RETRO少年の懐古録

ミステリー、ホラー、サイエンス、サスペンス、SF、怖い話……

【語り】漢検2級物語

 いつも私を可愛がってくれた、親戚のじいさんがいた

 

 じいさんは、その老後を、自分を磨くことに費やした。70代になっても、80代になっても、将来の夢を熱く語る漢だった。

 「わしは今、漢検1級を目指してるんだよ。わしらの若い頃にはなかったからね。」

 85歳にして、明確な目標がある。素晴らしいことだ。

 見た目は老人でも、心は冒険心溢れる子供のよう……

 

 しかし……そんな人にも、運命は容赦しない。

 

 ある日突然、じいさんは癌に殺された。

 見つかった時には、すでに手遅れだったという。

 じいさんに癌が見つかるという連絡が入ったのと、亡くなったという連絡が入ったのは、ほぼ同時期だった。

 

 「嘘だろ……じいさん……?」

 

 まだ青二才だった私は、放心状態で、葬儀場に足を運んでいた。

 

 「……じいさん……私だよ……目を開けてよ……」

 棺の小窓を通して見た、じいさんの死に顔は、苦しみに満ち溢れていた。

 

 おそらく、癌の苦しみ……というより、夢半ばに散らざるを得なくなったことに対する、無念の苦しみだと感じた。

 

 「ん?」

 

 じいさんへの供え物の中に、漢検2級の教本があった。

 それを手に取り、ペラペラとめくる。

  ほとんど手を付けられていない……新品だった。花と一緒に、棺の中に入れるつもりなのだろう。

 

 その時、亡くなったじいさんの奥さんに、声をかけられた。

 「それ、持って行っていいよ……」

 

 今でも手元にある、じいさんの大切な形見……

 

 じいさんは1級を目指すと言っていたが、いきなりは無理だと分かり、2級から挑戦しようとしたのだろう。

 

 中学2年時に、漢検の3級を取得したっきり、漢字練習なんかしていなかったが……何かを感じた私は、漢検の2級を取得した。

 

 じいさんの代わりに、夢を叶えたってことでいいのだろうか?

 

 2級は、常用漢字が範囲であるが、それ以降は別世界となる。

 取り敢えず、ここで漢字の勉強は一区切りにする。