きずるような音が聞こえ始めたんだ。

Aはこの音が聞こえたらしく、急に俺の腕を掴んできた。

 

その音は、おんどうの周りをぐるぐると回り、次第に呼吸音が「きゅっ・・・・きゅえっ・・」っていう何か得体の知れない音を挟むようになった。

俺には音だけしか聞こえないが、ソレがゆっくりとおんどうの周りを徘徊していることは分かった。

 

Aの腕から心臓の音が伝わってくるのを感じた。Bを確認する余裕がなかったが、固まってたんだと思う。

全員微動だにしなかった。

 

俺は恐怖から逃れるために、耳を塞いで目を瞑っていた。

頼むから消えてくれと、心の中でずっと願っていた。

 

どれくらい時間が経ったかわからない。ほんの数分だったかも知れないし、そうでないかも知れない。

目を開けて周りを見回すと、おんどうの中は真っ暗で、ほぼ何も見えない状態だった。

そしてさっきまでのあの音は、消えていた。

 

恐怖の波が去ったのか、それともまだ周りにいるのか、判断がつかず動けなかった。

そして目の前に広がる深い闇が、また別の恐怖を連れて来たんだ。

 

目を凝らすが何も見えない。

「いるか?」「大丈夫か?」

の掛け声さえ出せない。

 

ただAはずっと俺の腕を握ってたので、そこにいるのが分かった。

 

俺はこの時猛烈にBが心配になった。Bは明らかに何かを見ていた。

暗がりの中で、Bを必死に探すが見えない。

俺は、Aに掴まれた腕を自分の左手に持ち直し、Aを連れてBのいた方へソロソロと歩き出した。

なるべく音を立てないように、そしてAを驚かせないように。

 

暗すぎて意思の疎通ができないんだ。

誰かがパニックになったら終わりだと思った。

 

どこにいるか全くわからないので、左手にAの腕を持ったまま、右手を手前に伸ばして左右にゆっくり振りながら進んだ。

すると指先が急に固いものに当たり、心臓がボンっと音を立てた。

手に触れたそれは、手触りから壁だということがわかった。

おかしい、Bのいた方角に歩いてきたのにBがいない。

 

俺は焦った。さらに壁を折り返してゆっくりと進んだ。だがまた壁に行き着いた。

途方に暮れて泣きそうになった。

「Bどこだ」の一言を何度も飲み込んだ。

 

どうしていいかわからなくなり、その場に立ち尽くしたままAの腕を強く握った。

すると、今度はAが俺の腕を掴み、ソロソロと歩き出したんだ。

まず、Aは壁際まで行くと、掴んだ俺の腕を壁に触らせた。

そしてそのままゆっくりと壁沿いを移動し、角に着いたら進路を変えてまた壁沿いに歩く。

そうやっていくうちに、前を歩くAがぱたりと止まった。そして、俺の腕をぐいっと引っ張ると、何か暖かいものに触れさせた。

それは、小刻みに震える人の感触だった。

 

Bを見つけたと思った。でもすぐ後に、(これは本当にBなのか?)という疑問が芽生えた。

よく考えたらAもそうだ。ずっと近くにいたが、実際俺の腕を掴んでいるのはAなのか?

俺は暗闇のせいで、完全に疑心暗鬼に陥っていた。

 

俺が無言でいると、Aはまた俺の腕を掴み、ソロソロと歩き出した。

俺はゆっくりとついていった。

すると、ほんの僅かだが、視界に光が見えるようになった。

不思議に思っていると、部屋にある隙間から少しだけ月の明かりが入ってきているのが目に入った。

Aはそこへ俺達を連れて行こうとしているのだと思った。

 

何故気づかなかったのか、今思っても不思議なんだ。

暗闇に目が慣れるというのを聞いたことがあったけど、恐怖に呑まれてそれどころじゃなかった。

ほんとに真っ暗だったんだ。

 

とにかく、その時俺はその光を見て心の底から救われた気持ちになった。そしてAに感謝した。

 

後から聞いたんだが

A「俺は見えもしなかったし、聞こえもしなかった。なんか引きずってる音は聞こえたんだけどな。

でもそのおかげで、お前達よりは余裕があったのかも。」

と言っていた。

大した奴だって思った。

 

光の下に来ると、Aの反対側の手にBの腕が握られているのが見えた。

月明かりで見えたBの顔は、汗と涙でぐっしょり濡れていた。

何があったのか、何を見たのか、聞くまでもなかった。

 

夜は昼と違って、すごく静かで、遠くで鈴虫が鳴いていた。俺達はしばらくそこでじっとしていた。

恥ずかしながら、3人で互いに手を取り合う格好で座った。ちょうど円陣を組む感じで。

あの状態が一番安心できる形だったんだと思う。

そして何より、例え僅かな光でも、相手の姿がそこに確認できるだけで別次元のように感じられたんだ。

 

しばらくそうしていると、とうとう予想していたことが起きた。

Aが催したのだ。

生理現象だから絶対に避けられないと思っていた。

Aは自分のズボンのポケットから坊さんに貰った布の袋をゴソゴソと取り出すと、立ち上がって俺達から少し離れた。

 

静寂の中、Aの出す音が響き渡る。

なんか、まぬけな音に若干気が抜けて、俺もBも顔を見合わせてニヤっとした。

 

その瞬間だった。

 

「Bくん」

 

AB俺(・・・)

 

一瞬にして体に緊張が走る。

するとまた聞こえた。俺達がおんどうに入った扉のすぐ外側からだった。

 

「Bくん」

 

俺達は声の主が誰か一瞬で分かった。

今朝も聞いた、美咲ちゃんの声だった。

 

「Bくんおにぎり作ってきたよ」

 

こちらの様子を伺うように、少し間を空けながら喋りかけてくる。

抑揚が全くなく、機械のようなトーンだった。

Bの手にぐっと力が入るのが分かった。

 

「Bくん」

「・・・」

 

しばらくの沈黙の後、突然関を切ったように

 

「Bくんおにぎり作ってきたよ」

「いらっしゃいませ~」

「おにぎり作ってきたよ」

「Bくん」

「いらっしゃいませ~」

「おにぎり作ってきたよ」

と同じ言葉を何度も何度も繰り返すようになった。

 

尋常じゃないと思った。

恐かった。美咲ちゃんの声なのに、すげー恐かった。

 

坊さんはおんどうには誰も来ないと俺達に言っていた。そしてこの無機質な喋り方だ。

扉の外にいるのは、絶対に美咲ちゃんじゃないと思った。

 

気づくとAが俺達の側に戻り、俺とBの腕を掴んだ。

力が入ってたから、こいつにも聞こえてるんだと思った。

 

俺達は3人で、おんどうの扉の方を見つめたまま動けなかった。

その間もその声は繰り返し続く。

 

「いらっしゃいませ~」

「Bくん」

「おにぎり作ってきたよ」

 

そしてとうとう、扉がガタガタと音を出して揺れ始めた。

 

おい、ちょ、待て。

 

扉の向こうのヤツは扉をこじ開けて入ってくるつもりなんだと思った。

俺は扉が開いたらどうするかを咄嗟に考えた。

(全速力で逃げる、坊さんたちは本堂にいるって言ってたからそこまで逃げて・・おい本堂ってどこだ)

とか。もうここからどうやって逃げるかしか考えてなかった。

 

やがてそいつは、ガンガンと扉に体当たりするような音を立てだした。

無機質な声で喋りながら。

 

そしてそのまま少しずつ、おんどうの壁に沿って左に移動し始めたんだ。

一定時間そうした後にまた左に移動する。その繰り返しだった。

 

(何してるんだ・・?)

 

不思議に思っていると、俺はあることに気づいた。

俺達のいる壁際には隙間が開いている。そしてそいつは今そこにゆっくりと向かっている。

 

(もし隙間から中が見えたら?)

(もし中からアイツの姿が見えたら?)

 

そう考えると居ても立ってもいられなくなり、俺は2人を連れて急いで部屋の中央に移動した。

移動している。ゆっくりと、でも確実に。

心臓の音さえ止まれと思った。ヤツに気づかれたくない。

いや、ここにいることはもう気づかれているのかもしれないけど。

 

恐怖で歯がガチガチといい始めた俺は、自分の指を思いっきり噛んだ。

そして俺は、隙間のある場所に差し掛かったそいつを見た。

見えたんだ。月の光に照らされたそいつの顔を、今まで音でしか感じられなかったそいつの姿を。

 

真っ黒い顔に、細長い白目だけが妙に浮き上がっていた。

 

そして体当たりだと思っていたあの音は、そいつが頭を壁に打ち付けている音だと知った。

そいつの顔が、一瞬壁の隙間から消える。外でのけぞっているんだろう。

そしてその後すぐ、ものすごい勢いで壁にぶち当たるんだ。

 

壁にぶち当たる瞬間も、白目をむき出しにしてるそいつから、俺は目が離せなくなった。

金縛りとは違うんだ、体ブルブル動いてたし。

ただ見たことのない光景に、目を奪われていただけなのかも知れないな。

あの勢いで頭を壁にぶつけながら、それでも淡々と喋り続けるそいつは、完全に生きた人間とはかけ離れていた。

 

結局、そいつは俺達が見えていなかったのか、隙間の場所でしばらく頭を打ち付けた後、さらにまた左へ左へと移動していった。

俺の頭の中で、残像が音とシンクロし、そいつが外で頭を打ち付けている姿が鮮明に想像できた。

 

正直なところ、そいつがどれくらいそこに居たのかを俺は全く覚えていない。

残像と現実の区別がつけられない状態だったんだ。

後から聞いた話だと、そいつがいなくなって静まりかえった後、3人ともずっと黙っていたらしい。

 

Aは警戒したから。

Bは恐怖のため動けなかったから。

そして俺は残像の中で延長戦が繰り広げられていたから。

 

そんでAが俺を光の場所へ連れていこうと腕を掴んだ時、体の硬直が半端なくて一瞬死んだと思ったらしい。

本気で死後硬直だと思ったんだって。

BはBで、恐怖で歯を食いしばりすぎて、歯茎から血を流してた。

Aだけは、やっぱり姿を見ていなかった。

 

あと、そいつはそこから遠ざかって行く時カラスのように「ア゛ーっア゛ー」と奇声を発していたらしい。その声は、Aだけが聞いていたんだけど。

そいつの2度の襲来によって、その後の俺達の緊張の糸が緩むことはなかった。

 

ただ、神経を張り巡らせている分体がついていかなかった。

みんな首を項垂れて、目を合わすことは一切無かった。

Bは、催したものをそのまま垂れ流していたが、Aと俺はそれを何とも思わなかった。

 

あんなに夜が長いと思ったのは生まれて初めてだ。

憔悴しきった顔を見たのも、見せたのも、もちろん人でないものの姿を見たのも。

何もかも鮮明に覚えていて、今も忘れられない。

 

おんどうの隙間から光が差し込んできて、夜が明けたと分かっても、俺達は顔を上げられずそこに座っていた。

雀の鳴き声も、遠くから聞こえる民家の生活音も、すべてが俺の心臓に突き刺さる。

ここから出て生きていけるのか、本気でそう思ったくらいだ。

 

本格的に太陽の光が中に入りこんできた頃、遠くからこっちに近づいてくる足音が聞こえた。

俺達は完全に身構え体制に入った。

足音はすぐ近くまで来ると、おんどうの裏へ回り入り口の前で止まった。

息を呑んでいると、ガタガタっと音がし、「キィーッ」と音を立てて扉が開いた。

 

そこに立っていたのは、坊さんだった。

 

坊さんは俺達の姿を見つけると、一瞬泣きそうな顔をして

坊「よく、頑張ってくれました」

と言った。

 

あの時の坊さんの目は、俺一生忘れないと思う。

本当に本当に優しい目だった。

 

俺は、不覚にも腰を抜かしていた。そして、いい年こいてわんわん泣いた。

坊さんは、俺達の汗と尿まみれのおんどうの中に迷わず入って来て、そして俺達の肩を一人一人抱いた。

その時坊さんの僧衣?から、なんか懐かしい線香の香りがして

(ああ、俺達、生きてる)

って心の底から思った。

そこでまた俺子供のように泣いた。

 

しばらくしても立ち上がれない俺を見て、坊さんはおっさんを呼んできてくれた。

そして2人に肩を抱えられながら、前日に居た一軒家に向かった。

途中、行く時に見た大きな寺の横を通ったんだが、その時俺達3人は叫び声を聞いた。

低く、そして急に高くなって叫ぶ人の声だった。

家の玄関に着くと耳元でAが囁いた。

 

A「さっきのあれ、女将さんの声じゃね?」

 

まさかと思ったが、確かに女将さんの声に聞こえなくもなかった。

だが俺はそれどころじゃないほど疲れていたわけで。

早く家に上げて欲しかったんだが、玄関に出てきた女の人がすげー不快そうに俺達を見下しながら

「すぐお風呂入って」

って言うんだわ。

まーしょうがない。だって俺達有り得んくらい臭かったしね。

 

そして俺達は、3人仲良く風呂に入った。

まあ怖かった。いきなり一人になる勇気はさすがになかった。

風呂を上がると見覚えのある座敷に通され、そこに3枚の布団が敷いてあった。

「まず寝ろ」ということらしかった。

 

ここは安全だという気持ちが自分の中にあったし、極限に疲れていたせいもあった。

というか、理屈よりまず先に体が動いて、俺達は布団に顔を埋めてそのまま泥のように眠った。

 

俺は眠りに入る中で、まったくもってどうでもいいことを思った。

(起きたらあいつらに、俺達が帰るって電話しなきゃな。)

 

旅行の準備満タンでスタンバイする友達2人は、俺達が今こうして死にそうな思いをしていたことを知らない。

もちろん、旅行計画がオジャンになることも。

 

そういえば、おんどうから出る時俺はBに聞いたんだ。

俺「B、もう、見えないよな?」

するとBは、確かな口調で答えた。

B「ああ、見えない。助かったんだ。ありがとう」

おれはその最後の一言を聞いて、Bが小便を垂らしたことは内緒にしておいてやろうと思った。

俺達は助かったんだ。その事実だけで、十分だった。

 

その後目を覚ました俺達は、事の真相を坊さんに聞かされることになる。

そして、人間の本当の怖さと、信念の強さがもたらした怪奇的な現実を知るんだ。

Bの見たもの、俺の見たもの、Aの聞いたもの。

それを全て知って、俺達は再び逃げ出す決心をする。

 

今まで読んでくれた人たち、本当にありがとう。

自分でもこんな長文になるとは思ってもなかった。

 

沢山の期待がある分、それに沿えない結果だったかもしれないけど、話を湾曲させたくなかったからそのまま書かせてもらった。

長すぎるのもなんなんで、一応ここで完結にしておく。

 

これから先は、事の真相を書くんで、本当に気になる人だけ読んでくれ。

あの後、俺達は死んだように眠り、坊さんの声で目を覚ました。

 

坊「皆さん、起きれますか?」

 

特別寝起きが悪いAをいつものように叩き起こし、俺達は坊さんの前に3人正座した。

 

坊「皆さん、昨日は本当によく頑張ってくれました。無事、憑き祓いを終えることができました」

 

そう言って坊さんは優しく笑った。

俺達は、その言葉に何と言っていいか分からず、曖昧な笑顔を坊さんに向けた。

聞きたいことは山ほどあったのに、何も言い出せなかった。

 

すると坊さんは俺達の心中を察したのか

坊「あなたたちには、全てお話しなくてはなりませんね。お見せしたい物があります」

と言って立ち上がった。

 

坊さんは家を出ると、俺達を連れて寺の方に向かった。

石段を上る途中、Bはキョロキョロと辺りを警戒する仕草を見せた。

それにつられて俺も、昨日見たアイツの姿を思い出して同じ行動を取った。

それに気づいた坊さんは、俺達に聞いた。

 

坊「もう大丈夫のはずです。どうですか?」

B「大丈夫・・何も見えません」

俺「俺も平気です」

 

その返事を聞くと坊さんはにっこりと笑った。

 

大きな寺に着くと、ここが本堂だと言われた。

坊さんの後ろに続いて寺の横にある勝手口から中に入り、さっきまで居た座敷とさほど変わらない部屋に通された。

坊さんは俺達にここで少し待つように言うと、部屋を出て行った。

Bは落ち着かないのか貧乏揺すりを始めた。

 

暫くすると、坊さんは小さな木箱を手に戻って来た。

そして俺達の対面に腰を下ろすと

坊「今回の事の発端をお見せしますね」

と言って箱を開けた。

 

3人で首を伸ばして箱の中を覗き込んだ。そこには、キクラゲがカサカサに乾燥したような、黒く小さい物体が綿にくるまれていた。

 

AB俺(何だこれ?)

 

よく見てみるが分からない。

だがなんとなく、どっかで見たことのある物だと思った。

俺は暫く考え、咄嗟に思い出した。

 

昔、俺がまだ小さい頃、母親がタンスの引き出しから大事そうに木の箱を持ってきたことがあった。

そして箱の中身を俺に見せるんだ。すげー嬉しそうに。

箱の中には綿にくるまれた黒くて小さな物体があって、俺はそれが何か分からないから母親に尋ねたんだ。

そしたら母親は言ったんだ。

 

「これはねぇ、臍(へそ)の緒って言うんだよ。お母さんと、○○が繋がってた証」

 

俺は子供心に(なんでこんなの大事そうにしてるんだろ?)って思った。

 

目の前にあるその物体は、あの時に見た臍の緒に似ているんだと思った。

 

A「これ何ですか?」

坊「これは、臍の緒ですよ」

 

というか似てるもなにも臍の緒だった。

 

A「俺初めて見たかも」

B「おれ見たことある」

俺「俺も」

坊「みなさん親御さんに見せてもらったのでしょう。こういうものは、大切に取っておく方が多いですから

この臍の緒も、それはそれは大切に保管されていたものなのです」

 

俺たちは黙って坊さんの話を聞いていた。

 

坊「母親の胎内では、親と子は臍の緒で繋がっております。

今ではその絆や出産の記念にと、それを大切にする方が多いですが、臍の緒には色々な言い伝えがあり、昔はそれを信じる者も多かったのです」

B「言い伝え?」

坊「そうです。昔の人はそういう言い伝えを非常に大切にしておりました。今となっては迷信として語られるだけですが」

 

そう前置きをして坊さんは臍の緒に関する言い伝えを教えてくれた。

 

主に”子を守る”という意味を持っているが、解釈は様々。

”子が九死に一生の大病を患った際に煎じて飲ませると命が助かる”とか”子に持たせるとその子を命の危険から守る”というのがあって、親が子供を想う気持ちが込められているところでは共通しているらしい。

俺たちはその話を聞いて、「へぇ~」なんて間抜けな返事をしていた。

坊さんは一息入れると、微かに口元を上げて言った。

 

坊「ひとつ、この土地の昔話をしてもよろしいですか?今回の事に関わるお話として聞いいただきたいのです」

 

俺達は坊さんに頷いた。

 

ここから、坊さんの話が始まる。

結構長くて、正確には覚えてない、所々抜け落ち部分があるかも。

 

坊「この土地に住む者も、臍の緒に纏わる言い伝えを深く信じておりました。

土地柄、ここでは昔から漁を生業として生活する者が多くおりました。

漁師の家に子が生まれると、その子は物心がつく頃から親と共に海に出るようになります。ここでは、それがごく普通のしきたりだったようです

 

漁は危険との隣り合わせであり、我が子の帰りを待つ母親の気持ちは、私には察するに余りありますが、それは深く辛いものだったのでしょう。

母親達はいつしか、我が子に御守りとして臍の緒を持たせるようになります

 

海での危険から命を守ってくれるように、そして行方のわからなくなったわが子が、自分の元へと帰ってこれるようにと」

 

俺「帰ってくる?」

俺は思わず口を挟んだ。

 

坊「そうです。まだ体の小さな子は波にさらわれることも多かったと聞きます。

行方の分からなくなった子は、何日もすると死亡したことと見なされます。

しかし、突然我が子を失った母親は、その現実を受け入れることができず、何日も何日もその帰りを待ち続けるのだそうです

そうしていつからか、子に持たせる臍の緒には”生前に自分と子が繋がっていたように、子がどこにいようとも自分の元へ帰ってこれるように”と、命綱の役割としての意味を孕むようになったのだと言います」

 

皮肉な話だと思った。

本来海の危険から身を守る御守りとしての役割を成すものが、いざ危険が起きたときの命綱としての意味も持ってる。

母親はどんな気持ちで子どもを送り出してたんだろうな。

 

坊「実際、臍の緒を持たせていた子が行方不明になり無事に帰ってくることはなかったそうです

しかしある日、”子供が帰ってきた”と涙を流して喜ぶ1人の母親が現れます。

これを聞いた周囲の者はその話を信用せず、とうとう気が狂ってしまったかと哀れみさえ抱いたそうです。

何故なら、その母親が海で子を失ったのは3年も前のことだったからです」

 

B「どこかに流れついて今まで生きてたとかじゃないんですか?」

 

坊「そうですね。始めはそう思った者もいたようです。そして母親に子供の姿を見せてほしいと言い出した者もいたそうなのです」

 

B「それで?」

 

坊「母親はその者に言ったそうです。”もう少ししたら見せられるから待っていてくれ”と」

 

どういう意味だ?

