RETRO少年の懐古録

ミステリー、ホラー、サイエンス、サスペンス、SF、怖い話……

【ワイ君の話】ワイ君が人生逆転を決めた日

ニート「ワイ」君の話……

 

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ワイは、身長170台……いっちょ前にあった。だが……

 

不潔感漂うくせっ毛……

ダサい眼鏡……

汚れた顔はいつも脂ぎっていて、まるで焦げた目玉焼きのよう。

漂うワキガは、近くの人の顔をしかめさせる。

 

もちろん、恋愛経験なんて皆無だ。

 女の子と会話したことはあるが、気味の悪いにやけ顔と、すぐに赤面する癖……

思い出したくもないが、相当不快なものだったはずだ。

 

1日1回は自分を慰める悪い習慣を改められず、いつもむさくるしい雰囲気を保っていたと思う

 

・ただ飯喰らい

・ぐうたら

・Coach potato

・落ちこぼれ

・穀つぶし

・人間のクズ

 ……この世のありとあらゆる罵詈雑言は、ワイを表す。

 

 ワイは、裕福な家庭で生まれ育った。

 何代も続く名家の血筋……

 

 父も祖父も、優秀な商売人。

 すなわち、人に使われる側ではなく、人を使う側の人間だ。

  ワイは、お金に困ったことはない。

  いつも、クリスマスイブの夜のようなごちそうが並び、おやつも豪華で、高価だった。

 長期休暇には、必ず旅行へ連れて行ってもらい、楽しい思いをしていた。

 

 怒られたことなど一度もない。

 いつも、ねだった玩具を買ってもらえて、飽きたらまた新しいものを買ってくれる。

 今も、実家の倉庫には、哀しい玩具がたくさんある。

 

 ……ワイが、こんな風に転落していくのは、

 生まれた瞬間から決まっていたのかもしれない。

 

 中学1年の冬、予期せず、学力診断テストで1番を取った。

  勉強に燃え始めた。

 一流の進学校へ入って、東大へ行って、大量にお金を稼ぐこと。

 それが夢だった。

 

 しかし、それから、狂い始める。

 親を、友人を、先生を、周りの人間を見下す癖がついたのである。

 

 「俺は天才だ」

 「気安く俺に話しかけるな」

  言葉にはしなくとも、そんなオーラを放っていた。

 段々、人間性が乱れていくことに、当時は気づけなかった。

 

  第一志望だった高校へ進学する。

 一流進学校に違いないのに、そこでも周りを見下した。

 しかし……

 新入生テストの順位は、全体の150位(300人中)

 「俺はどこへ行っても一位なんだ」

 「150位になんているわけはない」

 

  現実から目を背け、戦おうとはしなかった。

 根拠のない、井の中の蛙のプライドが、人生を止めた。

 頑固な、融通の利かない性格が、どんどん人生を壊していく。

 しかし当時のワイは、そんな間違いを間違いと認める余裕もなかった。

 

 青春なんて皆無。

 部活には入ったが、人間性に欠如していたワイは、顧問や仲間とうまくやれず、退部した。

 自らの非を顧みようとしない阿保が、まともな人生を歩めるわけはない。

 

 大学受験は大失敗。

 誰でも、願書さえ出せば入れるような私立大学に進学した。

 底辺大学に行くことが許せなかった。

 しかし、浪人する意味もない。

 

 ここで、ワイの人生は一度終わっている。

 「心臓は動いているけど、死んでいる。」

 そんな感覚だ。

  

 ワイが、すべての過ちに気づけたのは、大学4年生だった。

 そこへ来てやっと、自分が、全く未来のことを考えていない社会不適合者だと気づいたのだった。

 就職する意思がわかず、アルバイトをしても続かず、それからずっと引きこもってしまった。

 金に糸目を付けない家庭であるため、ニートの一匹や二匹、食い扶持には困らないのだろう。

 