帰って来たら見せられるはずじゃないのか?

俺はこの時、理由もなく鳥肌が立った。

 

坊「もちろんその話を聞いて村の者は不振に思ったそうですが、子を亡くしてからずっと伏せっていた母親を見てきた手前、強く言うことができずそのまま引き下がるしかできなかったそうです

しかし次の日、同じ事を言って喜ぶ別の母親が現れるのです。そしてその母親も、子の姿を見せることはまだできないという旨の話をする。

村の者達は困惑し始めます。

 

前日の母親は既に夫が他界し、本当のところを確かめる術が無かったのですが、この別の母親には夫がおりました。

そこで村の者達は、この夫に真相を確かめるべく話を聞くことになったそうです

 

するとその夫は言ったそうです。”そんな話は知らない”と。母親の喜びとは反対に、父親はその事実を全く知らなかったのです。

村人達が更に追求しようとすると、”人の家のことに首を突っ込むな”とついには怒りだしてしまったそうです」

 

まあ、そうだよな。

何にせよ周りの人に家の中のことをごちゃごちゃ聞かれたらいい気はしないだろうな、なんて思ったりもした。

 

坊「その後何日かするとある村の者が、最初に子が戻ってきたと言い出した母親が、昨晩子共を連れて海辺を歩く姿を見たと言い出します。

暗くてあまり良く見えなかったが、手を繋ぎ隣にいる子供に話しかけるその姿は、本当に幸せそうだったと。

この話を聞いた村の者達は皆、これまでの非を詫びようと、そして子が戻ってきたことを心から祝福しようと、母親の家に訪ねに行くことにしたそうです

 

家に着くと、中から満面の笑顔で母親が顔を出したそうです。村の者達はその日来た理由を告げ、何人かは頭を下げたそうです。

すると母親は、”何も気にしていません。この子が戻って来た、それだけで幸せです”と言いながら、扉に隠れてしまっていた我が子の手を引き寄せ、皆の前に見せたそうです

その瞬間、村の者達はその場で凍りついたそうです」

 

AB俺「・・・」

 

坊「その子の肌は、全身が青紫色だったそうです。そして体はあり得ない程に膨らみ、腫れ上がった瞼の隙間から白目が覗き、辛うじて見える黒目は左右別々の方向を向いていたそうです。

そして口から何か泡のようなものを吹きながら母親の話しかける声に寄生を発していたそうです。

それはまるでカラスの鳴き声のようだったと聞きます。

 

村の者達は、子供の奇声に優しく笑いかけ、髪の抜け落ちた頭を愛おしそうに撫でる母親の姿を見て、恐怖で皆その場から逃げ出してしまったのだそうです

 

散り散りに逃げた村の者達はその晩、村の長の家に集まり出します。

何か得体の知れないものを見た恐怖は誰一人収まらず、それを聞いた村の長は自分の手には負えないと判断し、皆を連れてある住職の元へ行くことにします。

その住職というのが、私のご先祖に当たる人物らしいのですが・・

 

相談を受けた住職は、事の重大さを悟りすぐさま母親の元に向かいます。

そして母親の横に連れられた子を見るや、母親を家から引きずり出し寺へと連れて帰ったそうです。

その間も、その子は住職と母親の後をずっと付いてきて奇声を発していたのだとか

 

寺に着くとまず結界を強く張った一室に母親を入れ、話を聞こうとします。

しかし、一瞬でも子と離れた母親は、その不安からかまともに話をできる状態ではなかったと聞きます。

ついには子供を返せと、住職に向かってものすごい剣幕で怒鳴り散らしたのだそうです」

 

A「それでどうなったんですか?」

 

坊「子を想う母は強い。住職が本気で押さえ込もうとしたその力を跳ね飛ばし、そのまま寺を飛び出してしまったのだそうです」

 

坊さんは少し情けなそうな顔をしてそう言った。

 

坊「その後、村の者と従者を何人か連れて母親の家に行きましたが、そこに母と子の姿はなかったそうです。

そして家の中には、どこのものかわからない札が至る所に貼り付けられ、部屋の片隅には腐った残飯が盛られ異臭が立ち込めていのだとか」

 

この時俺は思った。あの旅館の2階で見たものと同じだと。

 

坊「そこに居た皆は同じことを思いました。母親は子を失った悲しみから、ここで何かしらの儀を行っていたのだと。

そして信じ難いことだが、その産物としてあのようなモノが生まれたのだと。

その想いを悟った村の者達は、母親の行方を村一丸になって捜索します

 

住職はすぐさま従者を連れ、もう一人の母親の家に向かいますが、こちらも時既に遅しの状態だったそうです。

得体の知れないモノに語りかけ、子の名前を呼ぶ母親に恐怖する父親。

その光景を見た住職は、経を唱えながらそのモノに近づこうとしますが、子を守る母親は住職に白目を向き、奇声を発しながら威嚇してきたのだそうです」

 

現実味のない話だったのに、なぜかすごく汗ばんだ。

 

坊「村の者は恐れ、一歩も近寄れなかったと言います。

しかし住職とその従者は臆することなくその母親とそのモノに近づき、興奮する母親を取り押さえ寺へ連れ帰ります。

暴れる母親を抱えながら、背後から付いて来るモノに経を唱え、道に塩を盛りながら少しずつ進んだのだそうです

 

寺に着くと住職は母親をおんどうへ連れて行き、体を縛りその中に閉じ込めたのだそうです」

 

A「そんなことを・・」

Aが哀れみの声を出した。

 

坊「仕方がなかったのです。親と子を離すのが先決だった、そうしなければ何もできなかったのでしょう」

 

坊さんがしたことではないが、Aは坊さんから顔を背けた。

少しの沈黙の後、坊さんは続けた。

 

坊「母親の体には自害を防ぐための処置が施されたようですがその詳細は分かりません。その後、おんどうの周りに注連縄を巻きつけ、住職達はその周りを取り囲むようにして座り経を唱え始めたそうです。

中から母親の呻き声が聞こえましたが、その声が子に気づかれぬよう、全員で大声を張り上げながら経を唱えたそうです

 

住職達が必死に経を唱える中、いよいよ子の姿が現れます。子は親を探し、おんどうの周りをぐるぐると回り始めます。

何を以って親の場所を捜すのか、果たして経が役目を成すのかもわからない状態で、とにかく住職達は必死に経を唱えたのです」

 

そこで坊さんは一息ついた。

 

B「それで、どうなったんですか?」

Bの声は恐る恐るといった感じだった。

 

坊「おんどうの周りを回っていたそのモノは、次第に歩くことを困難とし、四足歩行を始めたそうです。

その後、四肢の関節を大きく曲げ、蜘蛛のように地を這い回ったそうです。それはまるで、人間の退化を見ているようだったと。

その後、なにやら呻き声を上げたかと思うとそのモノの四肢は失われ、芋虫のような形態でそこに転がっていたのだとか

そしてそのモノは夜が明けるにつれて小さくすぼみ、最終的に残ったのが、臍の緒だったのです」

 

俺は、坊さんの話に聞き入っていた。

まるで自分達の話に毛が生えて、昔話として語られているような感覚だった。

するとAが聞いたんだ。

 

A「え、もしかしてその臍の緒って・・」

すると坊さんは静かに答えた。

坊「今朝、おんどう奥の岩の上に転がっていたものです」

B「マジかよ・・」

Bは呆然として呟いた。

 

俺「なんで?なんで俺達なんですか?」

坊「詳しくはわかりません。この寺には、代々の住職達の手記が残されていますが、母親でない者にこのような現象が起きた事例は見当たりませんでした

何より、肝心の母親の行った儀式について。これがまだ謎に包まれたままなのです」

B「母親に聞かなかったんですか?」

坊「聞かなかったのではなく、聞けなかったのです」

 

ポカンとしていると坊さんはまた話し始めた。

 

坊「住職達がおんどうを開け中を確認すると、疲れ果ててぐったりした母親がいたそうです。子を求めて一晩中叫んでいたのでしょう。

すぐさま母親を外に運びだし手当てをしましたが、目を覚ました時には、母親は完全に正気を失っておりました。

二度も子を失った悲しみからなのか、はたまた何か禍々しいモノの所為なのか、それも分かりかねますが

 

そして村の者が捜索していたもう一人の母親ですが、一晩経を読み上げ疲れ果てた住職達の元に、発見の知らせが届いたそうです。

近海の岸辺に遺体となって打ち上げられていたと。母親は体中を何かに食い破られており、それでいて顔はとても幸せそうだったとあります。

何が起きたのかはわかりませんが、住職の手記にはこうありました。”子に食われる母親の最後は、完全な笑顔だった”と。」

 

信じられないような話なんだが、俺達は坊さんの話す言葉一つ一つをそのまま飲み込んだ。

 

坊「遺体となって見つかった母親の家は、村の者達による話し合いで取り壊されることとなり、その際に家の中から母親の書いたものらしいメモが見つかったそうです」

 

そう言って坊さんはそのメモの内容を俺達に説明してくれた。

簡単に言うと、儀式を始めてからの我が子を記録した成長記録のようなものだったそうだ。

どんな風に書かれていたのかは憶測でしかないんだが、内容は覚えているので以下に書く。わかりづらいかも。

 

○月?日 堂の作成を開始する

×月?日 変化なし

△月?日 △△(子の名前)が帰ってくる

△月?日 移動が困難な状態

△月?日 手足が生える

△月?日 はいはいを始める

△月?日 四つ足で動き回る

△月?日 言葉を発する

△月?日 立つ

 

この成長記録に、母親の心情がビッシリと書き連ねてあったらしい。

 

ちなみに、もう一人の母親は、屋根裏に堂を作っていたらしく、父親はその存在に全く気づいていなかったのだそうだ。

 

坊「私もすべてを理解しているとは言えませんが、この母親の成長記録と住職の手記を見比べると、そのモノは自分の成長した過程を遡るようにして退化していったと考えられませんか?」

 

確かにその通りだと思った。

そして坊さんは、それ以上の言及を避けるように話を続けた。

 

坊「これ以降手記には、非常に稀ですが同じような事象の記述が見られます。だがその全てに、母親達がいつどのようにしてこの儀を知るのかが明記されていないのです。

それは全ての母親が、命を落とす若しくは、話すこともままならない状態になってしまったことを意味しているのです」

 

坊さんは早期に発見できないことを悔やんでいると言った。

 

坊「今回の現象は初めてのことで、私自身もとても戸惑っているのです。

何故母親ではないあなたがそのモノを見つけてしまったのか。子の成長は母親にしか分からず、共に生活する者にもそれを確認することはできないはずなのです」

 

そんなデタラメな話有りなのか?と思った。

そしてBが、話の核心を知ろうと、恐る恐る質問した。

 

B「あの、母親って、・・・もしかして女将さんなんですか?」

坊さんは少し黙り、答えた。

 

坊「その通りです

真樹子さんは、この村出身の者ではありません。○○さん(旦那さんの名前)に嫁ぎこの村にやってきました。息子を一人儲け、非常に仲の良い家族でした」

 

そう言って話してくれた坊さんの話の内容は、大方予想が付いていたものだった。

 

女将さんの一人息子は、数年前のある日海で行方不明になったそうだ。

大規模な捜索もされたが、結局行方は分からなかったらしい。

悲しみに暮れた女将さんは、周囲から慰めを受け、少しずつだが元気を取り戻していったそうだ。

旅館もそれなりに繁盛し、周囲も事件のことを忘れかけた頃、急に旅館が2階部分を閉鎖することになったんだって。

 

周りは不振に思ったが、そこまで首を突っ込むことでもないと、別段気にすることはなかったそうだ。

そしてこの結果だ。

 

女将さんは、どこから情報を得たのか不明だが、あの2階へ続く階段に堂を作り上げそこで儀式を行っていた。

そしてその産物が俺達に憑いてきたという訳だが、ここがこれまでの事例と違うのだと坊さんは言った。

本来儀式を行った女将さんに憑くはずの子が、第3者の俺達に憑いたんだ。

 

考えられる違いは、女将さんは息子に臍の緒を持たせていなかったということ。

そこの村の人達は、昔からの風習で未だに続けている人もいるらしいが、女将さんはその風習すら知らなかった。これは旦那さんが証言していたらしい。

 

そして妙な話だが、旅館の2階を閉鎖したというのに、バイトを3人も雇った。

旦那さんも初めは反対したそうだが、女将さんに

「息子が恋しい

同年代くらいの子達がいれば息子が帰ってきたように思える」

と泣きつかれ、渋々承知したそうなんだ。

 

これは坊さんの憶測なんだが、女将さんは初めから、帰ってきた息子が俺達を親として憑いていくことを知っていたんではないかということだった。

結局これらのことを俺達に話した後坊さんはこう言った。

 

坊「あなた達をあのおんどうに残したこと、本当に申し訳なく思います。

しかし、私は真樹子さんとあなた達の両方を救わなければならなかった。

あなた達がここにいる間、私達は真樹子さんを本堂で縛り、先代が行ったように経を読み上げました。

あのモノがおんどうへ行くのか、本堂へ来るのか分からなかったのです」

 

つまり、俺達に憑いてきてはいるが、これまでの事例からいくと母親の女将さんにも危険が及ぶと、坊さんはそう読んでいたってことだ。

 

俺は、別に坊さんが謝ることじゃないと思った。

それにこの人は命の恩人だろ?と思ってBを見ると、肩を震わせながら坊さんを睨み付けて言ったんだ。

 

B「納得いかない。自分の息子が帰ってくりゃ人の命なんてどーでもいいのか?」

坊「・・」

B「全部吐かせろよ!なんでこんな目に遭わせたのか、それができないなら俺が直接会って聞いてやる

旦那さんだって知ってたんだろ?それなのに何で言わなかったんだ?」

坊「○○さんは知らなかったのです」

B「嘘つくな。知ってるようなこと言ってたんだ」

坊「この話は、この土地には深く根付いています。○○さんが知っていたのは伝承としてでしょう」

 

坊さんが嘘を吐いているようには見えなかった。だがBの興奮は収まりきらなかったんだ。

 

B「ふざけんじゃねーぞ。早く会わせろ。あいつらに会わせろよ!」

 

俺達はBを取り押さえるのに必死だった。

坊さんは微動だにせず、Bの怒鳴り声を静かに聞いていた。そして

 

坊「この話をすると決めた時点で、あなた達には全てをお見せしようと思っておりました。真樹子さんのいる場所へ案内します」

 

と言って立ち上がったんだ。

 

坊さんの後を付いて、しばらく歩いた。本堂の中にいるかと思っていたんだが、渡り廊下みたいなのを渡って離れのような場所に通された。

近づくにつれて、なにやら呻き声と何人かの経を唱える声が聞こえてきた。

そして、その声と一緒に

 

バタンッバタン

 

という音が聞こえた。かなりでかかった。

離れの扉の前に立つと、その音はもうすぐそこで鳴っていて、中で何が起きているのかと俺は内心びくびくしていた。

そして坊さんが離れの扉を開けると、そこには女将さん一人とそれを取り囲む坊さん達が居た。

俺達は全員、言葉を発することができなかった。

 

女将さんは、そこに居たというか・・なんか跳ねてた。エビみたいに。うまく説明できないんだが。

寝た状態で、畳の上で、はんぺんみたいに体をしならせてビタンビタンと跳ねていたんだ。

人間のあんな動きを俺は初めてみた。そして時折苦しそうにうめき声を上げるんだ。

俺は怖くて女将さんの顔が見れなかった。

 

正直、前の晩とは違う、でもそれと同等の恐怖を感じた。

 

呆然とする俺達に坊さんは言った。

坊「この状態が、今朝から収まらないのです」

するとAが耐え切れなくなり

A「俺、ここにいるのキツイです」

と言ったので、一旦外に出ることになった。

 

音を聞くことさえ辛かった。

つい昨日の朝に見た女将さんの姿とは、まるで別人の様になっていた。

 

そこから少し離れたところで俺達は坊さんに尋ねた。

憑き物の祓いは成功したのではないかと。

 

坊「確かに、あなた達を親と思い憑いてきたものは祓うことができたのだと思います。現にあなた達がいて、ここに臍の緒がある。しかし・・」

すると急にBが言ったんだ。

B「そうか・・俺が見たのは、1つじゃなかったんだ」

 

初めは何のことを言ってるのかわからなかったんだが、そのうちに俺もピンときた。

Bはあの時、2階の階段で複数の影を見たと言っていなかったか?

 

坊「1つではないのですか?」

 

坊さんは驚いたように聞き返し、Bがそうだと答えるのを見ると、また少し黙った。

そして暫く考え込んでいたかと思うと急に何かを思い出したような顔をして、俺達に言ったんだ。

 

坊「あなた達は鳥居の家に行ってください。そしてあの部屋を一歩も出ないでください。後で人を行かせます」

ポカンとする俺達を置いて、坊さんはそのまま女将さんのいる離れの方に走って行った。

 

俺達は急に置いてけぼりを食らい、暫く無言で突っ立っていた。

すると離れの方から、複数の坊さんが大きな布に包まった物体を運び出しているのが見えた。その布の中身がうねうねと動いて、時折痙攣しているように見えた。

あの中にいるのは女将さんだと全員が思った。

そのままおんどうの方に運ばれていく様を、俺達は呆然と見ていたんだ。

 

ふとお互い顔を見合わせると、途端に怖くなり、俺たちは早足で家に向かった。

 

そこからは、説明することが何も無いほど普通だった。

家に行って暫くすると、別の坊さんがやって来て「ここで一晩過ごすように」と言われた。

そしてその坊さんは俺たちの部屋に残り、微妙な雰囲気の中4人で朝を迎えたというわけ。

 

次の朝、早めに目が覚めた俺達がのん気にめざにゅ~を見ていると、坊さんがやって来た。

俺達は坊さんの前に並んで話を聞いた。

 

坊さんは俺達の憑き祓いは完全に終わったと言った。

昨日言っていた通り、俺達に憑いてきたモノは一匹で、それは退化を遂げて消滅したのを確認したんだと。

俺達はそれを聞いて安堵した。

 

しかし坊さんはこう続けた。

 

女将さんを救うことができなかったと。

泣きそうなのか怒っているのか、なんとも言えない表情を浮かべてそう言った。

死んだのかと聞くと、そうではないと言うんだ。

 

俺はその言葉から、女将さんが跳ね回っている姿を思い出した。

(ずっとあの状態なのか・・?)

 

恐る恐るそれを聞くと、坊さんは苦い顔をしただけで、肯定も否定もしなかった。

 

女将さんの今の状態は、憑きものを祓うとかそういう次元の話ではなく、何かもっと別のものに起因してるんだって。

詳しくは話してくれなかったんだが、女将さんが行った儀式は、この地に伝わる「子を呼び戻す儀」と似て非なるものらしい。

どこかでこの儀の存在と方法を知った女将さんは、息子を失った悲しみからこれを実行しようと試みる。

だが肝心の臍の緒は自分の手元にあったわけだ。

 

こっからは坊さんの憶測なんだが、女将さんはこれを試行錯誤しながら完成系に繋げたんじゃないかということだった。自分の信念の元に。

そしてそこから得た結果は、本来のものとは別のものだった。

堂には複数のモノがおり、そこに息子さんがいたかは分からないと。

 

坊さんが言ってた。

この儀の結末は、非常に残酷なものでしかないんだと。

それを重々承知の上で、母親達は時にその禁断の領域に足を踏み入れてしまう。

子を失う悲しみがどれ程のものなのか、我々には推し量ることしかできないが、心に穴の開いた母親がそこを拠り所としてしまうのは、いつの時代にもあり得ることなのではないかと。

Bは、女将さんのこれからを執拗に聞いていたが、坊さんは何も分からないの一点張りで、俺たちは完全に煙に巻かれた状態だった。

 

俺達が坊さんと話終えると、部屋に旦那さんが入ってきた。

俺は正直ぎょっとした。

顔が土色になって、明らかにやつれ切った顔をしてたんだ。

そして、俺達の前に来ると泣きながら謝って来た。

 

泣きすぎて何を言ってるのかは全部聞き取れなかったんだけど、俺達は旦那さんのその姿を見て誰も何も言えなかった。

俺達に申し訳ないことをしたと泣いているのか、それとも女将さんの招いた結果を思って泣いているのか、どっちだったんだろうな。

今となってはわかんねーな。

 

その後、俺達は何度も坊さんに確認した。これ以降俺達の身には何も起きないのか?と。

すると坊さんは困ったような顔をしながら「大丈夫」だと言った。

 

その後、坊さんの所にタクシーを呼んでもらって俺達は帰ることになった。

一応、昨日の朝俺を家まで運んでくれたおっさんが駅まで同乗してくれることになったんだが。

 

このおっさんがやたら喋る人で、それまでの出来事で気が沈んでる俺達の空気を一切読まずに一人で喋くりまくるんだ。

そんでこのおっさんは

「それにしても、子が親を食うなんて、蜘蛛みたいな話だよなぁ」

と言ったんだ。

俺達は胸糞悪くなって黙ってたんだけど、おっさんは一人で続けた。

「お前達、ここで聞いた儀法は試すんじゃねーぞ。自己責任だぞ」

そう言って笑うんだ。

 

俺達の気持ちを和らげようとして言ってるのか本気でアホなのかわかんなかったけど、一つ確かなことがあった。

俺達は、坊さんに真実を隠されて教えられたんだ。

儀の方法は、その結果と一緒にこの地に伝わってるんだ。このおっさんが知ってて坊さんが知らないはずないだろ?

そう思うと、これだけの体験をさせといて、結局は大事なところを隠して話されたことにすげーショックを受けた。

坊さんを信用していた分、なんか怒りにも似たものが湧き上がってきたんだ。

 

タクシーが駅に着くと、おっさんが金を払うと言ったが俺達は断った。

早くこの場所から逃げ出したい、その一心だった。

 

坊さんが「大丈夫」と言った一言も、全部嘘に思えてきた。

それでも俺達には、あの寺に戻る勇気はなくて、帰りの電車をただただ無言で待つことしかできなかったんだ。

 

その後、帰って来てからは、なんともない。

まあ、なんともないからここに書き込めてるわけだけど。

 

「もう2度とあの場所へは行かない」

3人で話してると必ず1回はその言葉が出てくるくらい、俺達にとってトラウマになった出来事だったんだ。

 

あと、Bはあれから蜘蛛を見るのがどうもダメらしい。成長過程のアイツの姿を見てるからね。

 

俺はと言うと、今は普通に社会人やってます。若干暗闇が苦手になったくらい。

人間のど元過ぎれば熱さ忘れるって、あながち間違いじゃないかもしれないな。

 

本当の本当に後日談なんだが、その話を残りの友達2人に話したんだ。

2人とも俺達3人の様子を見て、一応信じてはくれたんだけど。

でもそいつらその後に、興味半分で旅館に電話を掛けてみたんだって。(最低だろ)

そしたら、電話に出たのは普通のおばさんだったらしい。

そいつら俺達に言うんだよ。女将さんか確認しろって。そんで、後ろでカラスが異様に鳴いてるって言うんだ。

絶対無理だと思った。女将さんが無事でも無事じゃなくても、俺にはその後を知る勇気なんか出なかった。

 

タラタラ書いて正直すまなかった。

真相といっても的を得ない内容だったかもしれないが、ご勘弁願います。

これがありのままっす。オチなしですが。

 

長々読んでくれてどうもありがとう。

 

○感想

子を想う母は強い。胸の痛むお話でした。

真樹子さんを救えなかったのが悔しいですね。

生々しい描写から、因縁の昔話など、細かいところまで丁寧に作られた恐ろしい話でした。

【未解決事件】マックス・ヘッドルーム事件

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マックス・ヘッドルーム事件

 

○概要Wikipediaより引用

マックス・ヘッドルーム事件は、1987年11月22日、アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ一帯で発生したテレビ放送の電波ジャック。テレビ業界での「放送信号割り込み」の一例として知られている。CGキャラクター・マックス・ヘッドルームに扮した侵入者は3時間のうちに放送信号割り込みを成功させた。発生から30年以上経つ現在も未解決事件となっている。

 

○事件経過

・WGN-TV (シカゴ9ch) での電波ジャック

最初の放送信号割り込みは独立局のWGN-TV (シカゴ9ch)のゴールデンタイムの生放送ニュース番組で発生した。

シカゴ・ベアーズが、本拠地でデトロイト・ライオンズに30対10で勝利したというニュースをスポーツコーナーで報じている途中で、画面が15秒間真っ暗になった。

画面が戻るとマックス・ヘッドルームを模したマスクにサングラスを着けた男が現れ、周囲を歩き回ったり、飛び跳ねたりするなどした。

彼の後ろにある波打った金属板はマックス・ヘッドルームのテレビと映画シリーズの背景映像で使われたエフェクトを模したもので、音声はガヤガヤした音と振動する音だけだった。

この電波ジャックは、WGNの技術者たちがSTLの周波数をジョン・ハンコック・センターの送信機に切り替えたことにより解決した。

 

・WTTW (シカゴ11ch) での電波ジャック

事件当日の夜中の11時45分(中部標準時)頃、『ドクター・フー』シリーズ中からの一話「ホラー オブ ファン ロック」の放送中に、PBS (公共放送サービス) に加盟する放送局WTTW (シカゴ11ch)の放送が、シカゴ9chの事件と同じ人物にジャックされた。このときの音声はゆがんでいてパチパチした音だった。

ドクター・フー』の放送はこの電波ジャックによって妨害され、そのあとにマックス・ヘッドルームを模したマスクとサングラスを着けた正体不明の男が画面に現れた。

マスクの男はWGN-TVの有力者チャック・スワースキー(スポーツ解説者)について、「俺はヤツ (チャック・スワースキーのこと) より優れてるぜ」と述べ、スワースキーに電話をかける素振りをして、「この頭のおかしいリベラル野郎め」と言い放った。

そのあと、男は唸り、叫んで、笑い始めた後、笑いながら不特定多数の単語を言い続けた。例えば、ニューコークの売り文句「流れに乗ろう ("Catch the Wave")」を、ペプシの缶を手に握りつつ言った。次にその缶を投げ捨てて、カメラに対して前のめりになり、性具を着けた中指を立ててファックサインをして見せたが、一部は見切れていた。

男はペプシの缶を再び拾い、ソウルグループ「テンプテーションズ」の楽曲『アイム ルージング ユー』を歌い、指に着けた性具を取り外した。

続いて、テレビアニメ『クラッチ・カーゴ』のテーマソングを口ずさみ、一旦やめて、「俺にはまだXが見える ("I still see the X")」)と言った。

腸にガスが溜まるかのような音が聞こえたあと、彼は悲痛に唸り始め、自分のいぼ痔について訴え始めた。

続いて、マスクの男は、彼が「"最も偉大な新聞"を読んでいるすべてのマヌケにとって最大の傑作を創造した。」と述べた。

続いて、彼は当時、マイケル・ジャクソンが着用していたものに類似した手袋を掲げて、「俺の兄弟は違うほうを着けてるんだけどね」と言った。

その手袋を着用すると、「でもこれ (手袋) 汚いんだよ!血のりが付いたみたいにな!」と言い放ち、手袋を投げ捨てた。

画像は突然カットされ、そこにはマスクの男の胴が映し出された。画面には彼の臀部が晒されており、今まで被っていたマスクを脱いで、マスクの口に前述の性具を着け、それらをカメラに向けつつ、「奴らは俺をパクリに (逮捕しに) 来るぜ!」と叫んだ。

正体不明のメイド服を着た女性が、「身をかがめなさい。この間抜け男!」とマスクの男に言った。

その女性は蠅叩きでマスクの男の臀部へのスパンキング行為を行い、それにしたがって男もより大きな声で悶絶した。

この放送信号割り込みは、90秒にわたって行われ、放送中だった『ドクター・フー』に画面が戻る前の数秒前は、画面が真っ暗になった。

 

○社説

The 愉快犯と言うべき犯行ですね。捜査の手を逃れて大手を振って生きているのも憎たらしい。実害はないとはいえ、非常に不愉快な事件でした。

【未解決事件】まりも号脱線事件

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○概要(Wikipediaより引用)

1951年(昭和26年)5月17日午前1時25分、上り急行まりも号4レ(C57形蒸気機関車104+客車9輌+D51蒸気機関車※番号不詳)は、新得駅を出て狩勝峠にさしかかったところで脱線。蒸気機関車が線路外に逸脱して宙吊り状態になったものの、上り坂で速度が出ていなかったこともあり、乗客約470名にケガはなく、機関士2名が軽傷を負うだけの被害で収まった。仮に、勾配を下る列車であったならば、速度も増し、より多くの犠牲者が出る大事故に繋がったものと考えられている。

 

○原因

 何者かが、レールの継ぎ目板を外し、レールを4 cm ずらすというものであり、1949年(昭和24年)に発生した松川事件の状況と類似していた。

 専門的な知識・技術が要求される犯行であり、約600人の日本国有鉄道国鉄)及び労働組合関係者が捜査対象となったが、迷宮入りした。

 また、新得が大規模な労働争議(狩勝トンネル争議)が行われていた場所であったことから、警察は捜査対象者を国鉄関係者、とりわけ労働組合関係者を重点的に600名ともいわれるほどの規模で事情聴取を行った。一方、まりも号の荷物車には、200万円の現金が積まれていたことから、現金強奪を狙った可能性もあるとして両面からの捜査が行なわれた。

 しかし、有力な物的証拠や目撃証言等は得られず、捜査は難航。事件解決の名を借りた組合叩きとの批判も噴出する中、詳細は解明されないまま未解決事件となった。

 

○社説

動機不明、犯人不明、本格的な未解決事件の様相を呈していますね。死者が出なかったことが不幸中の幸いでした。

【2ch怖い話名作選】砂浜でつながった無人島 (感想付き)

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砂浜でつながった無人島……

そこは私の地元で、中学の時はよくそこで遊んだ。

夏場は家族連れも普通にキャンプするような島。

光太郎と貫一は中学の同級生。

三人とも十九歳だった。

貫一が一浪で大学に受かって、晴れて三人とも大学生になった。

そのお祝いで、入学前にバーベキューでもしようってノリだった。

まだ四月で少し肌寒かったけど、テントをはれば問題なかった。

その無人島にはたくさんの防空壕が掘ってあって、中学生の時に肝試しをしたこともあった。

その度に、軍服の幽霊が出たとか、子供の幽霊がとか、話題にはなったが実際に何か起こったことは一度もなかった。

島は一周で2~3キロ程度だったと思う。

南から北にまっすぐ島を縦断できる道と、島を一周するような道があった。

南側が砂浜に接していて、東側がちょっとした港。

北側と西側はほとんど岩場だった。

北側は比較的平らな場所が多くて、私たちの遊び場もほとんどそこだった。

西側は、島を一周する道も途中で途切れていたり、雑草が多かったりで、ちょっとした探検気分で行く以外は行くことはなかった。

キャンプ当日も、私たちは北側の平地にテントを張った。

バーベキューもそれなりに楽しく終わって、三人で川の字になって寝た。

貫一が肝試しをしようとか言ってたけど、光太郎も私も今さらめんどくさいと相手にしなかった。

次の日の朝、私たちはコーン、コーンという、釘を打つような音で目をさました。

何の音だろうと気にはなったけど、音源を捜そうとまでは思わなかった。

昼過ぎ、テントを片付けて島を出ようと島を縦断する道を歩いていくと、島を一周する道を西側から歩いてくる五人の団体と鉢合わせした。

彼らは2m近くある古びた板を二十枚以上運んでいて、全員作業服を着ていた。

彼らは軽く会釈をすると、そのまま島から出て行った。

ふと彼らが来た道に目を向けると、もう一人こちらに向かって歩いてくる人影があった。

あきらかに服装が違って、神主さんか何かだろうと思った。

その男の人は、まっすぐ私たちの前にやってきた。

「君たち、昨日からここにいたの?」

光太郎が答える

「はい、キャンプしてました」

「そっか、ううん、大丈夫だと思うけど、何かあったらここに連絡して」

そう言うと、神主さんは私たちに名刺を差し出した。

「何かある可能性があるんですか?

「いや、いまちょっと儀式をやって、こんな時期に島に人がいると思わなくってさ」

「この島で儀式なんかするんですか?」

「ああ、海開き前の安全祈願だよ」

私も気になったので聞いてみた。

「ご苦労様です。さっきの人たちもその関係の人ですか?」

「あの人たちは、町役場の人。設営の手伝いをしてもらっただけ」

私たちは、納得して神主さんが島から出て行くのを見送った。

貫一がすぐに、儀式をした場所を見に行きたいと言い出した。

私も、子供の頃よく遊んだ場所に、そんなところがあるのは驚きだった。

西側に向かって歩いていくと、彼らが歩いたであろう獣道が残っていて、比較的簡単にその場所は見つかった。

他の防空壕に比べると明らかに大きさの違う穴が海の方を向いて開いていた。

高さも横幅も2m以上あったと思う。

そして、その穴に真新しい木の板が穴を塞ぐように打ち付けてあった。

塞いである防空壕はいくつもあったが、こんな塞ぎ方をされているのは初めて見た。

私達が聞いた音は、これを打ち付ける音だったのだと思う。

「お、あれ、あそこから中見えそうじゃね?」

貫一が指差したところを見ると、穴の左上あたりに、板と穴に隙間があるのがわかった。

背が届く高さではなかったため、光太郎が貫一を肩車して中を覗こうと試みた。

「だめ、真っ暗。全く見えないわ。ってか、なんだこれ、板の奥にさらに布が目張りしてある」

そういって、貫一が板に少し体重をかけた時、バリバリッと音がして、一番上の板がはがれてしまった。

光太郎と貫一はバランスを崩して尻餅をついていた。

「ちょっと、大丈夫?怪我してない?」

「光太郎!おまえしっかり支えろよ……あぶねえ」

「いや、お前が上でバランス崩すのが悪いだろ……

とりあえず、光太郎も貫一も怪我はないようだった。

改めて穴を見てみると、剥がれた板の奥に真っ黒な布が張ってあるのがわかった。

「板の奥にさらに布って、普通じゃなくない?」

「なんつーか、元に戻して帰った方が良いと思う」

そう言って、二人は剥がれた板を元に戻し始めた。

ただ、長さが2m以上ある板を肩車の状態で固定するのはちょっと無理があって、どうしても板の反対側を抑える人が必要だった。

周りを見回すと、海にはいくつも岩が落ちていて、それらを積み上げれば簡単な踏み台は作れそうだった。

光太郎と貫一が数回往復して、50センチほどの踏み台を穴の右側に積み上げた。

身長の関係で光太郎が私を肩車して、貫一が板の反対側を抑えることになった。

貫一はぶーぶー言っていた。光太郎は重い、足が太いと言っていた。

私はとりあえず、光太郎の頭を数回叩いておいた。

 板を元の場所に戻そうと持ち上げた時、板の奥に張られた布が、少し剥がれていることに気づいた。

私は、光太郎と貫一にそのことを伝えて、先にそっちを直そうと言った。

元に戻そうと布を少し引っ張った時だった。西に傾きかけた太陽の光が私の背中に当たるのを感じた。

同時にほんの少しだが、布の隙間から穴の中が見えた。

そこにはおびただしい数の御札が張られていた。

縄に括り付けられた御札が穴の中を埋め尽くしていた。

そして、……私は見てしまったのだ。

御札の隙間に見えたもの、それは間違いなく顔だった。

まっしろい能面のような顔。

目は細くまっすぐ顔の端まで伸びていた。

真っ暗な中で、その顔だけが白く浮き上がって見えた。

黒目、白目の区別はつかなかったが、間違いなく目が合ったのを感じた。

すると、それは三日月形の口を大きく横に広げ、にやりと微笑んだ。

私は悲鳴をあげ、板を突き放すようにして光太郎と一緒に後ろに倒れた。

それからのことは、よく覚えていない。

気がつくと私は病室のベッドの上にいた。

光太郎と貫一が、私が頭を打ったのだと思い病院に運んでくれていた。

親も来ていて、事情は二人から聞いていた。

光太郎と貫一は、医者から特に問題がなさそうだという結果を聞いてから、もう一度同じ場所に戻って穴を塞ぎ直してきたそうだった。

目を覚ましてから、二人から何があったのか聞かれたが、見たもののことを自分でも信じたくなくて、御札があって怖くなったとだけ伝えた。

二人も塞ぎに言った時に、御札があったことは確認していた。

何となく、三人ともあの穴がなんなのか言及するのを避けていた。

私はその日のうちに家に帰ることができた。

親からはいい年して子供みたいなことを……と叱られた。

本当はその日のうちに東京に戻る予定だったのだが、頭を打った(ことになっている)から体調に問題がおきるといけないので、とりあえず自宅に一泊することになった。

私が見たものは何だったのだろうか。見間違いだったのだろうか。

気のせいだったと思いたかったが、昼間見た顔は私の記憶にはっきりと残っていた。

怖くて、その日は電気をつけたまま寝ることにした。

朝方四時過ぎ、私はふと目をさました。

電気が消えていた。

入り口のあたりに人が立っていた。

全身から汗が吹き出るのがわかった。

体は動く。金縛りではない。

恐怖のあまり、私は目をつぶった。

ひたすら時間が過ぎるのを待った。

何分経ったかわからない。私は意を決してもう一度目を開けた。

人影は消えていた。

私は急いで電気をつけて、部屋を見回した。

特に変わった様子はなかった。

恐る恐る入り口に近づいてみた。

何もないはず、安心を得るために確認したかった。

私はショックのあまりそこに座り込んでしまった。

人影があったあたりに小さな水溜りができていた。

それは、そこに何者かがいたことを示す確かな証拠だった。

私はしばらくボーっとしていた。

なんでこんなことになったんだろう……そんな感情だった。

「さみしかった……」

耳元で、そう囁く声が聞こえた。

女の声だった。自分の体がガタガタと震えるのがわかった。

声にならない声をあげながら、私は親の寝室に走った。

「人がいたの、人が出たの。怖い、怖い!」

多分、私はそんな感じで父にうったえたのだと思う。

父は血相を変えて私の部屋に行ってくれた。

母もすぐに目をさまして、私の手を握っていてくれた。

数分して父が戻ってきた。

「大丈夫か?部屋には誰もいなくなっていたぞ」

部屋もあらされてはいないみたいだったから、向こうも逃げたんじゃないか?