 ワイは親を恨んでいた。

 あらゆる苦しみから遠ざけ、楽しい想いをさせてくれた、父母。

 彼らは、社会でお金を稼ぐことの辛さを知っていながらも、転落していくワイを、指をくわえてみていただけとしか思えなかった。

 しかし、毒親と分かっていても、甘え癖を辞められなかった。

 

 金がいくらあろうと、引きこもりがいたら、邪魔である。

 

  父母はワイを咎めることもあったが、ワイはそのたびに……

 「てめえらの教育の結果こうなったんだろうが!!!」

 「てめえで産んだんだから責任もって最後まで育てろクソが!!!」

 「邪魔ならてめえで殺せよ。てめえで産んだんだからな!!!」

 

 思い出して、身震いがする。

 ワイの親は毒親かもしれないが、かけがえのないお父さん、お母さんではないか……

 

 実はワイには、姉と弟がいる。

 どちらも有名難関大学を出ていて、立派に一人立ちしている。

 同じ兄弟でこうも違うのかと……

 

 同級生もみな、立派に独立している。

 「元学年一位のワイは…何をやってるんだろう…」

 

 成人式の日、俺は有名大学に進学していて、有名大学院を狙っていると嘘をついた。

 現状がどうであれ、ワイは「元」学年1位……

 先生も同級生も、ワイの変貌を楽しみにしていたのである。

 しかし、真実を述べられなかった。

 

 ワイは哀しみを抑圧するために、AV、アニメ、映画を見まくり、ネットの世界にのめり込んでいたが……一歩元の世界へ戻れば、虚しくなる。

  いよいよ、現実逃避が深刻化した。

 

 そして、自殺を考える……

  だが、ここでも弱さが出た。

 

 首をくくったが…意識が落ちる寸前の恐怖に耐えられず、断念……

 早朝、真冬の川に飛び込んだが死ねず、ずぶ濡れになって、だれもいない田舎道で一人、子供のように泣いた。断念……

 一瞬で即死できるような、毒ガスを作る方法を知り、材料を集めたが、怖くて実行に移れない。断念……

 水を大量に飲み、水中毒による自殺を図ったが、下痢に苦しみ眠れなくなっただけ。断念……

 

 甘さゆえに……死ぬことすら頑張れなかった。

 

 一度、とある薬品を、致死量以上摂取したが、怖くて中途半端に止めてしまい、中毒を起こして2、3日、地獄の苦しみを味わったことがある。

 

 脳が破裂するような頭の痛み……

 焼けつくような胸の不快感……

 切り裂くような腹痛……

 手足のしびれ……

 

 そんな死の苦しみの中、意識を失ったワイは、夢を見た。

 

 ……

 そこは、昔の生家だった。

 若い姿の、父、母、祖父、祖母、姉、弟

 そして幼い俺がいた。

  

 俺は、涙を浮かべ、嗚咽しながら、父親に手をついた。

 「ワイ君は…今から約20年後…人生に敗北し、自殺という選択を選んでしまうんです!」

  俺は泣いた。声をあげて泣いた。

 「そうか……」

 悲しげに父がつぶやいたのを覚えている。

 ……

 

 目が覚めると、そこは現実……

 自室のベッドの上……

 中毒の症状は無くなっていた。

 

 「ワイは…過去を変えに向かったが…失敗したんだ…」

 ワイはそう悟った。

 布団を握りしめ、泣いた。

 

 しかし……

  「過去への忘れ物があるなら、未来に取りに行けばいい。」

 そんな考えが、急に頭の中に光をもたらした。

 

 「そうか!未来なら変えられる!」

  俺はその日、その瞬間から、落ちこぼれを辞めた…

 

 ……

 ……

 ……

 

 現在ワイ君は、どうやっているのかは知りませんが、頑張って社会の一端を担っています。

 昔の、ワイ君みたいな人は多いでしょう。私も、どん底に落ちた時期がありました。

 どんな苦しい過去があったのかは分かりませんが、相当苦しい過去でしょう。

 あなたが苦しいなら、それは苦しいんです。

 

 前を向いていきましょう。

 生き方に正解はあるかもしれませんが、失敗はないというのが、私の持論です。