父は、泥棒か何かだと思っていたのだと思う。

「違うの、幽霊。女の幽霊」

「幽霊?……バカなことを言ってるんじゃない」

「ホントに出たの。声も聞こえたし。水溜りもできてた」

全く信じようとしない父を連れて、私はもう一度部屋に行った。

水溜りは残っていた。

「ほら、これ。ここにいたの」

「風呂上りに濡れたままだったんじゃないのか?」

正直、よくわからなくなっていた。

風呂上りの水滴ならそれでよかった。

聞こえた声も、気のせいだったことにしたかった。

「さわいでごめんなさい」

「まあ、なにもなくてよかった」

そう言うと、父は寝室へ戻っていった。

私は部屋で寝る気にはなれず、リビングのソファーで横になった。

次の日、私は光太郎に電話をした。

光太郎と貫一には特になにも起きなかったと言っていた。

東京に帰った私はバイトを終えて帰宅した。

多少迷いはあったけど、電気はつけて寝ることにした。

その日はなかなか寝付けなかった。

仕方なく、深夜のテレビショッピングを見ていた。

ちょっと眠気を感じ始めたときだった。

テレビのすぐ横に、女が立っていた。

あまりに突然すぎた。

女は微動だにせず、少し下を向いていた。

ショートカット、おかっぱに近い髪型。

服装はジーパンにTシャツ。

顔は、前髪に隠れてほとんど見えなかった。

私は女と対峙したまま身動きひとつとれずにいた。

テレビショッピングの妙に明るい会話が部屋に流れていた。

私が瞬きをした瞬間、女は消えていた。

女がいたところには、やはり水溜りができていた。

私は部屋を飛び出すと、光太郎に電話をして助けを求めた。

「光太郎?遅くにごめん。あのね、幽霊が出たの。ホントなの。信じられないと思うけど」

「マジで言ってるの?今から行くよ。東京のアパート?」

「うん、でも、近くのコンビニに行くからそこに来て」

光太郎は、私の家から車で三十分程度のところに住んでいた。

光太郎はすぐに来てくれた。起きたことを説明して、部屋を見てもらった。

水溜りは残っていた。ふき取ろうとも思ったけど、気持ち悪くて触れなかった。

「お祓い、だよな…」

「うん、そうする。どこに言えば良いんだろう」

「このまえ名刺をくれた神主さんは?」

「ああ、そうか。何か知ってるのかも」

私達は、近くのファミレスで朝が来るのを待った。

次の日の朝、光太郎が名刺にあった番号に電話をした。

「こんにちは…早坂さんのお宅でしょうか?この前、島で会った学生です。実はちょっと困ったことになりまして…」

話はすぐについたようだった。今からでも来なさいと言われたらしい。

まさか、二日でまた地元に帰ることになるとは思わなかった。

光太郎が車で名刺の住所まで送ってくれた。

午後二時過ぎ、早坂さんのお宅を訪ねるとあの時の男の人が迎えてくれた。

早坂さんは普通の服装で、見た感じは優しい顔で小太りのおじさんだった。

私は起きた事を正直に話した。洞窟の板をはがしてしまったことも伝えた。

「ああ、そしたらまずはそれが先だ。ちょっとここで待っててくれるかな」

そう言って、お茶を出すとすぐに家を出て行ってしまった。

光太郎と私は状況が把握できないままそこで待っていた。

一時間以上たって早坂さんが戻ってきた。

「うん、お待たせ。向こうはもう大丈夫だった。あとは君だね」

「すいません、あの洞窟はなんなんですか?」

「うん、それも合わせて説明するよ。聞いた方がスッキリするでしょ」

そう言うと、次のようなことを教えてくれた。

まず、私達の地元は東西を山に挟まれている。

そして、それらの山はそれぞれ強い神様によって守られている。

だから昔は、いろいろな霊とかそういったものは、霊的に弱い私達の住む町を通り道のように使っていた。

ところがある時、町に流れ込む川の増水を防ぐために治水工事を行って、さらに水の神様を祭る祠を川の上流に作ってしまった。

その結果、通り抜けられなくなった霊が町に溜まるようになった。

そこで作られたのが、あの島の洞窟。正しくは祠。

あそこで、霊の流れを切って町に入らないようにしたんだそうだ。

ただ、それで解決というわけにはいかなくて、今度は山を隔てた周りの町で病気とか悪いことが起きるようになった。

で、どうしたか。島の祠は封じて、川の上流の祠の場所を移動した。

霊の流れは元に戻したということ。

でも、封じたとはいえ島の祠は残ってしまった。

霊を退ける力は残っていて、逆にそれを抑えているという変な状態。

不安定な状態を作ったことで、その島のあたりによどみができるみたいに霊が溜まってしまうことがあるそうだった。

早坂さん曰く、西から流れてくる海流が島にぶつかって、西側に渦潮ができる様子を想像するとわかりやすいとのことだった。

そして、私はその滞留していた霊を拾ってしまったんだろうといわれた。

あの日、早坂さんは海開き前の安全祈願をしていたのだけれど、そのために一時的に祠を開いてストレスを逃がすようなことをしたんだそうだ。

私達が板をはがしてしまったこと自体は、それほど大きな問題ではないと言われた。

その時見えた白い顔についてはよくわからないとのことだった。

板は、直したとはいえきちんと封印されていないと困るので、確認に行って来たのだそうだ。

そして、本題。私に憑いている霊は祓えるのかということ。

「まずは、やってみましょう

「あの、お金はかかるんですか?」

「ああ、半分は私のせいですから良いですよ」

そう言うと、私は別室に通された。

板の間に神棚の豪華版のようなものがあった。

早坂さんが着替えてすぐに戻ってきた。

棒のさきに白い紙がついた例の道具を持っていた。

何かぶつぶつ言いつつ私の前でそれを振っていた。

しばらくすると早坂さんが、汗を滴らせながらこう言った。

「供養する方法を考えましょう……」

よく意味がわからなかった。

「祓うこともできるかもしれませんが、鎮める方が間違いないと思います。推測ですが、この女性は山陰地方から流れてきています。そこで、女性を供養する方法を考えましょう」

光太郎が聞いた。

「祓えなかったんですか?詳しい場所がわからずに供養ってどうするんですか?」

「霊が出るのは怖いと思います。ただ、命に関わるような感じはしません」

「それならば、時間をかけてでも安全な方法が良くないですか?お祓いは危険なんですか?」

「リスクはあると思います」

「わかりました。山陰のほうに行けば良いんですね」

「え?ホントに行くのかよ」

「だって、しょうがないじゃない」

とりあえず、解決の糸口が見つかっただけで安心できた。

何より、私にはほかにすがるものがなかった。

次の日、私は山陰地方に向かう電車に乗っていた。

早坂さんはついては来てくれなかった。

お願いしたかったが、さすがに無理があると思った。

いつでも連絡をください。とだけ言われた。

光太郎はついて来てくれた。心強かった。

その場所に着くと、全身に嫌な感覚が走った。

私はそこに座り込み、嘔吐していた。

すでに時間は夜の七時をまわっていたため、予約してあったホテルに入った。

フロントで、近くのお寺や神社について聞いてみると、大きなお寺なら……

と某寺を教えられた。

本当はここからが重要なんだと思うんだけど、実はよく覚えていない。

お寺や霊場の情報は光太郎が走り回って集めてくれたようだった。

私は精神的に限界で、ほとんど眠れず、ただ光太郎に案内されるところにふらふらと付いていく状態だった。

時々現れる女の影が私をさらに追い詰めていった。

何の手がかりもなかったけれど、何となくその場所に行けばわかるような気がしていた。

それは、この場所に着いたときに感じていた。

五日ほどその地域の仏閣を回って、たどりついたお寺。

そこに着いたときのことは覚えている。

ああ、ここだ。って思った。

それまでふらふら歩いていた私が、光太郎を追い抜いてお寺に入っていった。

「すいません、こんにちは」

住職が迎えてくれた。

「こんにちは、いらっしゃい」

「あの……」

「これは…… また……、ご苦労なされたでしょう」

「え、わかるんですか?」

すごい希望が心に湧いてくるのがわかった。

ああ、これで助かるんだ、と思った。

「まずは、ゆっくりお話をお聞きしましょう」

そう言われると、私達は中へと案内された。

小さな板の間に通されると冷たいお茶が出された。

私は、自分に起きたことを事細かに話した。

残念ながら、住職さんにはその女性についてわかることはなかった。

結局振り出しにもどったのか…と力が抜けるのがわかった。

また、住職さんは私の話に何となく違和感を感じている顔つきだった。

「昨年、いろいろなお宅から預かっていたものを供養して燃やしました。それが関係しているのかもしれませんが、なんだか……」

「そこに案内してください。お願いします」

私達は境内の空き地に案内された。

なにもなかった。ただの空き地だった。

「ここで燃やしたんです」

「燃やしたものはどうしたんですか?」

「灰はそのまま埋めました」

「掘り起こしてもよいですか?」

「……かまわないですよ」

ここで、私が取った行動。

人って追い詰められると正しい判断ができなくなるらしい。

私は、手でガリガリと地面を掘った。

狂ったように掘っていたそうだ。

すぐに光太郎に止められて、住職さんがスコップを持ってきてくれた。

爪が割れて、血が出ていたけどどうでも良かった。

そして、埋められた灰の中からいくつかの木片が出てきた。

布切れもあった。

よくわからないけど、これだって思った。

正直、体力的にも精神的にも限界だったんだと思う。

特に、最後に救われたと思ったのに結局わからなかったのが致命的だった。

もう、これでもこれじゃなくても良いやと思っていた。

もし違ったらリスクがあっても祓ってもらおうと思った。

そして、私達は木片や布切れをもらって帰路についた。

帰り際、住職さんが、もし何かあったらまたいらっしゃい。と言っていた。

帰りの電車では、久しぶりに眠りにつくことができた。

次の日、私達は早坂さんの家を訪ねた。

「これが関係あると思うんです」

そういって、木片を早坂さんに見せた。

早坂さんはまじまじとそれを見つめると、一言、「おつかれさま」と言った。

私はまた、別室に通された。

早坂さんは、火を焚きながら私に向かい合うように座った。

今度は、紙のひらひらがついた道具は持っていなかった。

木片を木の台に載せると、ぶつぶつと何か念じていた。

私はただただ、その儀式を見つめていた。

「バカじゃないの?」

小さな声だったが、そう聞こえた。

私はお腹のあたりが苦しくなるのを感じて早坂さんを見つめた。

相変わらず、早坂さんは下を向いて何かを念じている様子だった。 

… … … ……

早坂さんの声が止まって、長い静寂があった。

 「ねぇ……」

 明らかにトーンの違う声で早坂さんが私に声をかけた。

 そして、早坂さんは私の方を見ると歯を見せて微笑んだ。

 「バカじゃないのバカじゃないのバカじゃないのバカじゃないのバカじゃないのバカじゃないの?バカじゃないのバカじゃないのバカじゃないの?バカじゃないのバカじゃないのバカじゃないの?バカじゃないのバカじゃないのバカじゃないの?バカじゃないのバカじゃないのバカじゃないの?バカじゃないのバカじゃないのバカじゃないの?バカじゃないのバカじゃないのバカじゃないの?」

早坂さんの顔がみるみる崩れて、あの能面のような顔になっていた。

あと私はただ、涙を流して座っていた。

 小躍りしながら能面は部屋から出て行った。

 その時、部屋の隅にあの女が立っていることに気づいた。

 「もう、なんなのよ!いいかげんにしてよ!お願いだから!」

 私は女に向かって叫んでいた。

 異変に気づいた光太郎が部屋に入ってきた。

 「光太郎、あそこ、見えるでしょ、あそこ!」

 私は女のいる方に目線を向けて光太郎に女の場所を伝えた。

「え、あ、うわ、ええ、あ、え??」

明らかに錯乱していた。光太郎にも女は見えているようだった。

「早坂さんは、早坂さん、早坂さんは?」

私は答えずに光太郎の手をとって部屋から逃げ出した。

女は部屋の隅で立ったまま微動だにしていなかった。

私達は車に乗るとすぐにそこを離れて、遠くのファミレスに入った。

私はしばらく泣いていた。

光太郎は貫一に電話をしていた。

数時間後、貫一がファミレスにやってきた。

すこし落ち着いた私は二人に早坂さんが豹変したことと、洞窟で見た能面のことを話した。

光太郎は女を見てしまっただけに、顔色が真っ青だった。

貫一は言った。

「まずその早坂さんにもう一度会ってくる」

「は?絶対やめたほうが良いって。危ないし」

「大丈夫、二人はここで待ってて」

そう言うと貫一は地元にいる仲間数人に電話をしていた。

「じゃあ行って来るね」

そう言って貫一はファミレスから出て行った。

私達は貫一からの連絡を待った。

しばらくして貫一から連絡があった。

 言われた場所に来たけれど、それらしい家がないとのこと。

 そんなはずはないと光太郎が伝えるが、どうしても見つからないといわれた。

 私達も意を決してそこに向かった。

 「ここらへんで合ってるだろ?」

 「うん、このあたり」

 「あれ…… なんで?ない」

 「うそでしょ、だってここにあったよ。住所も合ってる」

 早坂さんがいたはずの家は空き家になっていた。

 見た目も明らかに違っていて、もう数年は人が住んでいないように見えた。

 貫一は五人も仲間を集めていて、その人たちが近所の家で聞き込みをしてくれていた。

 「貫一、近くの人に聞いてみたけどそんな家ないって」

 「そっか、正明、ありがとう。今日は解散で。ごめんな」

 「おれたちも少し調べてみるわ」

 そう言って、正明たちは、それぞれの車に乗って帰っていった。

もう何がなんだかわからなかった。

どうしてよいかわからず、頼るものもなくなって私はそこに座り込んでしまった。

 「もうヤダ」

 ただ、駄々をこねる子供のように私はそこで泣いていた。

 光太郎と貫一はしばらく私を励ましたりしたあと、二人で話をしていた。

 「今からもう一度山陰に行こう」

 実は、私もそうしたいと思っていた。

 ただ、一人で行動するのは嫌で、でもそんな遠くまでまた光太郎を連れて行くのもダメな気がして言えずにいた。

 うれしかった。

そこから光太郎と貫一は交代で運転して、丸一日かけてあの場所まで私を連れて行ってくれた。

向かった先はお寺。

お昼過ぎにお寺に着くと、住職さんは待っていたように家の前にいた。

 「こんにちは」

 「あの、やっぱりだめで……」

 「落ち着いて、ゆっくり話を聞きますよ」

 やさしい目をしていた。

 「そちらの方もですね」

 住職さんは貫一に向かってそう言った。

 貫一はハっとした顔をして、静かにうなずいた。

 まず驚いたのは貫一も憑かれていたこと。

 貫一は私と光太郎が苦労しているのを知って、自分のことは自分で解決しようとしたらしい。

住職さんは、私に憑いている女はこの地と関係があるかわからないと言っていた。

ただ、あなたがそう感じるならそうなのかもしれないとも言っていた。

そして、すぐに祓いましょうと言って念仏を唱えてくれた。

なんとなくだが、体が軽くなった気がした。

元々それほど強い念があるわけではないからこれで大丈夫だと言われた。

うれしくて私はそこで泣き崩れた。

 問題は貫一の方で、ちょっとやっかいらしかった。

 結局貫一はそのお寺で数ヶ月過ごすことになる

ちなみに、二人とも有料だった(苦笑)。

最後に私が見た能面について。

住職さんにも良くわからないが、憑いているわけではない。

もしかすると妖怪とか、その地の神様の類ではないかと言っていた。

住職さん曰く、その能面が神主の姿の時に語っていた話(霊の通り道とか)は

信憑性がある気がするとのこと。

どんな理由にせよ、その能面はその地域にずっと昔からいるのではないか。

祠で祭られた何かの変化した姿なのか、上流の水神様に関連した何かなのか、わからないけれど、間違いないのは関わらない方が良いということ。

もしかすると、その地域のお年寄りで知ってる人がいるかもしれないとも言ってた。

数日後、私と光太郎は貫一を残して東京に戻った。

その後私の周りで霊的なことは起こっていない。

光太郎と貫一とは今でも仲のいい友達でいる。

貫一はお寺から帰ってくるとき、そこで作った彼女を連れて帰ってきた。

結局貫一は数年後その人と結婚して今は2児の父だ。

光太郎の女関係はよくわからない。とりあえず独身。

私も独身(苦笑)でも、健康で問題なく生活できていることに感謝している。

実は、いくつか後になってわかったこととか

貫一が体験したこととかもあるんだけれど、それは又の機会に。

起きたことについては実体験ほとんどそのままです。

私が受け入れられなかったことだけ事実と変えました。

 

○後日談

ここからは貫一談

夜ベッドに腰掛けていたら、足にひんやりした感覚があって気づいたら濡れていたことがあった。

夜洗面所で手を洗っていたら、鏡に子供がうつった気がして驚いて後ろを振り返ったが誰もいなかった。

子供の笑い声が聞こえて辺りを探しても誰もいないことが何度かあった。

男の子の顔が崩れて自分にまとわりついてくるような夢を見た。

お寺にお祓いに行ったけど変化がなかった。

気にしたら負けだと思って、気づかない振りでごまかして数日たつうちに、光太郎から電話が来て私達に合流することになったそうだ。

 

ここからは住職さん談

貫一に憑いていたのは小さな男の子の霊だったらしい。

私に憑いていた女よりも古くて強い霊で、簡単には祓えそうもない。

しばらくお寺で生活して貫一と霊とのつながりが薄れるのを待つしかないと言っていた。

結果的に貫一はその寺にとどまることになり、今も年に一回通っている。

神主、能面、女の霊、男の子の霊のつながりは私にもよくわからないんだ。

あったことをそのまま書いたから、小説なら水滴があったこととかも後々の布石になるだろうけど、そんな気の利いたことはなかった。

ただ、あの後、正明(貫一の仲間)がいろいろ調べてわかったことを付け加えて、最後に私なりの解釈を書いておくことにする。

 

正明たちから聞いてわかったこと

私達がキャンプをした次の日の朝、町の職員は確かに洞窟の板の張替えをしたらしい。

ただ、その場に神主は呼んでいないとのこと。

町の職員が板を張り替えるのは数年に一度で、洞窟は中に不法投棄されたガラス片などが落ちているため危険だからだそうだ。

御札が貼ってあるかどうかは把握してないらしい。

私と光太郎が訪問した神主宅はやはり存在してなくて、そこは数年前から空き家だった。

川の上流には確かに治水工事の安全を祈願した祠があった。

島にあった洞窟は治水工事以前からずっとあるものらしい。

昔から漁の安全を祈願する場所として使われていたらしいが、戦後にはすでにふさがれていたそうだ。

お年寄りの中には洞窟の存在を知っている人はいたが、何であるのか、何で塞がれているのか知っている人はいなかった。

名刺はお寺で焼いてもらった。

電話番号がつながるかとか気になったけど、それよりも

もうこれ以上関わりたくないという気持ちが強かった覚えがある。

 

最後に私なりの解釈

住職さんの言っていたことも含めてだけど、元々早坂さんは存在していなくて、能面のような姿の霊的な何かが神主の姿で私達の前に現れたのだと思う。 

バカじゃないの?と言われたとき私が感じたのは“強烈な悪意”で、意味もないのにがんばって無駄だったね(笑)て感じだった。

私のことを精神的に追い詰めて楽しんでいたのか、もしかしたらそれで私が死ぬことを望んでいたようにも感じる。

タイミング良く(?)私と貫一に霊が憑いた理由はわからないけれど、もしかすると能面に支配されるような状態の霊が多数いて、その中から女と子供を擦り付けられたような感じなのかもしれない。

住職さんも、私と女の霊との繋がりは憑かれるというにはあまりに弱いものだと言っていた。

能面は島に祭られていた何かの変化した姿だと私は思っている。

後から考えると、霊道の話をしていた時に島の祠を封じたことを不満げに話したような気もする。

あそこまで手のこんだしかけをしてまで、私達にいたずらをした理由はわからない。

世の中には触れちゃいけないものがあるし、交通事故にあうように、突然向こうからやってくることもある。

そういうことだと思う。

 

○感想

霊障とかいうやつですよね。交通事故のようにやって来る。

不気味な能面の正体も分からずじまい。

正統派怖い話の要素を含んだ不思議な話でした。

【2ch怖い話名作選】怪しいバイト (感想付き)

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俺が今までで唯一体験した話を。

 

3月の春休み中のことなんだが、友達が怪しいバイトの依頼を受けてきた。

バイトの内容というのがかなり妙な内容で、関西にある某政令指定都市で空き家になっている家の片付けをやって欲しいというもので、2泊3日で交通費以外に1人3万円も出すという。

目的の家は電気も水道もガスも通っており、2人分の布団もあるから宿泊にも何の問題も無いとか。

 

これだけでもかなり怪しいのだが、友人がバイトを受けた状況というのが

「パチンコにいったら常連のおっさんから頼まれた」

という更に怪しい内容だった。

友達は美味しいバイトだとノリノリで俺を誘ってきたのだが、どう考えても怪しすぎる。当初断ろうと思っていたのだが、実質2日で1人3万円はおいし過ぎるうえに、丁度PCのグラボとHDを新調したかったので受ける事にした。

 

当日、新幹線のチケットや片付けの手順や現地までの道のりのメモをおっさんから貰い、俺達は某政令指定都市に出発した。

現地に着くと家はかなり広かった、敷地は300坪近くあっただろうか。

しかし庭は枯れ草で埋め尽くされ、池は濁っていて生き物の気配すらない。

明らかに10年以上は人が住んでいない、外見は立派だが廃墟のような雰囲気の家だった。

 

その日はまず2階から片付ける事にして、夜の8時頃までゴミの分別や家具を1階に下ろす作業をし、力仕事が多く大変ではあったが、特に何事もなく終った。

近場のファミレスで飯を食い、家に戻ってくると何かがおかしい。

上手く説明できないのだが、玄関を入った瞬間に全身の毛が総毛立つとでも言えば良いのか、なんともいえない悪寒に襲われた。原因は全く解らない。

友人も同じだったらしく、隣を見ると気持ち青い顔をしているよに見える。

しかし特に何かがあるわけでは無く、お互いその不安を全く口に出せず、 そのまま風呂に入って寝る事にした。

 

寝てから2時間ほど経った頃だろうか、俺は友人に体をゆすられて起された。

「…なんだよ」と文句を言おうとしたが、その時起した理由が何なのかすぐに解った。

 

俺達は1階の玄関に近い場所にある居間で寝ていたのだが、丁度対角線上にあたる一番奥の部屋辺りから、人の話し声が聞こえてくる。

俺達はここに誰か来るなんて話は一切聞いていない。

 

かなり怖かったし、何かトラブルに巻き込まれるんじゃないかという不安はあったが、そのままにしておくような事も出来ないので、話し声のするほうを確認しに行く事にした。

 

(その時本当は廊下の電気をつけるべきだったのだが、俺も友人も気が動転していて全くその事を思いつかなかった)

 

暗がりの中を部屋の近くまで行き、俺が「誰かいるんですか~?」と何度か声をかけたのだが、相変わらず部屋からはボソボソと何を言っているのか聞き取れない複数の話し声が聞こえてくるだけで、俺の声には全く反応しない。

 

そこで少し大きな声で呼びかけようとしたところ、友人が俺の口をふさぐと玄関の方へ引っ張って行こうとした。

俺は「なんだよ」と言おうとしたが、あまりにも友人が必死な形相なため、素直に玄関の方まで歩いていった。

 

そこであらためて友人に「何だよ」と聞くと、友人は震えた声で

「あの部屋…ドアに外側から板で目張りされてたぞ…どうやって中に人が入るんだよ…」

俺は近眼なうえに暗かったため気付かなかったが、友人が言うにはどう考えても人が出入りできるような状況ではない形で板がドアに打ち付けられていたらしい。

友人はかなり怯えていて、それは俺も同じだったのだが、不安を隠すように友人にこう言った「きっと外側に入り口が別にあるんだよ、とりあえず確認しに行こうぜ」と。

 

玄関を出て家の裏側に行く事にし、草をかき分けてその部屋のあるであろう場所まで行ったとき、俺の「別の入り口がある」という希望的観測は無意味だった事に気がついた。

 

部屋には窓があったのだが、その窓にも外から板が打ち付けられており、他に出入り口らしきものもなく、どう考えても人が出入りできる状況にはなかった。

しかし外からでもボソボソとその部屋から話し声がするのは解る。

 

俺は何がなんだか解らず、頭の中で合理的な解釈をいくつも考えたのだが、どれも当てはまらない、どうしたらいいか解らず、暫らく2人で顔を見合わせていたのだが

このままでは埒があかないため、止せば良いのに板の隙間から懐中電灯を照らして中がどうなっているのか見てみる事にした。

 

2人で懐中電灯を照らしつつ中を覗いてみると、そこは普通の和室で、隙間から見ているだけなのではっきりとは解らないが、どうやら真ん中にテーブルが置いてあるようだ。

中に人がいるような気配は全く無い。

 

何がなんだか解らない。

声はいつの間にか聞こえなくなっていたが、さっきまで明らかに複数の人の話し声が中から聞こえていた。

もう一度2人で懐中電灯を照らしながら中を覗き込むとある事に気がついた。

テーブルの上に20cmくらいの箱が置いてある。

 

箱を照らして見て俺達はゾッとした。

その箱は自転車につかうチェーンロックらしきものや鎖のようなもので何重にも巻かれていて、更に何個か南京錠まで付いていた。

俺と友人は「なんだよあれ、気持ちわりーな…」と窓から少しはなれて話していると、突然

 

バン!

 

と内側から窓に何かがぶつかる音がした。

びっくりして2人で窓の方を見たとき、俺達は叫び声をあげてその場から逃げ出した。

何が起きたかというと、板が打ち付けられた窓の隙間から、4~5人の「眼」が俺達を板の隙間から見つめていた。

性別や年齢は解らない、とにかく隙間から「眼」がいくつもこちらを見ていた。

それだけしか解らない。

 

家から200mか300mくらい離れた街灯のところまで走り、俺達が息を切らしてへたり込んでいると、叫び声を聞いたのか近所の人らしいお爺さんが「こんな夜中になにをやってる!」と俺達に話しかけてきた。

 

俺達は恐怖と息切れと動揺で「窓に眼が…」とか「話し声が」とか「バイトで掃除に来て」とか支離滅裂な事を言っていたように思えるが、お爺さんはそれで何かを察したのか、急に口調が柔らかくなり「とにかく家に来なさい、そこでゆっくり話を聞くから」と素性も知らない俺達を家にあげてくれた。

 

おじいさんの家に着くとおじいさんの奥さんらしいお婆さんもおきてきて、俺達にお茶を出してくれた。

それで俺も友人もある程度落ち着き、バイトの依頼を受けて泊り込みであの家の片付けに来た事、夜中に変な声を聞いて調べに行った事、厳重に板張りされた部屋を覗き込んだら沢山の眼に見つめられた事などを話すと、お爺さんは

「あの家は何十年も前に土地の権利関係で色々あったからな…お金は諦めてお前達はバイトを断りなさい、今日は泊めてあげるから明日家に帰りなさい」

と言って来た。

 

お爺さんはあの家の事について何か知っているようだったが、それ以上は話してくれなかった。

俺達は申し訳ないと思いながらも、その日はそのおじいさんの家に泊めてもらった。

 

翌朝、朝飯までごちそうして貰った俺達は、お爺さんとお婆さんにひとしきりお礼を言って帰宅する事にした。

 

最寄駅までの道中、俺がバイトを依頼してきたおっさんに電話して、金は要らないし交通費も返すからバイトは無かった事にしてくれと言うと、おっさんはしきりに事情を聞いてきた。

隠す理由もないため昨夜あった話をすると、おっさんは独り言のように

「まだ出るのか…」

というと、「交通費はいい、でもバイト代は1日分も出せないからな」「家の鍵は玄関マットの下に入れておいてくれ」というと早々に電話を切ってしまった。

口には出していなかったが、おっさんはかなり怯えていたのがわかった。

 

帰り際、俺と友人は「あの家で何があったのか」それだけは気になった。

そこで携帯で図書館の場所を調べ、当時の新聞記事などを探してみたのだが、それらしき事件などはみつからなかった。

そこでふと思いつきで、今度は少し離れたところにある法務局へ行ってみた。

 

法務局であの家の土地の登記簿を調べてみると、そこには「1966年時効収得」と書かれていた。

それで俺はあの場所で何があったのか、ある程度解った気がした。

 

○感想

「法務局であの家の土地の登記簿を調べてみると、そこには「1966年時効収得」と書かれていた。

それで俺はあの場所で何があったのか、ある程度解った気がした。」

 

……最後の二文が恐ろしいです。

何となく仄めかされた曰く付き物件の事実……

丁寧に作られた恐ろしく、それでいて不気味な話でした。

【2ch怖い話名作選】山祭り (感想付き)

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久しぶりに休みが取れた。たった二日だけど、携帯で探される事もたぶんないだろう。

ボーナスも出た事だし、母に何か旨いものでも食わせてやろう。

 

そう思って、京都・貴船の旅館へ電話を掛けてみた。

 

川床(かわどこ)のシーズン中だが、平日だったから宿が取れた。

 

母に連絡を取ると大喜びで、鞍馬も歩いてみたいと言う。俺に異存はなかった。

 

京阪出町柳から叡山電鉄鞍馬駅まで約三十分。

 

その間に景色は、碁盤の目のような街中から里山を過ぎ、一気に山の中へと変化する。

 

また、鞍馬から山越えで貴船へ抜けるコースは、履き慣れた靴があれば、ファミリーでも二時間前後で歩く事が出来るし、日帰りなら逆に、貴船から鞍馬へ抜け、鞍馬温泉を使って帰る手もある。

 

その日もさわやかな好天だった。

荷物を持って歩くのも面倒なので、宿に頼んで預かってもらい、それから鞍馬山へ行った。

 

堂々たる山門を潜った瞬間、いきなり強い風が吹き、俺を目指して枯葉がザバザバ降って来る。

 

落葉の季節ではないのだが、母とくれば必ずこういう目に遭う。

 

天狗の散華(さんげ)だ、と母は言う。

 

迷惑な事だ。

 

途中からロープウェイもあるが、母は歩く方を好むので、ところどころ急な坂のある参道を歩いて本殿を目指す。

 

由岐神社を過ぎると、先々の大木の中程の高さの枝が、微妙にたわむ。毎度の事だが。

 

鞍馬寺金堂でお参りした後、奥の院へ向かって木の根道を歩く。

 

魔王殿の前で、一人の小柄で上品な感じの老人が、良い声で謡っていた。

 

“……花咲かば、告げんと言ひし山里の、使ひは来たり馬に鞍。鞍馬の山のうず桜……”

 

言霊が周囲の木立に広がって行くようで、思わず足を止め聞き惚れた。

 

最後の一声が余韻を残して空に消えた時、同じように立ち止まっていた人たちの間から、溜め息と拍手が湧き起こる。

 

老人はにっこり笑って、大杉権現の方へ立ち去った。

鞍馬山を下り、貴船川に沿って歩く。真夏の昼日中だと言うのに、空気がひんやりして気持ちがいい。

 

流れの上には幾つもの川床。週末は人で溢れているのだろうが、今日はそうでもない。

 

少し離れると、清冽な流れの中、カワガラスが小魚を追って水を潜り、アオサギがじっと獲物を待つ。

 

もう備えの出来たススキが揺れる上を、トンボたちが飛び回る。

 

貴船神社へお参りに行く人は多いが、奥宮へ参る人は少ない。

 

その静けさを楽しみながら、奥宮の船形石の横の小さな社に手を合わせる。

 

弟たちも連れて来てやれればよかったが、何分にも平日の急な事。

 

学生時分ならともかく、社会人がそうそう手前勝手な事をする訳にはいかない。

 

母とそんな話をしながら振り返ると、さっき魔王殿の前で謡っていた老人が、こっちへ歩いて来るところだった。

 

軽く会釈すると、向こうもにこっと笑って片手を挙げる。

「先程は、良いものを聞かせて頂いて、ありがとうございました」

 

「いやいや、お恥ずかしい」

 

老人は首を横に振り、俺と母を見やりながら、

 

「親子旅ですか、よろしいなぁ。ええ日にここへ来はった。今日は“山祭り”や」

 

「まあ、お祭りがあるんですか」

 

祭りと聞いて、母の気持ちが弾むのがわかる。

 

老人が教えてくれる。

 

「今晩、川床の灯りが消えた時分から、この先の方でありますねん。

 

“山祭り”は時が合わなんだら成りませんし、ほんまの夜祭りやから、知らん人の方が多いんや。

 

もし、行かはるんやったら、浴衣着て行きはった方がよろし。その方が、踊りの中へも入りやすいよって」

 

母は既に行きたくてワクワクしている。

 

一時、『盆踊り命』だった人だから。

 

ま、いいか。

 

俺は盆踊りは嫌いだが、仕方ない。付き合うか。

川筋の道沿いに、黄桃のような丸い灯りが、ぽつりぽつりと点いている。

 

俺たちの他に歩いている人はほとんどない。

 

奥宮へ近づくにつれ、笛の音がどこからともなく風に乗って流れて来た。

 

山祭りはどうやら、思っていた盆踊りのようなものとは全然違うものらしい。

 

貴船橋の袂をくっと左へ折れ、山の中へ入る細い道をたどると、笛の音はますますはっきり聞こえる。

 

曲目はわからないが、ゆったりとしたメロディを、複数本の笛で吹いているようだ。

 

やがて、木立の間からたくさんの白い提灯と、その灯りが見えて来た。

 

そこは体育館程度の広さの空き地になっていて、笛の音に合わせて数十人の人たちが踊っていた。

 

衣装は、白地に紺色の流水模様の浴衣。女は紅の帯、男は黒字に金の鱗模様の帯。

 

踊るというより、舞うと言った方がいいような優美な動きで、普通の踊りの時のような賑わしさや、テンポあるいはノリは全く感じられない。

 

俺たちより先に来てこれを眺めていた隣の人がいきなり駆け出し、踊りの輪の中へ入って中の人と手を取り合った。

 

知り合いがいたらしい。

 

前の方からあの老人が、笑みを浮かべながら静かに俺たち親子に近づいて来た。

「ああ、来はりましたんやな」

 

「こんばんは。不思議なお祭りですね」

 

老人は不思議な言葉を口にした。

 

「あの中に、逢いたい人がいたはりますやろ」

 

逢いたい人?訳がわからずぽかんとする俺。

 

母が突然駆け出した。

 

「母さん!?」

 

伸ばした手の先によく知ってる人がいた。

 

実家にいる頃いつも見ていた人。写真立ての中で笑っている、俺と面差しのよく似た青年。

 

俺が二歳の時亡くなった父だ。

 

まっしぐらに父に向かって進む母を、踊り手たちは空気のようにするりとかわし、何事もなかったかのように踊り続ける。

 

一足ごとに母の時間が逆戻りする。

わずか三年余りの妻としての日々と、その何倍もの母としての時間。

 

今、父の手を取りながら、母は堰を切ったようにしゃべり続け、父は黙って微笑みながら、時折相槌を打っている。

 

二人の間に涙はない。

 

何を話しているか俺には聞こえないが、きっと言葉で時間を溶かしているのだろう。

 

時を越え、両親は恋人同士に戻っている。

 

初めて見る両親の姿。ああ、父はあんな風に笑う人だったのか。

 

母はあんな風にはにかむ人だったのか。

 

これだけの歳月を隔てまだ惹かれ合う二人に、思わず胸が熱くなる。

 

父に誘われ、母が踊りに加わる。

 

なかなか上手い。本当に楽しそうに踊っている。

 

俺の頭の中で太棹が鳴り、太夫の声が響く。

 

“……おのが妻恋、やさしやすしや。

あちへ飛びつれ、こちへ飛びつれ、あちやこち風、ひたひたひた。

羽と羽とを合わせの袖の、染めた模様を花かとて……”

 

両親の番舞をぼーっと眺めていたら、ふと俺の事を思い出したらしい母が、父の手を引いてこっちへやって来た。

 

ほぼ初対面の人に等しい父親に、どう挨拶すべきか。

 

戸惑って言葉の出ない俺を、おっとりとした弟と雰囲気の良く似た父は、物も言わずに抱きしめた。

俺よりずいぶんほっそりしているけれど、強く、温かい身体。

 

父親って、こんなにしっかりした存在感があるのか。

 

「大きくなった……」

 

万感の思いのこもった父の言葉。

 

気持ちが胸で詰まって言葉にならない。

 

ようやく絞り出せた言葉は、

 

「父さん……」

 

「うん」

 

優しい返事が返って来た。

 

もう限界だった。俺は子供のように声を放って泣いた。

 

母の事を笑えない。気が付けば俺は夢中で父に、友人の事、仕事の事を一生懸命話していた。

 

今までは、そんな事は自分の事だから、他人に話してもわかるまいと思い込み、学校での出来事さえ、必要な事以外は母に話さなかったのに。

 

父の静かな返事や一言が嬉しかった。

 

子供が親に日々の出来事を全部話したがる気持ちが、初めてわかったような気がする。

 

俺の話が一段付いた時、父は少し寂しそうな顔をした。

 

「ごめん。もっと一緒にいたいけど、そろそろ時間みたいなんだ」

 

時は歩みを止めてくれなかった。

でも、嫌だと駄々をこねたところで詮無い事。大事な人に心配をかけるだけ。

 

ああ、わかっている。笑って見送ろう。

 

「口惜しいよ、おまえたちの力になってやれなくて……」

 

「大丈夫、任せろよ。俺がいる」

 

長男だもの。俺は親指を立て、父に向かって偉そうに大見得を切った。

 

安心したように頷く父に、母がとても優しい眼差しを向け、父が最上級の笑顔を返す。

 

「……じゃあ、そろそろ行くよ」

 

父は踊りの輪の方を向いた。

 

「父さん」

 

呼びかけずにはいられなかった。

 

父が振り返る。

 

「俺、二人の子供で良かった」

 

本当にそう思った。

 

父は嬉しそうに笑い、そのまま煙のようにすうっと姿を消した。

 

母はしばらく無言で父が姿を消した辺りを見つめていたが、やがて諦めたように首を振り、「帰りましょう」と俺を促した。

 

翌朝、まだ眠っている母を部屋に置いて、奥貴船橋の袂まで行って見た。

 

昨夜の、橋の袂をくっと左へ折れ山の中へ入る細い道は、やっぱりなかった。

 

あの老人が言っていた“山祭り”は、時が合わねば成らないのだと。

 

それは、俺たち親子が見た幻だったかもしれない。

 

でも、逢いたい人に会え、伝えたい事を伝えられた。

 

幸せな旅だった。

 

○感想

心温まる感動的な話でした。

何故怖い話分類なのかよく分かりませんが、非現実的、あるいは幻想的だという点では、確かに近いところにあるお話かもしれないですね。

【2ch怖い話名作選】廃動物病院の四本足 (感想付き)

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どこに書けばいいのか分かりませんのでここで吐き出させて下さい。

 

付き合いのない知り合いの呼びかけで飲み会があり、暇なので参加したんです。

行ってみると5人。顔なじみは主催者くらいで来なきゃ良かったと早々に思いました。

 

すると話がおかしくて飲み会がメインじゃない、腹ごしらえして移動するみたいな事を言い出したんです。

肝試しでした……。

 

肝試しは事情もあって大嫌いでしたが言い出せる雰囲気じゃない。

顔なじみがいないのも納得、2chのオフ会のようでした。

 

4人という数字が怖かったみたいです。それで片っ端から知り合いに連絡して引っかかったのが自分だったのです。

自分以外は行先も知ってるわけですし、スキで集まったわけですから異様にテンションが高い。

 

カメラ見せ合っては意味の分からない爆笑。どこそこの場所で幽霊見たとかいっては爆笑ネットで見た怖い動画の話題で爆笑。

笑いどころが分からない。帰りたい 帰りたい 帰りたい 頭の中はそれだけでした。

 

「じゃ 行こうか」そう告げると主催者が立ち上がりました。

すると爆笑してた連中も神妙な顔にここで気づきました。無理して笑ってたんだ。

 

場所は廃病院でした。病院といっても動物病院でした。

なんでもペットショップと動物園と提携してて、餌としての処理など珍しくもない事をやってたのをツイッターなどで拡散されたとか町BBSで広まったとかで一気に廃れ、廃業に追いやられたとかです。

 

それで酷いのが経営者が逃げたかで従業員も急きょ居なくなり残された。

しばらくして異臭騒ぎになり行政が入ったところ、地下の牢屋のような狭い個所に餓死した動物が沢山いたそうです。どうやら生餌候補だったらしく引き取り手がないため発覚が遅れたとか。

 

街とはいってもそこは狭い田舎。噂はなかなか消えず買い手もないまま建物自体は放置状態になっているとか。

しばらくすると夜になると死んだ動物の鳴き声が聞こえるとか、中には死んだ動物が徘徊するとか噂が流れるようになり体験者が急増してるため、非常にホットな肝試しポイントなんだとか。

 

 

 

そんな話を車中で聞いていると車は人里離れ、噂の廃病院に到着しました。

 

もう、何が怖いって単純に暗いから怖い。真っ暗です。車の明かりだけが真っ暗な森の中、廃病院を照らしています。

看板も照らし出されてましたが石か何かを投げられたのか割れていました。

 

正面にガラスが割れた窓がいくつかありましたが車の照明が当たっても真っ暗でした。

それが暗い眼窩のようで私はブルブル震えてました。あと真っ暗だから足元が危ない。

 

車に残るという発想はありませんでした。1人になるのはもう無理でした。それに怖がっているのは自分だけではないです。

経験したことが無いような暗闇の恐怖に全員が変な汗をかいているのが匂いで分かります。

 

ベテラン?の1人が言いました。

「窓割られているのでガラスなどの怪我に注意。古くないから床は抜けないだろうけど器物が転がっているかもだからこけないでね」

 

懐中電灯は1個しか無かったので主催者の友人が先頭で持ち固まって移動する事にしました。

生え始めている雑草を抜けて廃墟の中へ。

 

事件を知っているせいかもしれません。血生臭い匂いが鼻を突きました。ですがこれは動物病院特有の動物の匂いだったかもしれません。

恐怖もあって嘔吐しそうになりましたが我慢してソロソロと進みました。

 

受付がありました。中を照らすと荒らされた内部が見えました。

主催者が「ここ入るのは無理かなー」とつぶやいた時、足元を何かが走り抜けました。「うわぁああ!」全員が絶叫しました。

 

野生動物、、タヌキか何かが入り込んでいたのかもしれない。

誰かが暗闇の中で呟きました。ですが誰もがある事を思っていたと思います。

 

何を思っていたのか引き返す事をせず奥へ進みました。一応目的地は地下の倉庫だったからです。

 

廊下を進むと何か気のせいなんかじゃなく動物の息遣いのようなものが、私たちの荒い呼吸の中に混じって聞こえるようでした。

気のせいだ…、気のせいだ……、と思いながら私は男にも関わらず、恥ずかしながら懐中電灯を持った友人の服をつかんでいました。はぐれるのが本当に恐ろしかったのです。

 

やがて地下へ向かう階段に辿り着きました。その階段は闇の中へ落ちていくように見えました。

その時、突然足元を駆け抜ける何かがありました。これは本当に危なかったです。

 

階段を転げ落ちそうになり悲鳴が上がりました。危ないので全員がしゃがみこみました。

 

「なんだよ!今の!!!」

「犬じゃねーか?」「ゾンビ犬?」

「なわけねーだろ!!」

 

しばらく怒号が続きました。

ついに私は最初から気づいていた事を呟きました。

 

「犬にしてはでかすぎる……」

 

あらい息遣いだけが聞こえてきます。眩しいライトが逆に暗闇を濃くしていました。

 

「どうする?」

すると友人が呟きました。

「ここで引き返したら二度とスレなんか立てれない」

 

私はまったく意味が分かりませんでした。それなのに他のメンバーは妙に納得してました。

 

階段を降りる事になりました。考え方を変えればさっさと降りればさっさと帰れるという事です。

そうと決まればこんな不気味な場所でじっとしている意味はありません。私たちは降り始めました。

 

するととんでもない腐臭が漂ってきました。気のせいなんかじゃありません。

入口で感じた匂いはまさにここの匂いが漏れ伝わってたものなのでした。

 

当然、動物たちの遺骸は回収されてましたが、おざなりな清掃しかされてなかったのでしょう。もしくは回収のみだったのかもしれません。

闇の中、腐臭に堪えている状況を考えてください。私は嗚咽を繰り返し、涙が出てました。暗闇で誰かは本当に吐いてました。

 

帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい。

突如真横で動物のような息遣いが聞こえました。それが足元を走り抜けた時、私が足に激痛を感じました。

 

次の瞬間、友人のライトが激しく揺れました。部屋をめちゃくちゃに照らします。

「いてえ!!噛まれた!!」もう肝試しどころではありません。周囲で走り回る音が聞こえます。それが1つではなく、集団なのです。

 

友人「やばいやばいやばい!!野犬かもしれん!!」

私「帰ろう!!ここはまじでやばい!!」

友人「出口出口出口」私「ライト照らせ照らせ!!!」

 

その時ライトが地面を走り回る何かをはっきりと照らしだしました。

 

それからは記憶が飛び飛びです。私と友人はあり得ないスピードで部屋をぬけ階段を駆け上りました。

途中にあった机なんかは弾き飛ばしたと思います。半開きのドアは蹴破ったのかもしれません。呼吸さえしてなかったかもしれません。

 

走り抜ける中、四足の奴らは真横をつけ何度も足首あたりを噛みつこうと歯をむき出しました。

ですが私達が全力疾走していた為うまく噛むことが出来なかったようです。

 

私と友人は入口のドアを蹴飛ばし車に飛び乗りました。

友人はすぐにアクセルをふかしタイヤを空転させる程でしたが、勢いよく山道を走りました。事故らなかったのが奇跡です。

 

暗闇の中、私達が見たライトに照らし出された物。それは見慣れた服装でした。

 

今の今まで一緒にいた私と友人以外のメンバーでした。

彼らが四足になってよだれをダラダラ垂らしながら私たちを取り囲んでいたのです。

 

警察所で事情を話しました。再度向かおうとしたのですが気づかなかったのですが、私のズボンが血まみれだったので治療のため居残る事になりました。

友人と警察官2名が現場に戻りました。

 

後で聞いたところ2人が院内で気を失って倒れていたそうです。気を失う前にお互い噛みつきあったようでかなりの怪我だったそうです。

もう1人は階段の下におり、警察官2人に襲い掛かって取り押さえられたそうでかなりの修羅場だったそうです。

 

後日談です。警察や友人に受けた説明をまとめます。原因は極度のストレスと思い込みによる一時的な錯乱という事でした。

暗闇で分かりませんでしたが入口に入ってすぐに1人が発狂して走り去ったようでした。でかい動物ではなくメンバーの1人でしたが暗くて分かりませんでした。

 

倒れていた2人は怪我で入院しましたが無事退院したそうです。

ですが警察官に襲い掛かった1人はかなり長い間病院に入ってたそうです。しかも可哀想な事に警官に襲い掛かったため業務執行妨害か何か犯罪まで付いたとかでした。

 

不思議と新聞沙汰にはならなかったのでほっとしました。

幽霊は一切出ませんでしたが個人的には本当に本当に洒落にならない怖い経験でした。

 

ちなみに私の右足のふくらはぎにはその時の傷が残っています。

誰の物か分かりませんがモロに人の歯型でえぐれているので整形を考えています。

 

もし、あの時転んだりしてたらどうなっていたのか。

それよりあれがただの錯乱だったのかどうか。今でも気持ちの整理はついていません。

 

ただ餓死した動物達が生きていたら人間を許さないだろうとは思います。

 

今も生活しているとたまに腐臭のようなものを感じる事があります。

私もいつか発狂してしまうのでは…、なんて想像をして鬱になります。

 

どこかで吐き出したかったので少しスッキリしました。

長文失礼しました。読んでくださった方ありがとうございました。

 

……ただ一つ、、私の足に噛みついたのは

間違い無く友人だった気がします。

 

○感想

廃動物病院での肝試し中に錯乱起こして他人の足にかみつくとか怖すぎです。

間違いなく動物の祟りでしょうね。

回り回ってやっぱり人間って怖いです。

【2ch怖い話名作選】巨頭オ (感想付き)

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数年前、ふとある村の事を思い出した。

一人で旅行した時に行った小さな旅館のある村。

心のこもったもてなしが印象的だったが、なぜか急に行きたくなった。

 

連休に一人で車を走らせた。

記憶力には自信があるほうなので、道は覚えている。

村に近付くと、場所を示す看板があるはずなのだが、

その看板を見つけたときあれっと思った。

「この先○○km」となっていた(と思う)のが、「巨頭オ」になっていた。

変な予感と行ってみたい気持ちが交錯したが、行ってみる事にした。

車で入ってみると村は廃村になっており、建物にも草が巻きついていた。

 

車を降りようとすると、20mくらい先の草むらから、

頭がやたら大きい人間?が出てきた。

 

え?え?とか思っていると、周りにもいっぱいいる!

しかもキモい動きで追いかけてきた・・・。

両手をピッタリと足につけ、デカイ頭を左右に振りながら。

 

車から降りないでよかった。

恐ろしい勢いで車をバックさせ、

とんでもない勢いで国道まで飛ばした。

帰って地図を見ても、数年前に言った村と、

その日行った場所は間違っていなかった。

 

だが、もう一度行こうとは思わない。

 

○感想

こちらも、言わずと知れた名作ですね。

短い文章でよくもこんな訳の分からない世界に引き込んでくれるなと感心します。

元々あった村はどうなってしまったんでしょう。

【2ch怖い話名作選】リアル (感想付き)

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そこまで面白いことでもないし、長くしないように気をつけるが多少は目をつぶって欲しい。
では書きます。

何かに取り憑かれたり狙われたり付きまとわれたりしたら、マジで洒落にならんことを最初に言っておく。
もう一つ、俺の経験から言わせてもらうと、一度や二度のお祓いをすれば何とかなるって事はまず無い。
長い時間かけてゆっくり蝕まれるからね。祓えないって事の方が多いみたいだな。

俺の場合は大体2年半位。
一応、断っておくと、五体満足だし人並みに生活できてる。
ただ、残念ながら、終わったかどうかって点は定かじゃない。

まずは始まりから書くことにする。
当時俺は23才。社会人一年目って事で、新しい生活を過ごすのに精一杯な頃だな。
会社が小さかったから、当然同期も少ない。必然的に仲が良くなる。
その同期に東北地方出身の○○って奴がいて、
こいつがまた色んな事を知ってたり、やけに知り合いが多かっりした訳。
で、よく『これをしたら××になる』とか、『△△が来る』とかって話あるじゃない?
あれ系の話はほとんどガセだと思うんだけど、幾つかは本当にそうなってもおかしくないのがあるらしいのよ。
そいつが言うには、何か条件が幾つかあって、偶々揃っちゃうと起きるんじゃないかって。
俺の時は、まぁ悪ふざけが原因だろうな。

当時は車を買ってすぐだったし、一人暮らし始めて間もないし、
何よりバイトとは比べ物にならない給料が入るんで、週末は遊び呆けてた。
8月の頭に、ナンパして仲良くなった子達と○○、そして俺の計4人で、
所謂心霊スポットなる場所に、肝試しに行ったわけさ。
その場は確かに怖かったし、寒気もしたし、何かいるような気がしたりとかあったけども、
特に何も起こらず、まぁスリルを満喫して帰った訳だ。


3日後だった。
当時の会社は上司が帰るまで新人は帰れないって暗黙のルールがあって、毎日遅くなってた。
疲れて家に帰って来て、ほんと今思い出しても理解出来ないのだが、
部屋の入口にある姿見の前で、『してはいけないこと』をやったんだ。
試そうとか考えた訳ではなく、ふと思い付いただけだったと思う。

少し細かな説明をする。
当時の俺の部屋は、駅から徒歩15分、八畳1R、玄関から入ると細い廊下があり、その先に八畳分の部屋がある。
姿見は部屋の入口、つまり廊下と部屋の境目に置いていた。
俺が○○から聞いていたのは、『鏡の前で△をしたまま右を見ると◆が来る』とか言う話だった。
体勢的に、ちょっとお辞儀をしているような格好になる。

「来るわけねぇよな」なんて呟きながら、お辞儀のまま右向いた時だった。
部屋の真ん中辺りに何かいた。見た目は明らかに異常。
多分160センチ位だったと思う。髪はバッサバサで腰まであって、簾みたいに顔にかかってた。
っつーか、顔にはお札みたいなのが何枚も貼ってあって見えなかった。
なんて呼ぶのか分からないけど、亡くなった人に着せる白い和服を来て、小さい振り幅で左右に揺れてた。
俺はと言うと…、固まった。
声も出なかったし、一切体は動かなかったけど、
頭の中では物凄い回転数で、起きていることを理解しようとしてたと思う。
想像して欲しい。
狭い1Rに、音もない部屋の真ん中辺りに何かいるって状態を。
頭の中では原因は解りきっているのに、起きてる事象を理解出来ないって混乱が渦を巻いてる。
とにかく異常だぞ?灯りをつけてたけど、逆にそれが怖いんだ。いきなり出てきたそいつが見えるから。
そいつの周りだけ青みがかって見えた。
時間が止まったと錯覚するくらい静かだったな。


とりあえず俺が出した結論は、『部屋から出る』だった。
足元にある鞄を、何故かゆっくりと慎重に手に取った。
そいつからは目が離せなかった。目を離したらヤバいと思った。
後退りしながら廊下の半分(普通に歩いたら三歩くらいなのに、かなり時間がかかった)を過ぎた辺りで、
そいつが体を左右に振る動きが、少しずつ大きくなり始めた。
と同時に、何か呻き声みたいなのを出し始めた。
そこから先は、実はあんまり覚えてない。気が付くと駅前のコンビニに入ってた。
兎にも角にも、人のいるコンビニに着いて安心した。
ただ頭の中は相変わらず混乱してて、
『何だよアレ』って怒りにも似た気持ちと、『鍵閉め忘れた』って変なとこだけ冷静な自分がいた。
結局、その日は部屋に戻る勇気は無くて、一晩中ファミレスで朝を待った。

空が白み始めた頃、恐る恐る部屋のドアを開けた。良かった。消えてた。
部屋に入る前にもっかい外に出て、缶コーヒーを飲みながら一服した。
実は何もいなかったんじゃないかって思い始めてた。本当にあんなん有り得ないしね。

明るくなったってのと、もういないってので、少し余裕出来たんだろうね。
さっきよりはやや大胆に部屋に入った。
『よし、いない』なんて思いながら、カーテンが閉まってるせいで、薄暗い部屋の電気を点けた。


昨晩の出来事を裏付ける光景が目に入ってきた。
昨日、アイツがいた辺りの床に、物凄く臭いを放つ泥(多分ヘドロだと思う)が、
それも足跡ってレベルを超えた量で残ってた。
起きた事を事実と再認識するまで、時間はかからなかった。
ハッと気付いてますますパニックになったんだけど、…俺、電気消してねーよ…ははっ。
スイッチ押した左手見たら、こっちにも泥がついてんの。

しばらくはどんよりした気持ちから抜けられなかったが、出ちまったもんは仕方ねーなと思えてきた。
まぁここら辺が俺がAB型である典型的なとこなんだけど、
そんな状態にありながら、泥を掃除してシャワー浴びて出社した。
臭いが消えなくてかなりむかついたし、こっちはこっちで大問題だが、
会社を休むことも一大事だったからね。

会社に着くと、いつもと変わらない日常が待っていた。俺は何とか○○と話す時間を探った。
事の発端に関係する○○から、何とか情報を得ようとしたのだ。

昼休み、やっと捕まえる事に成功した。
以下、俺と○○の会話の抜粋。

「前にさぁ、話してた『△すると◆が来る』とかって話あったじゃん。昨日アレやったら来たんだけど」
「は?何それ?」
「だからぁ、マジ何か出たんだって!」
「あー、はいはい。カウパー出たのね」
「おま、ふざけんなよ。やっべーのが出たってんだよ」
「何言ってんのかわかんねーよ!」
「俺だってわかんねーよ!!」


駄目だ、埒があかない。
○○を信用させないと何も進まなかったため、俺は淡々と昨日の出来事を説明した。
最初はネタだと思っていた○○も、やっと半信半疑の状態になった。

仕事終わり、俺の部屋に来て確かめる事になった。
夜10時、幸いにも早めに会社を出られた○○と俺は部屋に着いた。
扉を開けた瞬間に、今朝嗅いだ悪臭が鼻を突いた。
締め切った部屋から熱気とともに、まさしく臭いが襲ってきた。
帰りの道でもしつこいくらいの説明を俺から受けていた○○は、
「・・・マジ?」と一言呟いた。信じたようだ。
問題は、○○が何かしら解決案を出してくれるかどうかだったが、望むべきではなかった。
とりあえず、お祓いに行った方がいいことと、知り合いに聞いてみるって言葉を残し、
奴は逃げるように帰って行った。
予想通りとしか言いようがなかったが、奴の顔の広さだけに期待した。

臭いとこに居たくない気持ちから、その日はカプセルホテルに泊まった。
今夜も出たら終わりかもしれないと思ったのが本音。

翌日、とりあえず近所の寺に行く。さすがに会社どころじゃなかった。
お坊さんに訳を説明すると、
「専門じゃないから分からないですね~。しばらくゆっくりしてはいかがでしょう。きっと気のせいですよ」
なんて呑気な答えが返ってきた。世の中こんなもんだ。
その日は都内では有名な寺や神社を何軒か回ったが、どこも大して変わらなかった。

疲れはてた俺は、埼玉の実家を頼った。
正確には、母方の祖母がお世話になっている、S先生なる尼僧に相談したかった。
っつーか、その人以外でまともに取り合ってくれそうな人が思い浮かばなかった。


ここでS先生なる人を紹介する。

母は長崎県出身で当然祖母も長崎にいる。
祖母は、戦争経験からか熱心な仏教徒だ。 S先生はその祖母が週一度通っている自宅兼寺の住職さんだ。
俺も何度か会ったことがある。 俺は詳しくはないが、宗派の名前は教科書に乗ってるくらいだから似非者の霊能者などとは比較にならないほどしっかりと仏様に仕えてきた方なのだ。

人柄は温厚、落ち着いた優しい話し方をする。
俺が中学に上がる頃親父が土地を買い家を建てることになった。 地鎮祭とでも言うんだっけ? 兎に角その土地をお祓いした。
その一週間後に長崎の祖母から「土地が良くないからS先生がお祓いに行く」という内容の電話があった。当然、母親的にも「もう終わってるのに何で?」ってことでそれを言ったらしい。 そしたら祖母から「でもS先生がまだ残ってるって言うたったい」って。
つまり、俺が知る限り唯一頼れる人物である可能性が高いのがS先生だった。

日も暮れてきて、埼玉の実家があるバス停に着いた頃には、夜9時を回る少し前だった。
都内と違い工場ばかりの町なので、夜9時でも人気は少ない。
バス停から実家までの約20分を足早に歩いた。人気の無い暗い道に街灯が規則的に並んでいる。
内心、一昨日の事がフラッシュバックしてきてかなり怯えてたが、幸いにも奴は現れなかった。
が、夜になり涼しくなったからか、俺は自分の身体の異変に気が付いた。
どうも首の付け根辺りが熱い。
伝わりにくいかと思うが、例えるなら、首に紐を巻き付けられて、左右にずらされているような感じだ。
首に手をやって寒気がした。熱い。首だけ熱い。しかもヒリヒリしはじめた。
どうも発疹のようなモノがあるようだった。
歩いてられなくなり、実家まで全力で走った。

息を切らせながら実家の玄関を開けると、母が電話を切るところだった。
そして俺の顔を見るなりこう言ったんだ。
「あぁ、あんた。長崎のお婆ちゃんから電話来て、心配だって。
 S先生が、あんたが良くない事になってるからこっちおいでって言われたて。あんたなんかしたの?
 あらやだ。あんた首の回りどうしたの!!?」
答える前に玄関の鏡を見た。奴が来るかもとか考えなかったな…、何故か。
首の回り付け根の部分は、縄でも巻かれているかのように見事に赤い線が出来ていた。
近づいてみると、細かな発疹がびっしり浮き上がっていた。
さすがに小刻みに身体が震えてきた。
何も考えずに、母にも一言も返事をせずに階段を駈け上がり、
母の部屋の小さな仏像の前で、南無阿弥陀仏を繰り返した。
そうする他、何も出来なかった。
心配して親父が、「どうした!!」と怒鳴りながら走って来た。
母は異常を察知して祖母に電話している。母の声が聞こえた。泣き声だ。
逃げ場はないと、恐ろしい事になってしまっていると、この時やっと理解した…。

実家に帰り、自分が置かれている状況を理解して3日が過ぎた。
精神的に参ったからか、それが何かしらアイツが起こしたものなのかは分からなかったが、
2日間高熱に悩まされた。
首から異常なほど汗をかき、2日目の昼には血が滲み始めた。
3日目の朝には首からの血は止まっていた。元々滲む程度だったしね。
熱も微熱くらいまで下がり、少しは落ち着いた。
ただ、首の回りに異常な痒さが感じられた。
チクチクと痛くて痒い。枕や布団、タオルなどが触れると、鋭い小さな痛みが走る。
血が出ていたから、瘡蓋が出来て痒いのかと思い、意識して触らないようにした。
布団にもぐり、夕方まで気にしないように心掛けたが、便所に行った時にどうしても気になって鏡を見た。
鏡なんて見たくもないのに、どうしても自分に起きてる事を、この目で確認しないと気が済まなかった。
鏡は見たこともない状況を写していた。
首の赤みは完全に引いていた。その代わり、発疹が大きくなっていた。
今でも思い出す度に鳥肌が立つほど気持ち悪いが、敢えて細かな描写をさせて欲しい。気を悪くしないでくれ。
元々首の回りの線は、太さが1cmくらいだった。
そこが真っ赤になり、元々かなり色白な俺の肌との対比で、正しく赤い紐が巻かれているように見えていた。
これが3日前の事。
目の前の鏡に映るその部分には、膿が溜まっていた。
…いや、正確じゃないな。

正確には、赤い線を作っていた発疹には膿が溜まっていて、
まるで特大のニキビがひしめき合っているようだった。
そのほとんどが膿を滲ませていて、あまりにおぞましくて気持ちが悪くなり、その場で吐いた。
真水で首を洗い、軟膏を母から借り、塗り、泣きながら布団に戻った。
何も考えられなかった。唯一、『何で俺なんだ』って憤りだけだった。

泣きつかれた頃、携帯がなった。○○からだった。
こういう時、ほんの僅かでも、希望って物凄いエネルギーになるぞ?正直、こんなに嬉しい着信はなかった。
「もしもし」
『おぉ~!大丈夫~!?』
「ぃや…大丈夫な訳ねーだろ…」
『ぁー、やっぱヤバい?』
「やべーなんてもんじゃねーよ。はぁ…。っつーか何かないんかよ?」
『ぅん、地元の友達に聞いてみたんだけどさ~、ちょっと分かる奴居なくて…、申し訳ない』
「ぁー、で?」
正直、○○なりに色々してくれたとは思うが、この時の俺に相手を思いやる余裕なんてなかったから、
かなり自己中な話し方に聞こえただろう。
『いや、その代わり、友達の知り合いにそーいうの強い人がいてさー。
 紹介してもいいんだけど、金かかるって…』
「!? 金とんの?」
『うん、みたい…。どーする?』
「どんくらい?」
『知り合いの話だと、とりあえず五十万くらいらしい…』
「五十万~!?」
当時の俺からすると、働いているとはいえ五十万なんて払えるわけ無い額だった。
金が惜しかったが、恐怖と苦しみから解放されるなら…。選択肢は無かった。
「…分かった。いつ紹介してくれる?」
『その人今群馬にいるらしいんだわ。知り合いに聞いてみるから、ちょっと待ってて』

話が前後するが、俺が仏像の前で南無阿弥陀仏を繰り返していた時、母は祖母に電話をかけていた。
祖母からすぐにS先生に相談が行き、(相談と言うよりも、助けて下さいってお願いだったらしいが)
最終的には、S先生がいらしてくれる事になっていた。
ただし、S先生もご多忙だし、何より高齢だ。こっちに来れるのは三週間先に決まった。
つまり、三週間は不安と恐怖と、何か起きてもおかしか無い状況に居なければならなかった。
そんな状況だから、少しでも出来るだけの事をしてないと、気持ちが落ち着かなかった。

○○が電話を折り返してきたのは、夜11時を過ぎた頃だった。
『待たせて悪いね。知り合いに相談したら連絡入れてくれて、明日行けるって』
「明日?」
『ほら、明日日曜じゃん?』
そうか、いつの間にか奴を見てから五日も経つのか。不思議と会社の事を忘れてたな。
「分かった。ありがと。ウチまで来てくれるの?」
『家まで行くって。車で行くらしいから、住所メールしといて』
「お前はどーすんの?来て欲しいんだけど」
『行く行く』
「金、後でも大丈夫かな?」
『多分大丈夫じゃね?』
「分かった。近くまで来たら電話して」
何とも段取りの悪い話だが、若僧だった俺には仕方の無い事だった。

その晩、夢を見た。
寝てる俺の脇に、白い和服をきた若い女性が正座していた。
俺が気付くと、三指をつき深々と頭を下げた後、部屋から出ていった。
部屋から出る前に、もう一度深々と頭を下げていた。
この夢がアイツと関係しているのかは分からなかったが。

翌日、昼過ぎに○○から連絡が来た。電話で誘導し出迎えた。
来たのは○○とその友達、そして三十代後半くらいだろう男が来た。
普通の人だと思えなかったな。チンピラみたいな感じだったし、何の仕事をしてるのか想像もつかなかった。
俺がちゃんと説明していなかったから、両親が訝しんだ。
まず間違いなく偽名だと思うが、男は林と名乗った。
林「T君の話は彼から聞いてましてね。まー厄介な事になってるんです」
(今さらですまん。Tとは俺、会話中の彼は○○だと思って読んでくれ)
父「それで、林さんはどういった関係でいらしていただいたんですか?」
林「いやね、これもう素人さんじゃどーしようもなぃんですよ。
 お父さん、いいですか?信じられないかも知れませんが、このままだとT君、危ないですよ?
 で、彼が友達のT君が危ないから助けて欲しいって言うんでね、ここまで来たって訳なんですよ」
母「Tは危ないんでしょうか?」
林「いやね、私も結構こういうのは経験してますけど、こんなに酷いのは初めてですね。
 この部屋いっぱいに悪い気が充満してます」
父「…失礼ですが、林さんのご職業をお聞きしても良いですか?」
林「あー、気になりますか?ま、そりゃ急に来てこんな話したら怪しいですもんねぇ
 でもね、ちゃんと除霊して、辺りを清めないと、T君、ほんとに連れて行かれますよ?」
 
母「あの、林さんにお願いできるでしょうか?」
林「それはもう、任せていただければ。こーいうのは、私みたいな専門の者じゃないと駄目ですからね。
 ただね、お母さん。こっちとしとも危険があるんでね、少しばかりは包んでいただかないと。
 ね、分かるでしょ?」
父「いくらあればいいんです?」
林「そうですね~、まぁ二百はいただかないと…」
父「えらい高いな!?」
林「これでも彼が友達助けて欲しいって言うから、わざわざ時間かけて来てるんですよ?
 嫌だって言うなら、こっちは別に関係無いですからね~。
 でも、たった二百万でT君助かるなら、安いもんだと思いますけどね」
林「それに、T君もお寺に行って相手にされなかったんでしょう?
 分かる人なんて一握りなんですわ。また一から探すんですか?」
俺は黙って聞いてた。
さすがに二百万って聞いた時は○○を見たが、○○もばつの悪そうな顔をしていた。
結局、父も母も分からないことにそれ以上の意見を言える筈もなく、渋々任せることになった。

林は、早速今夜に除霊をすると言い出した。
準備をすると言い、一度出掛けた。(出がけに、両親に準備にかかる金をもらって行った)
夕方に戻ってくると、蝋燭を立て、御札のような紙を部屋中に貼り、膝元に水晶玉を置き数珠を持ち、
日本酒だと思うが、それを杯に注いだ。何となくそれっぽくなって来た。
林「T君。これからお祓いするから。これでもう大丈夫だから。
 お父さん、お母さん。すみませんが、一旦家から出ていってもらえますかね?
 もしかしたら、霊がそっちに行く事も無い訳じゃないですから」
両親は不本意ながら、外の車で待機する事になった。

日も暮れて辺りが暗くなった頃、お祓いは始まった。
林はお経のようなものを唱えながら、一定のタイミングで杯に指をつけ、俺にその滴を飛ばした。
俺は半信半疑のまま、布団に横たわり目を閉じていた。林からそうするように言われたからだ。

お祓いが始まってから大分たった。
お経を唱える声が途切れ途切れになりはじめた。
目を閉じていたから、嫌な雰囲気と、少しずつおかしくなってゆくお経だけが俺に分かることだった。
最初こそ気付かなかったが、首がやけに痛い。痒さを通り越して、明らかに痛みを感じていた。
目を開けまいと、痛みに耐えようと歯を食いしばっていると、お経が止まった。
しかしおかしい。
良く分からないが、区切りが悪い終り方だったし、終わったにしては何も声をかけてこない。
何より、首の痛みは一向に引かず、寧ろ増しているのだ。
寒気も感じるし、何かが布団の上に跨がっているような気がする。

目を開けたらいけない。それだけは絶対にしてはいけない。
分かってはいたが…。開けてしまった。
目を開けると、恐ろしい光景が飛び込んできた。
林は、布団で寝ている俺の右手側に座りお祓いをしていた。
林と向き合うように、俺を挟んでアイツが正座していた。
膝の上に手を置き、上半身だけを伸ばして林の顔を覗き込んでいる。
林の顔とアイツの顔の間には、拳一つ分くらいの隙間しかなかった。
不思議そうに、顔を斜めにして、梟のように小刻みに顔を動かしながら、
聞き取れないがぼそぼそと呟きながら、林の顔を覗き込んでいた。
今思うと、林に何かを囁いていたのかもしれない。
林は少し俯き気味に、目線を下に落としたまま瞬きもせず、口はだらしなく開いたまま涎を垂らしていた。
少し顔が笑っていたように見えた。時々小さく頷いていた。
俺は瞬きも忘れ凝視していた。
不意にアイツの首が動きを止めた。次の瞬間、顔を俺に向けた。
俺は慌てて目をギュッと閉じ、布団を被り、ひたすら南無阿弥陀仏と唱えていた。
俺の顔の間近で、アイツが梟のように顔を動かしている光景が瞼に浮かんできた。恐ろしかった。
ガタガタと音が聞こえ、階段を駈け降りる音が聞こえた。林が逃げ出したようだ。
俺は怖くて怖くて布団に潜り続けていた。

両親が来て、電気を点けて布団を剥いだとき、丸まって身体が固まった俺がいたそうだ。
林は両親に見向きもせず車に乗り込み、待っていた○○、○○の友達と供に何処かへ消えていった。
後から○○に聞いた話では、「車を出せ」以外は言わなかったらしい。
解決するどころか、ますます悪いことになってしまった俺には、
三週間先のS先生を待っている余裕など残っていなかった。

アイツを再び目にしてから、さらに4日が経った。
当たり前かも知れないが、首は随分良くなり、まだ痕が残るとは言え、明らかに体力は回復していた。
熱も下がり、身体はもう問題が無かった。
ただ、それは身体的な話でしかなくて、朝だろうが夜だろうが関係無く怯えていた。
何時どこでアイツが姿を現すかと思うと、怖くて仕方無かった。
眠れない夜が続き、食事もほとんど受け付けられず、常に辺りの気配を気にしていた。
たった10日足らずで、俺の顔は随分変わったと思う。
精神的に追い詰められていた俺には、時間が無かった。
当然、まともな社会生活なんて送れる訳も無く、親から連絡を入れてもらい会社を辞めた。
(これも後から聞いた話でしかないのだが…、連絡を入れた時は随分嫌味を言われたらしい)
とにかく何もかもが怖くて、洗濯物や家の窓から見える柿の木が揺れただけでも、
もしかしたらアイツじゃないかと一人怯えていた。
S先生が来るまでには、まだ二週間あまりが残っていた。俺には長すぎた。

見かねた両親は、強引に怯える俺を車に押し込み、何処かへ向かった。
父が何度も「心配するな」「大丈夫だ」と声をかけた。
車の後部座席で、母は俺の肩を抱き頭を撫でていた。母に頭を撫でられるなんて何年ぶりだったろう。
時間の感覚も無く(当時の俺にはだが)、車で移動しながら夜を迎えた。
二十歳も過ぎて恥ずかしい話だが、母に寄り添われ安心したのか、久方ぶりに深い眠りに落ちた。

目が覚めるとすでに陽は登っていて、久しぶりに眠れてすっきりした。
実際には丸1日半眠っていたらしい。多分、あんなに長く眠るなんてもうないだろうな。
外を見ると、車は見慣れない景色の中を進んでいた。

少しずつ、見覚えのある景色が目に入り始めた。道路の中央に電車が走っている。
車は長崎に着いていた。これには俺も流石に驚いた。
怯え続ける俺を気遣い、飛行機や新幹線は避け車での移動にしてくれたらしい。
途中で休憩は何度も入れたらしいが、
それでもろくに眠らず車を走らせ続けた父と、俺が怖がらないようにずっと寄り添ってくれた母への恩は、
一生かけても返しきれそうもない。

祖父母の住む所は、長崎の柳川という。柳川に着くと坂道の下に車を停め、両親が祖父母を呼びに行った。
(祖父母の家は、坂道から脇に入った石段を登った先にある)
その間、俺は車の中に一人きりの状態になった。
両親が二人で出ていったのは、
足腰の悪い祖母や、S先生の家に持っていく荷物を運ぶのを手伝うためだったのだが、
自分で「大丈夫、行って来て」なんて言ったのは、本当に舐めてた証拠だと思う。
久しぶりに眠れた事や、今いる場所が東京・埼玉と随分離れた長崎だった事が、気を弛めたのかもしれない。

車の後部座席に足をまるめて座り(体育座りね)、外をぼーっと眺めていると、急に首に痛みが走った。
今までの痛みと比較にならないほど、言い過ぎかも知れないが激痛が走った。

首に手をやると滑りがあった。…血が出てた。指先に付いた血が、否応なしに俺を現実に引き戻した。
この時、怖いとか、アイツが近くにいるかもって考える前に、
「またかよ…」ってなげやりな気持ちが先に来たな。
もう何か嫌になって泣けてきた。

分かってもらえれば嬉しいけど、
嫌な事が少しの間をおいて続けて起きるのって、もうどうしようも無いくらい落ち込むんだよね。
気持ちの整理が着き始めると嫌な事が起きるっては辛いよね。
この時は少し気が弛んでいたから尚更で、
「どーしろっつーんだよ!!」とか、「いい加減にしてくれよ」とか独り言をぶつぶつ言いながら泣いてた。
車に両親が祖父母を連れて戻って来たんだけど、すぐにパニックになった。
何しろ問題の俺が、首から血を流しながら、後部座席で項垂れて泣いてるからね。何も無い訳がないよな。
「どうした?」とか、「何とか言え!」とか、「もぅやだー」とか、「Tちゃん、しっかりせんか!!」とか、
「どげんしたと!?」とか、「あなたどうしよう」とか。
この時は思わず、「てめぇらぅるっせーんだよ!!」って怒鳴ってしまった。
こんな時に説明なんか出来るわけねーだろって、てめぇらじゃ何も出来ねぇ癖に…黙ってろよ!とか思ってたな。
勝手に悪い事になって仕事は辞めるわ、騙されそうになるわ…
こんな俺みたいな駄目な奴のために、走り回ってくれてる人達なのに…。
今考えると本当に恥ずかしい。

で、人生で一度きりなんだけどさ、親父がいきなり俺の左頬に平手打ちをしてきた。
物凄い痛かったね。親父、滅茶苦茶厳しくて何度も口喧嘩はしたけど、
多分生まれてから一回も打たれた事無かったからな。
(父のポリシーで、子供は絶対殴らないってのは昔から耳タコだったしね)
で、一言だけ「お祖父さんとお祖母さんに謝れ」って、静かだけど厳しい口調で言ったんだ。
それで、何故か落ち着いた。ってかびっくりし過ぎて、それまでの絶望感がどっかに行ってしまったよ。

冷静さを取り戻して皆に謝ったら、急に腹が据わってきた気がした。
走り始めた車の中で、励ましてくれる祖父母の言葉に感極まってまた泣いた。
自分で思ってるよか全然心が弱かったんだな、俺は。

S先生の家(寺でもあるが)に着くと、ふっと軽くなった気がした。
何か起きたっていうよりは、俺が勝手に安心したって方が正しいだろうな。
門をくぐり、石畳が敷かれた細い道を抜けると、初老の男性が迎え入れてくれた。
そう言えば、S先生の家にはいつもお客さんがいたような気がする。
きっと、祖母のように通っている人が多いんだろう。
奥に通され裏手の玄関から入り進んでいくと、十畳くらいの仏間がある。
S先生は俺の記憶の通り、仏像の前に敷かれた座布団の上に正座していて、ゆっくりと振り向いたんだ。
(下手な長崎弁を記憶に頼って書くが見逃してな)
祖母「Tちゃん、もうよかけんね。S先生が見てくれなさるけん」
S先生「久しぶりねぇ。随分立派になって。早いわねぇ」
祖母「S先生、Tちゃんば大丈夫でしょかね?」
祖父「大丈夫って。そげん言うたかてまだ来たばかりやけん、S先生かてよう分からんてさ」
祖母「あんたさんは黙っときなさんてさ。もうあたし心配で心配で仕方なかってさ」
何でだろう…ただS先生の前に来ただけなの、にそれまで慌ていた祖父母が落ち着いていた。
それは両親にも俺にも伝わってきて、深く息を吐いたら身体から悪いものが出ていった気がした。
両親はもう体力的にも精神的にも限界に近かったらしく、
「疲れちゃったやろ?後はS先生が良くしてくれるけん、隣ば行って休んでたらよか」
と、人懐こい祖父の言葉に甘えて隣の部屋へ。

S先生「じゃあTちゃん、こっちにいらっしゃい」
S先生に呼ばれ、向かい合わせで正座した。
S先生「それじゃIさん達も隣の部屋で寛いでらして下さい。Tちゃんと話をしますからね。
 後は任せて、こっちの部屋には良いと言うまで戻って来ては駄目ですよ?」
祖父「S先生、Tちゃんばよろしくお願いします!」
祖母「Tちゃん、心配なかけんね。S先生がうまいことしてくれるけん。
 あんたさんはよく言うこと聞いといたらよかけんね。ね?」
しきりにS先生にお願いして、俺に声をかけてくれる祖父母の姿にまた涙が出てきた。泣きっぱなしだな俺。

S先生はもっと近づくように言い、膝と膝を付け合わせるように座った。
俺の手を取り、暫くは何も言わず優しい顔で俺を見ていた。
俺は何故か、悪さをして怒られるじゃないかと親の顔色を伺っていた、子供の頃のような気持ちになっていた。
目の前の、敢えて書くが、自分よりも小さくて明らかに力の弱いお婆ちゃんの、
威圧的でもなんでもない雰囲気に呑まれていた。
あんな人本当にいるんだな。
S先生「…どうしようかしらね」
俺「…」
S先生「Tちゃん、怖い?」
俺「…はい」
S先生「そうよねぇ。このままって訳には行かないわよねぇ」
俺「えっと…」
S先生「あぁ、いいの。こっちの話だから」
何がいいんだ!?ちっともよかねーだろなんて気持ちが溢れて来て、耐えきれずついにブチ撒けた。
本当に人として未熟だなぁ、俺は。

俺「あの、俺どーなるんすか? もう早いとこ何とかして欲しいんです。
 大体何なんですか?何でアイツ俺に付きまとうんですか?もう勘弁してくれって感じですよ。
 S先生、何とかならないんですか?」
S先生「Tちゃ…」
俺「大体、俺別に悪いこと何もしてないっすよ!?
 確かに□□(心霊スポットね)には行ったけど、俺だけじゃないし、
 何で俺だけこんな目に会わなきゃいけないんすか?
 鏡の前で△しちゃだめだってのも関係あるんですか?ホント訳わかんねぇ!!あーっ!苛つくぅぁー!!」
「ドォ~ドォルルシッテ」
「ドォ~ドォルル」
「チルシッテ」
…何が何だか解らなかった。(ホントに訳解んないので、取り敢えずそのまま書く)
「ドォ~。 シッテドォ~シッテ」
左耳に鸚鵡か鸚哥みたいな、甲高くて抑揚の無い声が聞こえてきた。
それが「ドーシテ」と繰り返していると理解するまで少し時間がかかった。
俺はS先生の目を見ていたし、S先生は俺の目を見ていた。
ただ優しかったS先生の顔は、無表情になっているように見えた…。
左側の視界には何かいるってのは分かってた。チラチラと見えちゃうからね。
よせば良いのに、左を向いてしまった。首から生暖かい血が流れてるのを感じながら。

アイツが立ってた。体をくの字に曲げて、俺の顔を覗き込んでいた。
くどいけど…訳が解らなかった。起きてることを認められなかった。
此処は寺なのに、目の前にはS先生がいるのに…何でなんで何で…。
一週間前に見たまんまだった。アイツの顔が目の前にあった。
梟のように小刻みに顔を動かしながら、俺を不思議そうに覗き込んでいた。
「ドォシッテ?ドォシッテ?ドォシッテ?ドォシッテ?」
鸚鵡のような声でずっと質問され続けた。
きっと…林も同じようにこの声を聞いていたんだろう。俺と同じ言葉を囁かれていたのかは分からないが…。
俺は息する事を忘れてしまって、目と口を大きく開いたままだった。
いや、息が上手く出来なかったって方が正しいな。
たまに「コヒュッ」って感じで、息を吸い込む事に失敗してた気がするし。

そうこうしているうちに、アイツが手を動かして、
顔に貼り付けてあるお札みたいなのを、ゆっくりめくり始めたんだ。
見ちゃ駄目だ!! 絶対駄目だって分かってるし逃げたかったんだけど、動けないんだよ!!
もう顎の辺りが見えてしまいそうなくらいまで来ていた。
心の中では「ヤメロ!それ以上めくんな!!」って叫んでるのに、
口からは「ァ…ァカハッ…」みたいな情けない息しか出ないんだ。
もうやばい!!ヤバい!ヤバい!ってところで、「パンッ!!」って。
例えとか誇張でもなく“跳び上がった。心臓が破裂するかと思った。

「パン!!」
その音で俺は跳び上がった。
正座してたから、体が倒れそうになりながら後に振り向いて、すぐ走り出した。
何か考えてた訳じゃなく、体が勝手に動いたんだよね。
でも慣れない正座のせいで、足が痺れてまともに走れないのよ。
痺れて足が縺れた事と、あんまりにも前を見てないせいで、
頭から壁に突っ込んだが、ちっとも痛くなかった。
額から血がだらだら出てたのに…、それだけテンパって周りが見えてなかったって事だな。

血が目に入って何も見えない。
手をブン回して出口を探した。けど、的外れの方ばっかり探してたみたい。
「まだいけません!」
いきなりS先生が大きい声を出した。
障子の向こうにいる両親や祖父母に言ったのか、俺に言ったのか分からなかった。
分からなかったが、その声は俺の動きを止めるには十分だった。
ビクってなってその場で硬直。またもや頭の中では、物凄い回転で事態を把握しようとしていた。
っつーか把握なんて出来る筈もなく、S先生の言うことに従っただけなんだけどね。

俺の動きが止まり、仏間に入ろうとする両親と祖父母の動きが止まった事を確認するかのように、
少しの間を置いてからS先生が話し始めた。
S先生「Tちゃんごめんなさいね。怖かったわね。もう大丈夫だからこっちに戻ってらっしゃい。
Iさん、大丈夫ですからもう少し待ってて下さいね」
障子(襖だったかも)の向こうから、しきりに何か言ってのは聞こえてたけど、覚えてない。
血を拭いながらS先生の前に戻ると、手拭いを貸してくれた。お香なのかしんないけど、いい匂いがしたな。
ここに来てやっと、あの音はS先生が手を叩いた音だって気付いた。(質問出来る余裕は無かったけど)

「Tちゃん、見えたわね?聞こえた?」
「見えました…どーして?って繰り返してました」
この時にはもう、S先生の顔はいつもの優しい顔になってたんだ。
俺も今度はゆっくりと、出来るだけ落ち着いて答える事だけに集中した。
まぁ…考えるのを諦めたんだけどね。
「そうね。どうして?って聞いてたわね。何だと思った?」
さっぱり分からなかった。考えようなんて思わなかったしね。
「?? …いや…、ぅぅん?…分かりません」
「Tちゃんはさっきの怖い?」
「怖い…です」
「何が怖いの?」
「いや…、だって普通じゃないし。幽霊だし…」
ここらへんで、俺の脳は思考能力の限界を越えてたな。S先生が何を言いたいのかさっぱりだった。
「でも何もされてないわよねぇ?」
「いや…首から血が出たし、それに何かお札みたいなの捲ろうとしてたし。明らかに普通じゃないし…」
「そうよねぇ。でも、それ以外は無いわよねぇ」
「…」
「難しいわねぇ」
「あの、よく分からなくて…すいません」
「いいのよ」

S先生は、俺にも分かるように話してくれた。諭すっていった方がいいかもしれない。
まず、アイツは幽霊とかお化けって呼ばれるもので間違いない。
じゃあ所謂悪霊ってヤツかって言うと、そう言いきっていいかS先生には難しいらしかった。
明らかにタチが悪い部類に入るらしいけど、S先生には悪意は感じられなかったって言っていた。
俺に起きた事は何なのかに対してはこう答えた。
「悪気は無くても強すぎるとこうなっちゃうのよ。
あの人ずっと寂しかったのね。
『話したい、触れたい、見て欲しい、気付いて気付いてー』って、ずっと思ってたのね。
Tちゃんはね、分からないかもしれないけど、暖かいのよ。
色んな人によく思われてて、それがきっと『いいな~。優しそうだな~』って思ったのね。
だから、自分に気付いてくれた事が、嬉しくて仕方なかったんじゃないかしら。
でもね、Tちゃんはあの人と比べると全然弱いのね。
だから、近くに居るだけでも怖くなっちゃって、体が反応しちゃうのね」
S先生は、まるで子供に話すようにゆっくりと、難しい言葉を使わないように話してくれた。

俺はどうすればいいのか分からなくなったよ。
アイツは絶対に悪霊とかタチの悪いヤツだと決めつけてたから。
S先生にお祓いしてもらえばそれで終ると思ってたから…。
それなのに、S先生がアイツを庇うように話してたから…。
「さて、それじゃあ今度は何とかしないといけないわね。
 Tちゃん、時間かかりますけど、何とかしてあげますからね」
この一言には本当に救われたよ。あぁ、もういいんだ。終るんだって思った。やっと安心したんだ。

S先生に教えられたことを書きます。俺にとって一生忘れたくない言葉です。
「見た目が怖くても、自分が知らないものでも、自分と同じように苦しんでると思いなさい。
 救いの手を差し伸べてくれるのを待っていると思いなさい」

S先生はお経をあげ始めた。お祓いのためじゃ無く、アイツが成仏出来るように。
その晩、額は裂けてたし、よくよく見れば首の痕が大きく破けて痛かったけど、本当にぐっすり眠れた。
(お経終わってもキョドってた俺のために、笑いながらその日は泊めてくれた)

翌日、朝早く起きたつもりが、S先生はすでに朝のお祈りを終らしてた。
「おはよう、Tちゃん。さ、顔洗って朝御飯食べてらっしゃい。食べ終わったら本山に向かいますからね」

関係者でも何でもないんで、あまり書くのはどうかと思うが少しだけ。
S先生が属している宗派は、前にも書いた通り教科書に載るくらい歴史があって、
信者の方も修行されてる方も、日本全国にいらっしゃるのね。
教えは一緒なんだけど、地理的な問題から東と西それぞれに本山があるんだって。
俺が連れていってもらったのが西の本山。
本山に暫くお世話になって、
自分が元々持っている徳(未だにどんなものか説明できないけど)を高める事と、
アイツが少しでも早く成仏出来るように、本山で供養してあげられるためってS先生は言ってた。
その話を聞いて一番喜んだのが祖母。まだ信じられなそうだったのが親父。
最後は、俺が「もう大丈夫。行ってくる」って言ったから反対しなかったけど。

本山に着くと迎えの若い方が待っていて、S先生に丁寧に挨拶してた。
本堂の横奥にある小屋(小屋って呼ぶのが憚れるほど広くて立派だったが)で本山の方々にご挨拶。
ここでもS先生にはかなりの低姿勢だったな。
S先生、実は凄い人らしく、望めばかなりの地位にいても不思議じゃないんだって後から聞いた。
(「寂しいけど序列ができちゃうのね」ってS先生は言ってた)
俺は本山に暫く厄介になり、まぁ客人扱いではあったけど、皆さんと同じような生活をした。
多分、S先生の言葉添えがあったからだろうな。

その中で、自分が本当に幸運なんだなって実感したよ。
もう四十年間ずっと蛇の怨霊に苦しめられている女性や、
家族親族まで祟りで没落してしまって、身寄りが無くなってしまったけど、
家系を辿れば立派な士族の末裔の人とか…
俺なんかよりよっぽど辛い思いしてる人が、こんなにいるなんて知らなかったから…。

厳しい生活の中にいたからなのか、場所がそうだからなのか、あるいはS先生の話があったからなのか、
恐怖は大分薄れた。(とは言うものの、ふと瞬間にアイツがそばに来てる気がしてかなり怯えたけど)

本山に預けてもらって一ヶ月経った頃、S先生がいらっしゃった。
「あらあら、随分良くなったみたいね」
「えぇ、S先生のおかげですね」
「あれから見えたりした?」
「いや…一回も。多分成仏したかどっかにいったんじゃないですか?ここ、本山だし」
「そんな事ないわよ?」
顔がひきつった。
「あら、ごめんなさい。また怖くなっちゃうわよね。
 でもねTちゃん、ここには沢山の苦しんでる人がいるの。
 その人達を少しでも多く助けてあげるのが、私達の仕事なのよ」
多分だけど、S先生の言葉にはアイツも含まれてたんだと思う。
「Tちゃん、もう少しここにいて勉強しなさい。折角なんだから」

俺はS先生の言葉に従った。あの時の事がまだまだ尾を引いていて、まだここにいたいって思ってたからね。
それに、一日はあっという間なんだけど…何て言うか、時間がゆっくり流れてような感じが好きだったな。
(何か矛盾してるけどね)
そんなこんなが続いて、結局三ヶ月も居座ってしまった。
その間S先生は、こっちには顔を出さなかった。(二ヶ月前に来たきり)
やっぱりS先生の言葉がないと不安だからね。
でも、哀しいかな、
流石に三ヶ月もそれまで自分がいた騒々しい世界から隔離されると、物足りない気持ちが強くなってた。

実に二ヶ月ぶりにS先生がやって来て、やっと本山での生活は終りを迎えようとしていた。
身支度を整え、兎に角お世話になった皆さんに一人ずつ御礼を言い、S先生と帰ろうとしたんだ。
でも気付くと、横にいたはずのS先生がいない。
あれ?と思って振り向いたら、少し後にいたんだ。
歩くの速すぎたかな?って思って戻ったら、
優しい顔で「Tちゃん、帰るのやめてここに居たら?」って言われた。
実はS先生に認められた気がして少し嬉しかった。
「いや、僕にはここの人達みたいには出来ないです。
 本当に皆さん凄いと思います。真似出来そうもないですよ」
照れながら答えたら、
「そうじゃなくて、帰っちゃ駄目みたいなのよ」
「え?」
「だってまだ残ってるから」
また顔がひきつった。

結局、本山を降りる事が出来たのは、それから二ヶ月後だった。実に五ヶ月も居座ってしまった。
多分、こんなに長く、家族でも無い誰かに生活の面倒を見てもらう事は、この先ないだろう。
S先生から、「多分もう大丈夫だと思うけど、しばらくの間は月に一度おいでなさい」と言われた。
アイツが消えたのか、それとも隠れてれのか、本当のところは分からないからだそうだ。

長かった本山の生活も終って、やっと日常に戻って来た。
借りてたアパートは母が退去手続きを済ましてくれていて、実家には俺の荷物が運び込まれてた。
アパートの部屋を開けた時、何かを燻したような臭いと、部屋の真ん中辺りの床に小さな虫が集まってたらしい。
怖すぎたらしく、その日はなにもしないで帰って来たんだってさ。
翌日、仕方無いんで、意を決してまた部屋を開けたら、臭いは残ってたけど虫は消えてたらしい。
母には申し訳ないが、俺が見なくて良かった。

実家に戻り、実に約半年ぶりくらいに携帯を見ると、(そーいや、それまでは気にならなかったな)
物凄い件数の着信とメールがあった。中でも一番多かったのが○○。
メールから、奴は奴なりに自分のせいでこんな事になったって自責の念があったらしく、
謝罪とか、こうすればいいとか、こんな人が見つかったとか、まめに連絡が入ってた。
母から○○が家まで来た事も聞いた。

戻って二日目の夜、○○に電話を入れた。
電話口が騒がしい。○○は呂律が回らず何を言っているか分からなかった。
…コンパしてやがった。
とりあえず電話をきり、『殺すぞ』とメールを送っておいた。所詮世の中他人は他人だ。

翌日、○○から『謝りたいから時間くれないか?』とメールが来た。
電話じゃなかったのは、気まずかったからだろう。

夜になると、家まで○○が来た。
わざわざ遠いところまで来るくらいだ。相当後悔と反省をしていたのだろう。
(夜に出歩くのを俺が嫌ったからってのが、一番の理由である事は言うまでもない)
玄関を開け○○を見るなり、二発ぶん殴ってやった。
一発は奴の自責の念を和らげるため、一発はコンパなんぞに行ってて俺を苛つかせた事への贖罪のめに。
言葉で許されるよりも、殴られた方がすっきりする事もあるしね。まぁ、二発目は俺の個人的な怒りだが。

○○に経緯を細かく話し、その晩は二人して興奮したり怖がったり…今思うと当たり前の日常だなぁ。

○○からは、あの晩のそれからを聞いた。
あの晩、逃げたした時には、林は明らかにおかしくなっていた。
林の車の中で友達と待っていた○○には、まず間違いなくヤバい事になっているって事がすぐに分かったそうだ。
でも、後部座席に飛び乗ってきた林の焦り方は尋常じゃ無かったらしく、車を出さざるを得なかったらしい。
「反抗したりもたついたりしたら、何されっか分かんなかったんだよ」
○○の言葉が状況を物語っていた。
○○は、車が俺の家から離れ高速の入り口近くの信号に捕まった時に、逃げ出したらしい。
「だってあいつ、途中から笑い出したり、震えたり、
 『俺は違う』とか『そんな事しません』とか言い出して怖いんだもんよ」
アイツが何か囁いてる姿が甦ってきて、頭の中の映像を消すのに苦労した。
俺の家に戻って来なかったのは、単純に怖すぎたからだって。
「根性無しですみませんでした」って謝ってたから許した。俺が○○でも勘弁だしね。
その後、林がどうなったかは誰も知らない。
さすがに今回の件では○○も頭に来たらしく、林を紹介した友達を問い詰めたらしい。
結局、林は詐欺師まがいにも成りきれないようなどうしようも無いヤツだったらしく、
唆されて軽い気持ち(小遣い稼ぎだってさ…)で紹介したんだと。
○○曰く、「ちゃんとボコボコにしといたから勘弁してくれ!」との事。
でも、こんな状況を招いたのが自分の情報だってのには参ったから、今度は持てる人脈を総動員したが…
こんなことに首を突っ込んだり聞いた事がある奴が回りにいるはずもなく、
多分とか~だろうとかってレベルの情報しか無かったんだ。
だから、『何か条件が幾つかあって、偶々揃っちゃうと起きるんじゃないか』としか言えなかった。

その後、俺はS先生の言い付けを守って、毎月一度S先生を訪ねた。
最初の一年は毎月、次の一年は三か月に一度。
○○も俺への謝罪からか、何も無くても家まで来ることが増えたし、
S先生のところに行く前と帰ってきた時には、必ず連絡が来た。

アイツを見てから二年が経った頃、S先生から、
「もう心配いらなそうね。Tちゃん、これからはたまに顔出せばいいわよ。でも、変な事しちゃだめよ」
って言ってもらえた。

本当に終ったのか…俺には分からない。
S先生はその三ヶ月後、他界されてしまった。
敬愛すべきS先生、もっと多くの事を教えて欲しかった。
ただ、今は終ったと思いたい。

S先生のお葬式から二ヶ月が経った。
寂しさと、大切な人を亡くした喪失感も薄れ始め、俺は日常に戻っていた。
慌ただしい毎日の隙間に、ふとあの頃を思い出す時がある。
あまりにも日常からかけ離れ過ぎていて、本当に起きた事だったのか分からなくこともある。
こんな話を誰かにするわけもなく、またする必要もなく、ただ毎日を懸命に生きてくだけだ。

祖母から一通の手紙が来たのは、そんなごくごく当たり前の日常の中だった。
封を切ると、祖母からの手紙と、もう一つ手紙が出てきた。
祖母の手紙には、俺への言葉と共にこう書いてあった。
『S先生から渡されていた手紙です。
 四十九日も終わりましたので、S先生との約束通りTちゃんにお渡しします。』

S先生の手紙。
今となってはそこに書かれている言葉の真偽が確かめられないし、
そのままで書く事は俺には憚られるので、崩して書く。

Tちゃんへ
ご無沙汰しています。Sです。あれから大分経ったわねぇ。
もう大丈夫?怖い思いをしてなければいいのだけど…。
いけませんね、年をとると回りくどくなっちゃって。
今日はね、Tちゃんに謝りたくてお手紙を書いたの。
でも悪い事をした訳じゃ無いのよ。あの時はしょうがなかったの。でも…、ごめんなさいね。

あの日、Tちゃんがウチに来た時、先生本当は凄く怖かったの。
だってTちゃんが連れていたのは、とてもじゃ無いけど先生の手に負えなかったから。
だけどTちゃん怯えてたでしょう?だから先生が怖がっちゃいけないって、そう思ったの。
本当の事を言うとね、いくら手を差し伸べても見向きもされないって事もあるの。あの時は、運が良かったのね。

Tちゃん、本山での生活はどうだった? 少しでも気が紛れたかしら?
Tちゃんと会う度に、先生まだ駄目よって言ったでしょう?覚えてる?
このまま帰ったら酷い事になるって思ったの。
だから、Tちゃんみたいな若い子には退屈だとは分かってたんだけど、帰らせられなかったのね。
先生、毎日お祈りしたんだけど、中々何処かへ行ってくれなくて。

でも、もう大丈夫なはずよ。近くにいなくなったみたいだから。
でもねTちゃん、もし…もしもまた辛い思いをしたら、すぐに本山に行きなさい。
あそこなら多分Tちゃんの方が強くなれるから、中々手を出せないはずよ。

S先生の手紙の続き

最後にね、ちゃんと教えておかないといけない事があるの。
あまりにも辛かったら、仏様に身を委ねなさい。
もう辛い事しか無くなってしまった時には、心を決めなさい。
決してTちゃんを死なせたい訳じゃないのよ。
でもね、もしもまだ終っていないとしたら、Tちゃんにとっては辛い時間が終らないって事なの。

Tちゃんも本山で何人もお会いしたでしょう?
本当に悪いモノはね、ゆっくりと時間をかけて苦しめるの。決して終らせないの。
苦しんでる姿を見て、ニンマリとほくそ笑みたいのね。
悔しいけど、先生達の力が及ばなくて、目の前で苦しんでいても何もしてあげられない事もあるの。
あの人達も助けてあげたいけど…、どうにも出来ない事が多くて…。
先生何とかTちゃんだけは助けたくて手を尽くしたんだけど、正直自信が持てないの。
気配は感じないし、いなくなったとも思うけど、まだ安心しちゃ駄目。
安心して気を弛めるのを待っているかも知れないから。
いい?Tちゃん。決して安心しきっては駄目よ。
いつも気を付けて、怪しい場所には近付かず、余計な事はしないでおきなさい。
先生を信じて。ね?

嘘ばかりついてごめんなさい。
信じてって言う方が虫が良すぎるのは分かっています。
それでも、最後まで仏様にお願いしていた事は信じてね。
Tちゃんが健やかに毎日を過ごせるよう、いつも祈ってます。

S

読みながら、手紙を持つ手が震えているのが分かる。
気持ちの悪い汗もかいている。鼓動が早まる一方だ。
一体、どうすればいい?まだ…、終っていないのか?
急にアイツが何処かから見ているような気がしてきた。
もう、逃れられないんじゃないか?
もしかしたら、隠れてただけで、その気になればいつでも俺の目の前に現れる事が出来るんじゃないか?
一度疑い始めたらもうどうしようもない。全てが疑わしく思えてくる。
S先生は、ひょっとしたらアイツに苦しめられたんじゃないか?
だから、こんな手紙を遺してくれたんじゃないか?
結局…、何も変わっていないんじゃないか?
林は、ひょっとしたらアイツに付きまとわれてしまったんじゃないか?
一体アイツに何を囁かれたんだ。
俺とは違うもっと直接的な事を言われて…、おかしくなったんじゃないか?
S先生は、俺を心配させないように嘘をついてくれたけど、
『嘘をつかなければならないほど』の事だったのか…。
結局、それが分かってるから、S先生は最後まで心配してたんじゃないのか?
疑えば疑うほど混乱してくる。どうしたらいいのかまるで分からない。

ここまでしか…俺が知っている事はない。
二年半に渡り、今でも終ったかどうか定かではない話の全てだ。
結局、理由も分からないし、都合よく解決できたり、何かを知ってる人がすぐそばにいるなんて事は無かった。
何処から得たか定かではない知識が招いたものなのか、
あるいは、それが何かしらの因果関係にあったのか…。
俺には全く理解できないし、偶々としか言えない。
でも、偶々にしてはあまりにも辛すぎる。
果たして、ここまで苦しむような罪を犯したのだろうか?犯していないだろう?
だとしたら…何でなんだ?不公平過ぎるだろう。それが正直な気持ちだ。

俺に言える事があるとしたらこれだけだ。
「何かに取り憑かれたり狙われたり付きまとわれたりしたら、マジで洒落にならんことを改めて言っておく。
 最後まで、誰かが終ったって言ったとしても、気を抜いちゃ駄目だ」


そして…、最後の最後で申し訳ないが、俺には謝らなければいけない事があるんだ。
この話の中には小さな嘘が幾つもある。
これは多少なりとも分かり易くするためだったり、俺には分からない事もあっての事なので目をつぶって欲しい。
おかげで意味がよく分からない箇所も多かったと思う。合わせてお詫びとさせて欲しい。

ただ…、謝りたいのはそこじゃあない。
もっと、この話の成り立ちに関わる根本的な部分で俺は嘘をついている。
気付かなかったと思うし、気付かれないように気を付けた。
そうしなければ伝わらないと思ったから。
矛盾を感じる事もあるだろう。がっかりされてしまうかもしれない…。
でも、この話を誰かに知って欲しかった。

 


俺は○○だよ。

…今更悔やんでも悔やみきれない。

 

○感想

言わずと知れた名作!

どうすりゃいいんだよ!って叫びたくなるようなバッドエンドの怖い話でした。

最後の一行で恐怖を倍増させる鮮やかなどんでん返し、流石です。

ああ、首のニキビを潰してみたい。

 

教訓:変なことするな。